第210話 これが普通なの?

 魔道具店から出たボクたちは、再び無言で馬車へと戻った。

 よし、気持ちを切り替えよう。あとは今日、最後に訪れることになっている、お酒を売っているお店だけだ。


「あとはお酒を売っている場所だけだね。どんなお酒が売っているのか楽しみだよ」

「そうだなぁ……」


 いつもはお酒と聞けばテンションがあがるデニス親方だったが、どうも微妙な顔をしている。

 これまでの流れからして、あまり期待はできないと思っているのかもしれない。


「トマスさん、どんな種類のお酒が売っているのですか?」

「ワインとウイスキーになりますね。それぞれに色んな種類がありますよ」

「産地が違うとかですか?」

「ええ、その通りです。何年熟成させたのかでも違いますね」

「なるほどなぁ……」


 ちょっと張りのある声になったデニス親方。ワインとウイスキーの二種類しかないが、そこからは細分化されているようである。それならデニス親方が満足するお酒もあるかもしれないね。


 少し期待を膨らませつつ、お店へとやって来た。特に試飲とかはできないようで、併設された料理店とかはないようである。

 味を確認せずに買うのはちょっと勇気がいるな。鑑定の魔道具を使えば、それなりにどんなお酒なのかは分かると思うけどね。


 さっそくお店の中に入ってお酒を確認する。ノースウエストで売りに出しているお酒と比べないとね。ここで売られていない、その他のお酒については、ワインとウイスキーの値段を参考にすることにしよう。


 当然だけど、お店の中にはズラリと商品が並んでいた。奥の方にはタルで保存されているお酒もあるみたいだ。

 デニス親方がさっそくお酒の確認を始めた。アルフレッド先生とニャーゴさんも、興味深そうな感じで手に取って眺めている。


「フェロール、ボクも見てみたいんだけど」

「ミュ」

「それではどれになさいますか?」

「まずは一番安いワインにしようかな?」

「分かりました。こちらになります」


 フェロールが取ってくれたワインを確認する。確かに安いな。金銭感覚にあまり自信がないボクでも、ハッキリと分かるほどの安さである。


 そしてやはり、品質は値段相応のようである。

 鑑定の魔道具に映し出された「薄い」って何よ。味が薄いってこと? もしかして、水増ししてる!?


「……フェロール、これ、どう思う?」

「……表示された通りなのでしょう。おそらく、水で薄めてあるのではないかと思います」

「ミュ……」


 コソコソとフェロールと話す。やっぱりそうなのか。まさか水で薄めたワインを提供しているとは思わなかった。これが、普通なのかな?

 思わずトマスさんや、デニス親方の方を見た。みんな真剣にお酒を見ているので、怪しげなお酒は、ボクが今、手に持っているものだけなのかもしれない。


「どうした、坊主?」

「いやちょっと、衝撃的な物を見てしまって……」

「俺にも見せてみろ」


 持っていたお酒をデニス親方に手渡した。そのころには、ボクたちの妙な動きに気がついた、アルフレッド先生とニャーゴさんも近くまできていた。

 そしてそのお酒を見て、デニス親方がキッチリとボクとお酒を二度見した。


「……冗談だろ? 水で薄めたっていうのかよ」

「やっぱりそうなんだ?」

「間違いないと思うぜ」

「どうしたのですか?」


 アルフレッド先生が心配そうな顔で聞いてきたので、「この格安のワインが水で薄められているのではないか説」を話した。もちろんニャーゴさんにもである。

 トマスさんは気がついていないみたいだな。色々と思うところが出てくるかもしれないし、黙っておこう。

 もちろん、店員さんに聞かれないように、コソコソと話しているぞ。


「な、なるほど、ちょっと予想外でしたね」

「そ、そうなると、最安値の価格は参考にならないというわけですね」


 引きつった顔になる、アルフレッド先生とニャーゴさん。デニス親方はとても渋い顔をしていた。

 お酒を神のようにあがめるドワーフ族にとっては、許せないんだろうな。お酒への冒涜だと思っているのかもしれない。


 こりゃ、このお店でお酒を買うことにはならないだろうな。値段だけ調べることにしよう。そしてお酒は、ノースウエストから持ってきた物を飲むようにしよう。

 宿の部屋でお酒を飲んではダメだとか言われないよね?


「アルフレッド先生たちが見ていたお酒はどうでしたか?」

「私が見たお酒は問題なさそうでしたよ。ただ、ノースウエストのお酒と比べると、品質が悪いですね」

「私も同じように感じましたね。このお店にはノースウエストで売られているほどの高品質のお酒はないみたいです」

「それじゃ、値段の参考にはならないということですか?」


 ボクの質問に、顔を見合わせるアルフレッド先生とニャーゴさん。どうやら参考にならないみたいだな。そうでなければ、すぐに答えてくれるはずである。


「えっと、難しい質問ですね。ここのお酒についている値段を参考にして、ノースウエストで売られているお酒の値段を決めるとなると、ものすごく高い値段をつけることになりますね」

「アルフレッドさんの言う通りですね。そうなると、ちょっと手が出しにくくなるかもしれません」

「それは困りますね……」

「ミュ……」




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