第209話 感性の違い

 昼食を食べ終わると、そこからはトマスさんの案内で、魔道具とお酒を売っているお店へ行くことになった。

 デニス親方の足取りがちょっとウキウキとしたものになっているが、お酒を売っているお店へ行くのは最後である。始めにそこへ連れて行ったら、ずっとそこに居座ることになりそうだからね。それではお店の人に迷惑だろう。


 再び大通りに戻ってきたボクたちは、トマスさんおすすめの魔道具店へと向かう。小さいお店だが、品質はとてもいいそうである。貴族街にあるお店で売っている魔道具と、遜色ないそうだ。これは楽しみだね。


 お店に入るとそこにはランプの魔道具がたくさん並んでいた。どれも形が違うみたいだね。選ぶだけでも楽しむことができそうだ。

 あとは火をつける魔道具に、風を送り出す魔道具。鑑定の魔道具もあるみたいだ。


「色んな魔道具がありますね。値段は……なるほど」

「リディル様、値段の覚え書きを取っておきましょうか?」

「そうだね、そうしよう。これからノースウエストで魔道具を売りに出すときの参考になると思う」


 すぐにフェロールがメモを取ってくれた。覚えられるとは思うけど、メモがあった方が確実だからね。自分の能力を過信してはいけないのだ。

 魔道具を手に取って確認していると、デニス親方も気になったようだ。同じように手に取っては元の位置へと戻し、また別の魔道具を手に取っていた。


「どう? デニス親方」

「うーん、正直に言わせてもらうと微妙だな。外側だけ色々と変えてもなぁ」


 苦笑いするデニス親方。どうやらデニス親方は中身にしか興味がないみたいだ。動きさえすれば見た目はどうでもいい。そんな風に思っているような気がする。

 そんなデニス親方の意見を聞いて苦笑いしているのはアルフレッド先生だ。アルフレッド先生は外側の装飾も含めての魔道具だと思っているんだろうな。


 これは種族による考え方の違いだと思う。ドワーフ族に比べて、エルフ族は美的感覚に優れているみたいだからね。身につけている服装も、ハッとするような美しさを持ち合わせている。


 その一方でドワーフ族は、丈夫さ最優先。汚れてもお構いなし。洗ってしまえば大丈夫。そんな感じである。ルミ姉さんも似たようなところがあるから、間違ってはないんじゃないかな? アルフレッド先生の前ではおしゃれに気をつかっているみたいだけど。


「手始めにノースウエストで売りに出すのは、ここで売られている魔道具がよさそうだね。よく売れるから、こんなにたくさんの種類があるんだろうし」

「それがよろしいかと思います。どれも日常生活でよく使うものばかりですからね。魔道具の使い方を学ぶ観点からもよいのではないでしょうか?」

「なるほど、そういう考え方もあるね」


 ノースウエストに住んでいる人たちのほとんどは魔道具を使ったことがないはずだ。まずは魔道具がどのような物であるか、というところから始める必要があるだろう。

 みんなが魔道具を確認している中で、ボクは鑑定の魔道具を手に取った。


 これは以前に作ったことがある魔道具だ。だから使い方だけでなく、どんな物なのかもよく理解しているぞ。

 ボタンを押して、虫眼鏡型の魔道具を起動させる。この中央のガラス部分に透かして見ることで、それが一体なんであるかを知ることができるのだ。


「んん?」

「どうしましたか、リディルくん?」

「えっと、なんだかよく見えないなと思いまして」


 何度かすぐ隣に置いてあるランプの魔道具を透かして見るけど、『ランプの魔道具』という表記以外には何も見えない。ボクが作ったことのある鑑定の魔道具なら、もう少し詳しく、「魔石の残量がどのくらい」とか、「使われている素材が何か」までは表記されていたはずなのだが。

 思わず壊してしまったかと思い、おそるおそる魔道具を確認する。


「坊主、貸してみな」

「もしかして、壊しちゃったかな?」


 ちょっと震える手でデニス親方にその魔道具を渡した。すぐにルーペで確認したデニス親方だったが、一つため息をついただけで、それをボクの手に戻した。


「壊れちゃいねぇ。だが、そいつはものすごく粗悪な品だな」


 声が小さい。きっと店員さんに聞こえないようにしているのだろう。自然とボクの声も小さくなる。アルフレッド先生も聞き耳を立てているかのように、耳をこちらへと向けている。


「どういうこと?」

「坊主に見えた物がその魔道具の限界ということだ」

「え、商品名しか見えなかったよ?」


 うなずくデニス親方。どうやらそういうことらしい。つまり、この鑑定の魔道具では、「その商品がなんであるか」だけしか分からないということである。

 これではその商品が本物かどうかしか分からないな。きっと不具合があったとしても、それを発見することはできないだろう。


「……すごく微妙ですね」

「そうだな。それでもその値段で売られているんだ。きっと買うやつがいるんだろう」


 デニス親方の目がちょっとうつろになっているな。どうやら人族の間で売られている魔道具の性能を見て、「よくこんな低品質の物を売っているな」と思っているに違いない。

 ボクもそう思う。でもこうして堂々と売られているところを見ると、これが人族の社会での現状なのだろう。受け入れるしかないな。

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