第208話 トマスさんと合流する

 このまま魔道具のお店にも行こうかと思ったけど、どうやらそろそろお昼の時間みたいだね。フェロールが日の高さを確認している。


「リディル様、そろそろお昼の時間のようです」

「そうみたいだね。それじゃ、トマスさんが言っていた料理店へ向かうことにしよう。場所は大丈夫だよね?」

「問題ありませんよ。ここからそれほど離れておりませんので、すぐに到着できると思います」


 フェロールにうなずきを返したところで、馬車の進む方向を変えてもらう。今、御者台に座って馬車を動かしているのは、カリサ伯爵家の人である。

 どうやらボクたちが領都のどこの宿に泊まっているのかを、把握しておきたいみたいだね。

 監視役と、領都の案内役もかねて、その人を貸してくれたようである。


 馬車はそのまま大通りを進むと、一本の道へと入って行った。そこはちょっとした裏通りになっているみたいで、その通りにはたくさんの飲食店が並んでいるようだった。

 お昼が近いこともあり、昼食を求めて人が集まりつつあるようだ。


 これ以上、遅くならなくてよかった。人が多くて、馬車での移動ができなくなるところだったぞ。

 裏通りを進んで行くと、見慣れた馬車が見えてきた。あれはトマスさんの乗っていた馬車だね。どうやらトマスさんはすでに到着しているようである。待たせちゃったかな?


 トマスさんの馬車の隣に停車する。すぐにフェロールが扉を少しだけ開けて左右を確認すると、ようやく扉が完全に開かれた。どうやら特に問題はないみたいだ。

 フェロールに続いてアルフレッド先生、デニス親方、ニャーゴさんが馬車から降りる。ボクとミューは最後だ。

 みんな警戒しているからなんだろうけど、ちょっと過保護すぎるんじゃないかな?


「トマスさん、お待たせしてしまってすみません」


 ボクが馬車から降りると、すでにトマスさんたちの姿があった。どうやらトマスさんたちからも、ボクたちが乗っている馬車が見えたみたいだね。


「いえいえ、それほど待ってはおりませんよ。ちゃんと予約を入れておきましたので、いつでもお店へ入ることができます。本日の宿につきましては、昼食のときに話しましょう」

「分かりました。それで問題ありませんよ」


 トマスさんに連れられて、さっそく中へと入る。さきほどから、店の外まで肉とパンの焼けるいい匂いがしていだ。これは期待できそうだぞ。ボクの腕の中にいるミューも、先ほどから鼻をヒクヒクとさせていた。


 案内されたのは奥の部屋だった。どうやらお金を持っている人が利用するための場所みたいだね。ついたてやらなんやらがあって、外から中が見えなくなっているみたいだ。

 さすがに音までは遮ることができなかったみたいだけどね。


 おそらくこの部屋が料理店の中で一番、豪華な部屋なのだろう。そう考えると、どうやらこのお店には貴族がくることはないみたいだな。もしかすると、貴族専門の食事を食べるところがあるのかもしれない。

 さっそくみんなでお昼を注文する。デニス親方はもちろんお酒を頼んでいたぞ。


「トマスさん、宿はどの辺りにあるのですか?」

「大通りから少し離れたところにある宿になります。貴族が利用することもある宿ですので、安全性には問題ありませんよ」

「それなら安心して泊まることができそうですね」


 フェロールもニッコリだろう。ついでなので、トマスさんがどこであの解毒剤を購入したのかも聞いてみた。

 やはり予定通り、貴族が利用する錬金術の道具を置いているお店で購入したらしい。


「そこで売っている錬金術の道具と、大通りで見かけた物とでは大きく違うみたいですね」

「それが、そうでもないようでして。少しは品質がよくなるのですが、リディル様が作った錬金術の道具のように、劇的な違いはありませんよ。私は少しでもよい物を、と思ってそちらで購入しましたけどね」


 それを聞いてニャーゴさんの顔が険しくなっていた。きっと人族の錬金術の道具に対する技術力の低さがさらに気になっているのだろう。

 そして錬金術を得意とする者として、品質のあまりよくない物が出回っていることがひっかかっているのかもしれない。


 ケットシー族が人族の前に姿を見せることができればよかったんだけどね。そうすれば、錬金術も飛躍的に向上したことだろう。

 だが現状では、ケットシー族が人族に見つかれば、見世物小屋行きだろうな。


「領都でもそうなのですか。それでは王都でもあまり変わらないでしょうね」

「おそらくそう思います。リディル様たちが作る錬金術の道具は、まさに神の道具ですよ」

「トマスさん、それはちょっと言い過ぎなような気がしますが、そうじゃないのですよね?」

「ええ、もちろん。冗談ではありませんよ。私は本気でそう思っています」


 辺境の地で神の道具が売られている。これは予想以上に人が集まってくるかもしれないな。うまく管理することができればいいだけど。

 必要な人にだけ、錬金術の道具を売る方法がどこかにないかな。やっぱり限定商品にして売りに出すしかないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る