第205話 ノースウエストの加護

 あいさつはそれくらいにして、すぐにローランドくんには部屋へと戻ってもらった。

 これ以上は体に悪いかもしれない。ローランドくんの精神状態は元気そうだけど、体はダメだろう。


 ずっと寝ていたみたいだし、食べ物も十分に食べていないみたいだったし、体はボロボロのはずだ。

 ローランドくんと夫人が戻って行ったところで、先ほどの話を再開した。呪いの儀式についての話である。


「アルフレッド先生、呪いの儀式って、やり方を知っていればだれでもできるのですか?」

「もちろんですよ。ですが先ほども言いましたが、かなりの危険を伴います。下手すると自分に呪いが降りかかってくるだけではなくて、命まで落としかねません」

「それは……怖いですね」


 一体、何にお願いして呪いをかけてもらうのだろうか。ローランドくんの命に関わるくらいの呪いだったのだから、かなり強い呪いだと思われる。

 もしかすると、何人もの人たちがその儀式を行ったのかもしれない。そう思うと、ブルリと体が震えた。

 何が目的だったのだろうか?


「大丈夫ですよ、リディルくん。ノースウエストには呪いを跳ね返す特殊な結界が張られていますからね」

「そうなのですか? 知りませんでした」


 いつの間にそんなものが。そう思っていたのだが、デニス親方とニャーゴさん、ミューが微妙な顔をしてボクの方を見ていた。

 そうか、ノースウエストには世界樹があるんだった。おそらくそのおかげで、呪いが届かないようになっているのだろう。


 世界樹はまだまだ大きくなるみたいだし、そうなれば、もっと広範囲まで、呪いを防ぐことができるようになるかもしれない。

 隣町のトマスさんのところまで、呪いを防ぐことができるようになればいいんだけど。欲を言えば、今いるこの領都もカバーしてもらえるとありがたい。


「ノースウエストはリディル様が統治するようになってから、すっかり変わってしまったようですね。私の町もその恩恵にあずかりたいところです」

「大丈夫ですよ。トマスさんの町とノースウエストはしっかりと整備された道でつながっていますからね。行き来するのも簡単です。何かあれば、すぐに駆けつけますよ」

「それはありがたい話です。何ができるかは分かりませんが、私にできることがあればなんでも言って下さい。協力させていただきますよ」


 ちょっと困り顔のトマスさん。もしかすると、最近隣町は発展が鈍っているのかもしれないな。トマスさんもそれについて、不安を感じているのかもしれない。

 ノースウエストにとって、隣町は大事な取引先だからね。ノースウエストと一緒に発展していってもらわないと困るのだ。

 そのうち、カリサ伯爵領の領都も巻き込むことができたらいいな。


「もちろんですよ。ノースウエストだけでは物の流れも、お金の流れも、人の流れも作れませんからね。期待してます」

「それでは私の町からも、物やお金、人が動いていくように、もっと道を整備しなければなりませんね」


 ううむ、と考え込むトマスさん。本当は以前からやりたかったんだろうけど、きっと実行できずにいたんじゃないかな?

 今回、ノースウエストから隣町までの道を整備したんだけど、すごく大変だった。みんなで精霊魔法を使って工事をしたにもかかわらずだ。


 それを人の力だけでやろうと思ったら、ものすごい時間と労力、そしてお金がかかるに違いない。

 ここはボクたち、ノースウエストの土木メンバーの出番だな。

 そう思って、アルフレッド先生、デニス親方、ニャーゴさんに目を向けるとうなずかれた。


「ミュ!」

「そうだね。そうしよう。トマスさん、よかったらノースウエストからも、道の整備をお手伝いさせていただきますよ」

「いいのですか?」

「もちろんですよ。道が領都までつながれば、ノースウエストの商品を領都まで売りに行くことができるかもしれませんからね」

「それではよろしくお願いいたします。私もできる限りのことをやらせていただきますので」


 トマスさんと握手を交わす。これで道の整備の話は締結されたことになる。あとはトマスさんに話すだけで、隣町から伸びる道を整備しても大丈夫だろう。

 当面の目標は領都までの道をきれいにすること。そして領都でノースウエストのお酒を売ることである。


 その日の夜はローランドくんの回復を祝うかのように、豪華だけど、消化にいいものがそろっている夕食だった。

 こんな料理もあるのかとすごく勉強になった。ノースウエストで病気になった人が現れたときは、ぜひ食べさせてあげたいところだね。料理店に提案しておこうかな。


 ローランドくんは失った体力を取り戻すかのように、モリモリと夕食を食べていた。これならもう大丈夫そうだね。

 夫人がちょっと困ったような、それでも優しい目をローランドくんに向けていた。


 ちょっとうらやましいな。今のボクは十分みんなに優しくしてもらっている。ぜいたくな悩みだと思うけど、それでもやっぱりお母様が生きていたらって思っちゃう。






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