第204話 ローランドくんと話をする

 そうして明日の予定を話していると、サロンにだれか来たようだ。使用人たちが何やら入り口で話をしている。

 アルフレッド先生たちと顔を見合わせていると、サロンの扉が開いた。そしてそこから、カリサ伯爵夫人に連れられたローランドくんがやって来た。


 おおう、お礼を言いたいってカリサ伯爵からは聞いていたけど、まさかこっちにくるとは思わなかった。

 呼んでくれたらボクの方からローランドくんの部屋へ行ったのに。


「えっと、あの……」


 すぐに席をあけると、夫人に首を左右に振られた。


「リディル王子殿下、そのまま座ったままで構いません。私たちは臣下なのですから」

「そんなわけには行きません。ローランドくんはまだ病み上がりなのですから。それに、ボクは辺境へ追いやられた王子です。ボクに敬意を払う必要はありませんよ」

「何をおっしゃるのですか。リディル王子殿下は息子の命を救って下さった恩人なのです。そのようなことはありません」


 夫人にそう強い口調で言われて、どうしようかと思っていると、フェロールがイスを戻して、ボクを座らせた。どうやらボクが座らないと話が進まないと判断したようである。

 確かに二人とも、動きが止まっているからね。ローランドくんに無理をさせないためにも、一刻も早く座ってもらわないと。


「体調はよさそうですね」

「はい。ありがとうございます。いただいた魔法薬がとてもよく効いたようです」


 ローランドくんの言葉を聞いて、うなずくニャーゴさん。

 さすがはニャーゴさんが作った魔法薬だね。体力を回復する効果だけで、ここまで元気になるとは。ローランドくんの足取りもしっかりとしている。

 夫人もそれでローランドくんをここへ連れて行くことにしたのだろう。


「改めまして、ローランド・カリサです。この度は命を助けていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 ローランドくんと夫人がそろって頭を下げた。ローランドくんのほおはやせているけど、顔色はいい。これならあとはしっかりとご飯を食べて、運動をすれば、すぐに元通りの体に戻ると思う。


「リディルです。魔法薬が間に合ってよかった。それもこれも、トマスさんがボクに知らせてくれたからですね」

「いえ、私はそんな……」

「トマスさんも、ありがとうございます」

「ありがとうございます。おかげで息子に命を救うことができましたわ」


 二人からお礼を言われて恐縮するトマスさん。まさか貴族からお礼を言われるとは思ってもみなかったようである。

 確かに普通は言わないよね。どうやらカリサ伯爵家は庶民にもちゃんと敬意を払う家系のようである。他の貴族からすると、「甘い」って思われるのかもしれないけどね。


「ニャーゴさんが言っていましたが、体力回復薬は一時的に体力を回復させただけにすぎません。ですから、これからしっかりと好き嫌いせずに食事を食べて、できる範囲で運動して、体力を取り戻して下さいね」

「そのつもりです」


 苦笑いしているローランドくん。そうだよね、まだ子供だもんね。好き嫌いの一つや二つ、あるはずだ。ボクはもうそんなことはないけどね。これも前世の記憶が影響しているのだろう。


「あの、リディル様、私に敬語は必要ありませんので、普通に話していただければと思います」

「それならローランドくんも普通に話していいよ。ボクは今、七歳なんだけど、ローランドくんは?」

「えっと……」


 本当に普通に話していいのか分からなかったのだろう。夫人に戸惑うような視線を向けるローランドくん。

 夫人は口元に笑みを浮かべてうなずいた。


「私は、いや、俺もリディル様と同じ七歳です」

「それならお友達になれそうだね」

「そうなると、うれしい」


 ニパッと笑顔を浮かべるローランドくん。もしかして、同年代の友達はこれまでいなかったのかもしれないね。

 なんと言っても伯爵家だからね。他の貴族の子供たちも遠慮したのだろう。


「あの、いつから体調が悪くなったの?」

「十日くらい前かな? そのときは、なんだか体がだるいな、くらいだったんだけど、だんだんと歩けなくなってきて」


 そのときのことを思い出したのか、ローランドくんがちょっと震えている。

 まだ聞くのが早かったかな。でもいつかは聞いておく必要があったのも確かである。


「何か要因になりそうなことはありませんでしたか?」


 気になったのだろう。アルフレッド先生がそう尋ねた。

 思い出そうと首をひねるローランドくん。だが、思い当たることはないようだ。それを見て、アルフレッド先生がうなずいている。何か分かったのかもしれない。


「アルフレッド先生?」

「もしかすると、儀式を使って呪いをかけられたのかもしれませんね」

「儀式って、いけにえをささげたりとかですか?」

「そうです。よく知ってましたね。危険なので、呪いの儀式をする人は、まずいないはずなんですけど」


 首をかしげるアルフレッド先生。

 呪いの儀式は危険なのか。失敗すると、自分に呪いが跳ね返ってきたりするのかもしれない。

 ボクが作った上級解毒剤も、呪いを跳ね返す力があったからね。今ごろ、ローランドくんに呪いをかけた人は、大変な目に遭っているかもしれないな。自業自得だけど。

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