第203話 明日の予定をみんなで決める

 ノースウエストへ戻ってからの方針が決まったところで、残りの時間はゆっくりと過ごさせてもらった。

 本当はすぐにでも領都の見学にも行きたかったのだが、それは明日以降に持ち越すことにした。


 今日、領都の見学へ行けば、明日にはノースウエストへ向けて帰ることができたかもしれない。でも、ローランドくんの回復を待つことになったからね。急ぐ必要がなくなってしまった。


 ノースウエストのことは気になるけど、せっかく領都まで足を伸ばしたのだ。今後のノースウエストの発展へ向けて、領都の見学に行くのは悪くない選択肢だと思う。


「明日、領都を見学したいと思っているのですが、どう思いますか?」

「いい考えだと思いますよ。しっかり学んで、ノースウエストの発展に生かしていきましょう」

「賛成だ。何か面白い物があるかもしれねぇからな」

「さすがはリディル様ですね。もうすでにノースウエストのさらなる発展を見据えているとは」

「ミュ」


 反対する人はいないみたいだね。それなら明日は領都の見学に決まりだ。二日続けてカリサ伯爵家に泊まるのはなんか悪い気がするので、明日はどこか宿屋を見つけて、そこに宿泊したいところだね。

 ノースウエストに建設している宿屋と比較することで、何か改善点が見つかるかもしれない。ますます楽しみになってきたぞ。


 そこからはトマスさんを交えて、領都のどこを見学するかについての話し合いになった。劇場や図書館があるみたいだったが、それらはまだパスすることにした。

 今のノースウエストにはどちらもまだ早い施設だからね。もっと娯楽が必要になったときに、改めて領都を見学させてもらうことにしよう。


「宿屋に市場に大通り、それから大浴場か。それに加えて俺は酒蔵も提案するぜ」

「なるほど、新しいお酒があるかもしれないからね。なくてもお酒の種類が分かれば、ノースウエストからのお酒を、売りに出しやすくなるかもしれない」

「坊主、ノースウエストの酒をこれ以上、売りに出すのはやめた方がいいんじゃないのか?」


 すごく微妙な顔をしたデニス親方がそう提案してきた。どうやらこれ以上、ノースウエストからお酒が外へと流出するのは避けたいようである。

 あれだけ作っているのだから、「少しくらいはいいじゃない」と思うのだが、ドワーフ的にはあのお酒の生産量でも不安なようである。どんだけ飲むんだよ。

 ……もしかして、さらにドワーフが増える予定でもあるのかな?


「デニス親方、他にお友達がくるとかいう話が出ていたりする?」

「……」


 サッと目をそらせたデニス親方。

 出てるんだ。

 それなら確かにお酒を確保しておかないといけないな。ノースウエストにドワーフを滞在させるためには、お酒の力を借りる必要があるのだ。間違いない。


 それなら魔道具もなんとかなるかな、と思ったけど、そういえばドワーフは同じ物を作るのが嫌いだったね。それじゃ、ドワーフたちの力を借りるのは難しそうだ。

 一品物や建物の建築なら、いくらでも力を貸してくれるんだけどね。なるべく嫌がることはやらせたくないというのが、ボクの中での心情である。


「同じ物を作り続けるのが好きなドワーフさんがいてくれたらよかったのに」

「いるぞ」

「え、そうなの!?」

「ああ。今度ノースウエストにくるドワーフの中に、俺の親戚が混じっていてな。そいつはちょっと変わったドワーフなんだ」

「なるほど」


 なんだか色々と察してしまった。ドワーフの中では異端なんだろうな。それで今住んでいた場所が窮屈になったのかもしれない。ノースウエストへの移住を決めたのはそれが原因なのかも。こちらとしては大歓迎なんだけどさ。


「デニス親方、そのドワーフさんにはたくさん魔道具を作ってもらうからね。もちろん、ちゃんと報酬は出すよ」

「坊主ならそう言ってくれると思ったぜ。ノースウエストへくることを勧めておいてよかった」

「報酬はボクが造ったお酒の飲み放題にしようかな。もちろん無料で」

「おい、ちょっと待てよ坊主! それなら俺もたくさん魔道具を作るぜ」


 慌てた様子で身を乗り出したデニス親方。お酒が関係すると、苦手なことでもお構いなしのようである。でも、そこに付け入るのはよくないだろう。ここは冷静に判断しないといけないね。


「デニス親方はもう飲み放題になってるでしょ。それに、嫌いなことを無理やりやらせるつもりはないよ。そんな生き方は楽しくないからね。ボクはみんなに、もっと楽しい生き方をしてほしいと思ってる」

「リディルくんらしいですね。人族の中でそのような考えを持っている人は、少ないのではないですか?」

「そうかもしれません。嫌な思いをしてでも、お金を稼ぐ必要がありますからね。そう思うと、お金という存在はあまりよくないのかもしれませんね」


 そうは言っても、物々交換でも、結局は対価が必要になる。生きるためには多少、嫌なことや、つまらないこともやらなければいけないか。

 それならその代わりに、楽しい気分になれる娯楽をもっと増やすことにした方がいいかもしれないね。


 やっぱり劇場や図書館が必要になるかな? でも、どちらも準備するのには時間がかかるんだよね。

 劇場を作っても、そこで演じてもらう人たちを育てる必要があるし、図書館だって、本をたくさん集めないといけない。

 建物ならすぐに建設することができるんだけどね。

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