第202話 ノースウエストに戻ってからのこと

 本当の狙いがノースウエストだとしたら、きっとノースウエストのことをよくないと思っている人たちがいるってことだよね。でも、そんな人、いるのかな? 辺境にまで追いやられたボクを、まだ狙っている人がいるのだろうか。可能性は低そうな気がするんだけど。


 やっぱりカリサ伯爵家を乗っ取って、おいしい思いをしたい人が犯行に及んだ可能性が高そうだね。

 もしかすると、ボクが知らないだけで、ジェラルタン王国の他の場所でも、同じようなことが起きているのかもしれない。


 ボクももう少し、外とのつながりを持つべきだろうか?

 でもなぁ。ジェラルタン王国の隅っこにいるボクが情報を集めたところでどうなのよって思いはある。


「リディル王子殿下、本日は我が家に泊まっていただければと思います。ローランドからも、『直接、お礼を申し上げたい』と頼まれておりますので」

「そうですね……」


 念のため、フェロールやアルフレッド先生たちの方を見た。みんなうなずいているね。どうやら問題はなさそうだ。ボクがカリサ伯爵から命を狙われる危険性はないと思っているようである。ボクもそう思う。

 一応、これでも命の恩人だからね。


「分かりました。よろしくお願いします。できればみんなと一緒の部屋にしてほしいのですが」

「かしこまりました。それではそのように手配します」


 そう言ってからカリサ伯爵はサロンから出て行った。この話の流れだと、トマスさんも一緒に泊まることになりそうだ。

 トマスさんもカリサ伯爵家の恩人だからね。ボクたちと同じ待遇になるのは当然だと思う。


 そしてカリサ伯爵はトマスさんに借りができたので、トマスさんの町はこれから優遇されるようになるんじゃないかな。

 そうなるともちろん、ノースウエストとのつながりも強くなるわけで。

 これはますますノースウエストが発展しそうだな。それに備えて、もっと町の施設を充実させた方がいいだろう。


「ノースウエストへ戻ったら忙しくなりそうですね」

「そうですね。少なくとも、リディルくんが作った魔法薬を求めて人が集まってくるのは間違いないでしょう」

「そこはニャーゴさんじゃないんですか?」


 錬金術の道具の作り方はニャーゴさんから教わったものだからね。それにニャーゴさんなら、呪いを打ち消す効果のある道具も作り出すことができるはずだ。

 ボクも手伝うつもりではあるけど、一日中、錬金術の道具を作り続けるわけにはいかないんだよね。


「もちろんニャーゴさんもですよ。これは人手が足らなくなるかもしれませんね」

「そのときはアルフレッドも一緒に作ることになりそうだな」

「そうなるかもしれませんね」


 アルフレッド先生が微妙な顔をしている。もしかして、錬金術の道具を作るのは苦手なのかな? そんな風には見えなかったんだけど。

 首をかしげていると、アルフレッド先生がさらに話を続けた。


「これは錬金術の道具だけでなく、魔道具も売れるようになるかもしれませんよ。魔法薬を買いにくるのは、おそらくお金をたくさん持った人たちでしょうからね」

「きっと魔道具にも目がとまることになりますよ」

「嫌なことを言うなよ、坊主」


 苦笑いになったデニス親方。どうやら魔道具をたくさん作る必要があるかもしれないと思っているようである。その通りなんだよね。ノースウエストへ戻ったら、弟子をたくさん集める必要がありそうだ。


 でも、もう働き手は色んなところに取られているんだよね。今のノースウエストには、働くことができる場所がたくさんあるのだ。

 そうなるとやっぱり、ノースウエストの外から人を集める必要がありそうだね。

 せっかくの機会なので、トマスに相談してみようかな?


「トマスさんの町で暇にしている人はいませんか?」

「そうですね、それほど多くはないですが、成人すると同時に家を出るつもりの人がいますね。おそらくは領都へ行って、そこで仕事を見つけるつもりだと思います」

「それなら、よければノースウエストで働いてもらうことはできませんか? これから錬金術の道具だけでなくて、魔道具もたくさん作る必要がありそうですので」


 ボクの提案を聞いて、「なるほど」と考え始めたトマスさん。無理そうなら、カリサ伯爵にも相談だな。領都で職にあぶれた人を紹介してもらうことにしよう。


「分かりました。相談してみたいと思います。私の町からもノースウエストの方が近いですし、錬金術と魔道具作りを学ぶことができますし、きっとよろこんでくれると思いますよ」

「よろしくお願いします」


 よしよし、これでまずは労働者ゲットだな。若者が来てくれるみたいだし、ノースウエストの活気も、これまで以上に出るようになるだろう。

 その子たちが安心してノースウエストで暮らすことができるように、家を準備しておいた方がいいかもしれないね。


「アルフレッド先生、デニス親方、その人たちのために、家を準備したいと思うのですけど、どう思いますか?」

「さすがに家を用意するのはやりすぎかもしれませんね。しばらくは宿屋に無料で泊まってもらうのはどうでしょうか?」

「アルフレッドの言う通りだな。ムダに空き家を作るのはよくない。人が住まない建物はすぐに悪くなるからな。ノースウエストに定住することが決まってからにしようぜ」

「そうだね。それじゃ、最初はその方向でやっていこう」

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