第200話 上級解毒剤を使う

 案内されるがままに奥へと進むと、サロンに到着した。置かれている調度品の質から、かなり格式高いサロンで間違いないだろう。

 一応、ボクは王子様だからね。もうすでに王都では、名ばかりの王子になっているはずだけど。

 サロンではすでにカリサ伯爵らしき人が待っていた。


「お初にお目にかかります。ニコラス・カリサです。王子殿下を呼びつけるようなことになってしまい、申し訳ありません」

「気にしないで下さい。リディルです」


 そのままの流れでアルフレッド先生たちを紹介する。家名はあえて名乗らなかった。追放された身だからね。この様子だと、まだ戸籍は残っているみたいだけど。


「カリサ伯爵、すぐに上級解毒剤を使いたいと思います。案内してもらえますか?」

「もちろんです。こちらになります」


 移動の間に、どんな魔法薬を使ったのかを聞いておいた。もし長男さんにボクが作った魔法薬が効かなかった場合には、きっとニャーゴさんの、判断の助けになるだろう。

 案内してもらった部屋にはボクと同じくらいの年齢の子供がベッドに横たわっていた。

 その隣にはカリサ伯爵夫人の姿がある。


「ごあいさつもできずに、申し訳ありません」

「気にしないで、そばに居てあげて下さい。その方がお互いに安心できると思いますので」


 夫人の顔色は悪い。だがそれよりも、長男さんの顔色はものすごく悪い。まるで土のような色をしている。だれが見ても危険だと思うだろう。表情も苦しそうだ。上級解毒剤を飲む力が残っているといいんだけど。


「こちらが上級解毒剤になります」


 夫人に上級解毒剤を渡す。それを受け取った夫人が一つうなずいた。

 見た目ではボクが渡した上級解毒剤が本物なのかどうかは分からないと思う。この場に鑑定の魔道具はないみたいだし。そこはもう、ボクを信じてもらうしかないな。

 疑うかな? とも思ったけど、すぐに夫人はそれを長男さんに飲ませた。

 よかった。まだ飲む力が残っていたようだ。無理やり流し込んだようにも見えたけど。


「アルフレッド先生、どんな様子ですか?」

「毒も呪いも無事に無効化されたようですね」

「それならよかった」

「ほ、本当ですか?」

「本当ですかな?」


 カリサ伯爵夫妻がアルフレッド先生の方を見た。トマスさんからどこまで聞いているのかな? アルフレッド先生がエルフだということまで伝わっているのだろうか。


「本当ですよ。間違いありません。私の目は見えない物を見通すことができますからね」

「そうでしたか。あの、息子は助かったのですよね?」


 不安そうな目をしたカリサ伯爵がそう尋ねた。見た目はまだなんの変化もないからね。意識を取り戻す様子もない。

 違いがあると言えば、険しかった表情が少し和らいでるくらいだろうか? 顔色も落ち着きつつあるような気がする。


「……あとは体力を戻すことができるかですね。もう少し早くリディルくんが作った上級解毒剤を飲ませることができれば、より安心だったのですが」


 つまり、ギリギリだったということか。明日にならなくてよかった。手遅れになるところだったぞ。

 でも体力を戻さないと危険なのか。それには食べ物を食べてもらうしかないと思うんだけど、意識が戻らないと無理だよね。


「それでは体力を戻す魔法薬を使いましょう」

「ニャーゴさん、そんな魔法薬があるのですか?」

「もちろんありますよ。ただし、回復効果は一時的なものですので、その間にしっかりと食べて、休んでもらう必要がありますけどね」


 そう言いながら、ニャーゴさんがカリサ伯爵夫妻を見た。伯爵の許可なく、勝手に魔法薬を使うわけにはいかないからね。


「お金はお支払いいたします。ぜひ、使わせていただきたい」

「分かりました。それではこちらを」


 そう言ってから、ニャーゴさんがマジックバッグから赤い魔法薬を取り出した。初めて見るね。あれは一体なんだろうか。

 そんなボクの視線に気がついたのか、ニャーゴさんが説明してくれた。


「これは体力回復薬という道具になります。飲めばある程度、体力を回復させることができます。ただし」

「ただし?」

「おいしくはないです」


 そうだよね、色からして、おいしそうな色には見えないからね。でも生き残るためだ。長男さんには我慢してもらおう。

 ニャーゴさんから体力回復薬を受け取った夫人がそれを長男へ飲ませた。


「うっ、ま、まずい……」

「気がついたのね!」

「お、お母様?」

「ローランド!」


 夫人が抱きつき、カリサ伯爵が長男さんの名前を呼んだ。ローランドという名前のようだ。きっと意識が戻ってから、直接あいさつさせようと思ったんだろうな。

 貴族の間では、王族に対しては、直接あいさつするのがマナーだとかいう風習があるのかもしれない。


 まだボンヤリとしているのだろう。長男さんの目はうつろである。だが、ニャーゴさんが作った体力回復薬のまずさで目を覚ましたようである。これはありがたい。目が覚めるのを待つ必要がなかったぞ。


「どうやら意識を取り戻したみたいですね」

「よかったです。カリサ伯爵夫妻も話したいことがあるでしょうし、ボクたちはさっきのサロンへ戻りましょう」

「そうですね、そうしましょうか」




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