第199話 領都へ到着する

 夕食の時間になり、ニャーゴさんにトマスさんからの話をする。それを静かに聞いているニャーゴさん。

 少し悩んでいるようだが、一緒について来てくれることになった。


「分かりました。私も一緒に参りましょう」

「ありがとう、ニャーゴさん!」


 これでさらに大丈夫になったはずだ。ニャーゴさんなら、ボクが作った上級解毒剤よりも、もっと強力な魔法薬を持っているはずだからね。




 翌日、朝食を食べるとすぐにノースウエストを出発した。出発の前にはヨハンさんに領都へ行くことを話しておいた。そしてもちろん、世界樹さんにも。ボクにもしものことがあるといけないからね。


 馬車に乗って半日もしないうちに、隣町へ到着した。こうしてお昼前に隣町へ行けるようになったのも、みんなで街道を整備したおかげだね。


「リディル様、お待ちしておりました」

「お待たせしました。すぐに領都へ向かいましょう。途中で野営をすることにしています」

「分かりました。こちらでも準備をしていますので、必要な物があれば言って下さい」


 そうしてボクたちの馬車の後ろから、トマスさんの馬車がついてくる形になった。

 サリー嬢との短いあいさつをしてから、馬車が出発する。

 一緒に行きたそうな顔をしていたな。でも、ボクたちが遊びに行くわけではないことが分かっているのか、サリー嬢が何も言うことはなかった。


「ここからの道は……ちょっと揺れますね」

「こちらの道は私たちが整備していませんからね。仕方がありませんよ」


 アルフレッド先生がちょっと困ったような顔をしている。

 どうやら隣街とノースウエストを結ぶ道を整備しすぎたみたいだね。これはそのうち、隣町と領都を結ぶ道も整備してほしいと頼まれるのかもしれないな。

 そのときはしっかりとお金をもらうことにしよう。ノースウエストの発展には、どうしてもお金が必要になってくるからね。取れるところからお金を回収しておかないと。


 馬車は順調に進み、夜の時間が近づいてきた。

 少し開けた場所があったので、そこを野営地にすることにする。

 デニス親方と一緒に穴を掘って、その間にアルフレッド先生たちが夕食の準備をしてくれた。


「リディル様はすごいですね。まさかこのような魔法が使えるとは思いませんでした」

「アルフレッド先生とデニス親方に教えてもらいました。あ、もうすぐスープが完成するみたいですよ」

「みなさん実に手際がいいですよね」


 苦笑いするトマスさん。今のボクたちは交代制で食事を作っているからね。それなりにみんなも料理が上手になっている。もちろんボクも手伝ったぞ。

 こんなおいしいスープは食べたことがないと感嘆の声を上げるトマスさん。ちょっと大げさすぎるんじゃないですかね。


「この調子だと、明日の午後、早い時間に領都へ到着できると思います」

「トマスさん、そのままカリサ伯爵のところへ向かおうと思っています。大丈夫でしょうか?」

「問題ありませんよ。私が来たらすぐに屋敷の中へ入れるようにと、門番に言ってあるそうです」

「それならよかった」


 これでボクたちの行動がムダにならなくてすみそうだ。それまでカリサ伯爵の長男さんが無事ならいいんだけど。

 毒じゃなくて呪いだから、病の進行は遅いのかな? それとも毒も解毒されていなかったりするのだろうか。


 トマスさんもその辺りは詳しく知らないみたいなんだよね。でもそれはしょうがないことなのかもしれない。簡単に周りへ話せるような内容じゃないからね。長男さんにもしものことがあれば、周囲が色々と騒がしくなることだろう。お家騒動になるかもしれない。

 そしてそれを望んでいる人がいるかもしれないからね。


 夕食が終わると、準備していたお風呂に入ってから就寝する。お風呂があることにトマスさんが驚いていたな。そしてこの場にエルフとドワーフ、ケットシーがいることで、納得していた。

 ちなみに今は三人とも魔道具をつけて、人族と同じ姿になっている。


 ノースウエストではエルフやドワーフがいることが当たり前になりつつあるが、ノースウエストを一歩出ると、まだまだ希少な存在だからね。無用なトラブルを避けるために、そうしてもらっているのだ。

 いつの日か、そんなことを気にせずに動き回れる日がくるといいな。




 翌日、朝早くから出発し、予定通りに午後を少しすぎてから領都へ到着することができた。

 ボクたちはそのまま、トマスさんの案内でカリサ伯爵家へと向かう。

 正面に大きな建物が見えてきた。白い石造りの家だね。それなりに大きいけど、ノースウエストにあるボクの屋敷よりは小さいみたいだ。


 トマスさんが門番の人に何か言うと、大きな門が、馬車が通れるスキマほど開いた。そこから屋敷の敷地内へと入り、停車場に馬車を止めた。


「ここからはさらに気をつけて進まなければなりませんな」


 フェロールが周囲を気にしながらそう言った。


「そうなの? 伯爵家に到着したんだし、安全なような気がするんだけど」

「リディル様、カリサ伯爵が味方だとは決まったわけではありませんよ」


 まさかフェロール、これが罠だとか思ってる? そんなまさかと思ってみんなの顔を見ると、だれも笑っていなかった。

 どうやらボクの考えはまだまだ甘かったみたいだね。長男さんのことしか、考えてなかったよ。反省しなきゃ。

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