第198話 領都へ行くことになる
こんな辺境の地までカリサ伯爵を来させるのは申し訳ないな。それに端から見れば、ボクがカリサ伯爵を呼びつけたみたいに思われることだろう。
そんなことになれば、ボクのことを気にし始める貴族が出てくるかもしれない。
「トマスさん、そんな顔をしないで下さい。ボクも一緒に行きますよ。アルフレッド先生もフェロールも、それでいいよね?」
「そうですね、それがよさそうですね」
「リディル様の仰せのままに」
「ありがとうございます……!」
深々と頭を下げるトマスさん。そんなに恐縮する必要はないと思うんだけどな。だって、トマスさんの町よりも小さな町を治めている、ただの子供領主にすぎないんだよ?
……やっぱり「この国の王子」という肩書きは今でも健在みたいだな。ボクにとっての呪縛になりつつあるのかもしれない。
そこからはトマスさんといつごろ出発するのかという話になった。
「トマスさん、だれがその呪いにかかったのですか?」
「……ここだけの話にしていただきたいのですが、どうやらカリサ伯爵の長男が呪いにかかったようです」
「長男さんが……あの、年齢は?」
「リディル様と同じくらいの年齢だったと記憶しております」
チラリとフェロールを見るとうなずいていた。どうやらその情報に、間違いはないみたいだね。
長男が呪いに……それは困ることになるのは間違いないね。
これは急ぐ必要があるな。最初から急ぐ必要があるとは思っていたけど、それよりも、もっと急がないと。
「これは明日にでも出発した方がよさそうだね」
「そうですな。間に合わないことになれば、大変なことになるでしょう」
フェロールがちょっとあせっているな。もしかすると、カリサ伯爵家の子供はその子しかいないのかもしれない。それなら確かに大変なことになるよね。
移動は馬車になるだろう。馬の確保を確保してもらうために、アルフレッド先生の顔を見た。ボクの視線を受けて、うなずくアルフレッド先生。
「急いで馬を準備しなければなりませんね。デニスへの説明をお願いします」
「分かりました。任せて下さい」
「私もこれから町へ戻って、出発の準備を整えて参ります。明日、私の家の前でお待ちしております」
「よろしくお願いします」
そう言うと、トマスさんは急いで戻って行った。食糧はマジックバッグに入っているので問題ないだろう。あとは、野営の準備が必要なのかな? 隣町へは行ったことがあるけど、領都までは行ったことがないんだよね。
「フェロール、領都までは何日くらいかかるのかな?」
「隣町を朝早くに出発すると、その日の夕方には到着することができます」
「それじゃ、ノースウエストからだと、途中で夜になっちゃうね」
どうしたものか。野営をした方がいいのか、それとも、隣町で一泊してから、朝早くに出発した方がいいのか。
でも隣町から出発しても、領都に到着するのは夕方になるんだよね? それならその日のうちに上級解毒剤を渡しに行くのは難しいかもしれない。
「リディル様、どうなさいますか?」
「……途中で野営しようと思う。それなら次の日の昼過ぎには領都に到着できるよね? その時間帯なら、カリサ伯爵家に出向いても、問題なく対応してもらえるはずだよ」
「分かりました。それではそのように」
「それでは私は馬を連れてきますね」
カリサ伯爵が夜遅くに人を招いていた、だなんてウワサが広まったら、伯爵家としての醜聞にかかわるはずだ。
基本的に貴族同士は足の引っ張り合いなのだ。ちょっとしたことで、すぐに悪いウワサが広まる。
そこに「王子を呼びつけた」なんてウワサが加わったら、どこまで話が大きくなるか分からない。
午後になり、デニス親方が屋敷に戻ってきたところで、先ほどのトマスさんとの話をする。すぐにデニス親方が馬車の準備を始めてくれた。
「野営なら任せてくれ。地面の下に地下室を作って夜を過ごすのもいいし、地上に精霊魔法で建物を作ってもいい」
「そうだね、ありがとう、デニス親方。野盗とか、魔物とかに襲われないようにするためにも、地下室の方がいいかもしれないね」
「了解だぜ」
サムズアップをキメるデニス親方。あとはだれが一緒に行くかだな。
錬金術の道具のことなら、ニャーゴさんが詳しい。ボクが作った上級解毒剤が効かなかったときのことを考えて、ニャーゴさんも一緒に来てもらった方がいいだろう。
そうなると、ルミ姉さんは留守番になるかな? 薬草園の管理もあるので、ルミ姉さんにお願いするしかなさそうだ。
ルミ姉さんが戻ってきたところでお願いすると、快く引き受けてくれた。
「分かったッス。坊ちゃんの頼みならしょうがないッスね。お土産を期待してるッスよ」
「もちろんだよ。任せておいて」
そうは言ったものの、ルミ姉さんへのお土産って、一体、何がいいのだろうか。あとでデニス親方に聞いてみるか。珍しい魔道具なら、人族の国にはないぞ。魔道具のようなガラクタなら、たくさんあるけどね。
でもそんなものをお土産にしても、嫌がらせにしかならないよね? どうしたものか。
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