第197話 急な知らせ
そうして薬草園で希少な素材を採取したり、薬草や毒消し草を育てたり、ちょっと手狭になったので薬草園を拡張したりしていると、ノースウエストにトマスさんがやって来た。
どうやら今日はサリー嬢は一緒じゃないようだ。いつもならサリー嬢と一緒にくるのに。
あれからちょくちょく、トマスさんとサリー嬢がノースウエストにくるようになったんだよね。それもあって、ノースウエストと隣町を結ぶ道はしっかりと整備された道になっている。
今では荷馬車がすれ違っても大丈夫だぞ。
「リディル様!」
「え、どうしたんですかトマスさん!?」
なんだかあせった様子のトマスさん。もしかして、サリー嬢にまた何かあったのだろうか? ヒヤリとした冷たい汗が背中を伝っていく。
そんなトマスさんの声が聞こえたのか、屋敷の中にいたアルフレッド先生とフェロールがこちらへとやって来た。
「実は、本日はリディル様にお願いがあってこちらへ来ました」
「お願い? サリー嬢に何かあったのですか?」
「いえ、違います。サリーは元気にしております。お願いと言うのは、以前にリディル様からいただいた上級解毒剤を使わせていただきたいと思いまして」
思わずアルフレッド先生とフェロールと顔を見合わせた。
上級解毒剤を渡したときに、「必要があれば自由に使ってほしい」と言って渡したはずだ。それなのに、わざわざボクに使用許可を求めてくるだなんて。一体全体どういうことなのだろうか。
「トマスさん、前に話した通り、差し上げた上級解毒剤は自由に使っていただいて構いませんよ」
「ありがとうございます。それで、あの、できればリディル様も一緒に来ていただけないかと思いまして」
「一緒に? どこへ行くつもりなのですか?」
もう一度、アルフレッド先生とフェロールと顔を見合わせた。話がよく見えないぞ。どうしてボクが一緒に行く必要があるのだろうか。トマスさんが上級解毒剤を渡して終わりだよね?
「この上級解毒剤を必要としているのはカリサ伯爵なのですよ」
「カリサ伯爵……確か、カリサ伯爵領にトマスさんの町があるのでしたよね?」
「その通りです。以前にサリーが呪いにかかったことを、カリサ伯爵へ手紙でお知らせしていたのです。他のところでも同じようなことが起こっているかもしれないと思いまして」
知らなかった。でも、それは当然の処置かもしれない。領内に怪しい人物が呪いの道具を配っていたのだから。注意喚起をするのは当然だと思う。
もしかして、カリサ伯爵領で他にも呪いにかかった人が見つかったのかな?
「そのときに、サリー嬢の呪いを解呪した話も知らせたのですね」
「はい。その通りです。解呪の効果を持つ魔法薬を確保しておいた方がよいのではないかとも進言しておきました」
トマスさんが解呪の話をするのは自然な流れだと思う。カリサ伯爵からすると、ありがたい話だと思うに違いない。黒幕がカリサ伯爵でなかったらの話だけど。まさか。
そう思ってフェロールの顔を見ると、フェロールは首を左右に振った。どうやらその可能性はなかったようである。
もしかすると、フェロールは真っ先にカリサ伯爵を疑って、調べたのかもしれないね。
「トマスさんの進言を聞き入れていれば、解呪の効果のある魔法薬を、カリサ伯爵も準備していたはずですよね?」
「もちろん準備をしていました。ですが、その魔法薬では解呪できなかったそうです」
そこで言葉を切ったトマスさん。どうやら、サリー嬢に使われた呪いよりも、より強力な呪いにかかってしまったようである。
なるほど、それでボクが作った上級解毒剤を使いたいというわけだね。
ボクが作った上級解毒剤には、上級の解呪効果がついているからね。呪いを打ち消すだけじゃなくて、呪いを跳ね返すという、すごい効果もついている。意図して作ったわけじゃないけどさ。
「なるほど、そうでしたか。ボクが作った上級解毒剤が役に立つのなら、もちろん使ってもらって構いませんよ。でも、ボクが一緒に行く必要はないと思うんですけど」
「あの、それが、カリサ伯爵へ手紙でお知らせしたときに、解毒剤の入手先を尋ねられたものですから」
「そこでボクのことを手紙に書いたのですね?」
「はい」
申し訳なさそうにするトマスさん。
これはしょうがないと思う。トマスさんの一番上の上司だからね。ごまかすわけにも、ウソを言うわけにもいかなかったのだろう。
「それで、ボクを連れてきてほしいと催促されたわけですか」
「申し訳ありません。ぜひ、あいさつをしたいと手紙に書かれておりまして」
これはトマスさんと一緒に行った方がいいな。これでボクが行かなかったら、トマスさんの立つ瀬がないだろう。
それに、もしここで行かないとしたら、カリサ伯爵が不快に思うかもしれない。隣の領地だし、良好な関係を気づきたいと思っているからね。
ボクがカリサ伯爵のところへ行かなくても、直接ノースウエストまでカリサ伯爵がお礼にくることになるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。