第196話 上級解毒剤

「ニャーゴさん、よかったらボクにもその道具の作り方を教えてもらえませんか?」

「もちろんですよ。ここの素材はリディル様が育てたものですからね。むしろ私がこれらの素材を使ってよいのか、聞く立場ですよ」

「ニャーゴさん、自由に使っていいですからね? ボクに遠慮しないで下さい。ボクは自分一人で作ったとは思っていませんから」


 慌てて両手を左右に振る。どうしてもみんなが「世界樹の守り人」という称号に影響されちゃうんだよね。ボクとしては普通に接してもらいたいんだけど。でもみんなからすると、そうはいかないみたいだ。


 育った素材を採取したところで、さっそく錬金術の道具を作ることになった。今回作るのは、解毒剤よりも、より効果の高い物らしい。


「今回は上級解毒剤を作りたいと思います」

「中級解毒剤を飛び越して、上級解毒剤を作るのですね」

「その通りです。中級解毒剤も作れますが、今のリディル様なら、上級解毒剤も作れると思っています」

「分かりました。よろしくお願いします」


 きっとニャーゴさんが上級解毒剤を選んだのは、前回のサリー嬢のことがあったからだろうな。また同じようなことが起きたときに対処することができるように、強力な物を作ることにしたようだ。


 そうなると、今度は遅効性のある呪いではなく、速効性のある毒が使われるかもしれないと考えているのだろう。それも、強力な毒。

 毒なら鑑定の魔道具を使えばすぐに分かるけど、身の回りにあるものすべてを鑑定するわけにはいかないからね。そんなことをすれば、身動きが取れなくなってしまうことだろう。


「ニャーゴさん、私も作らせていただいてもいいですか?」

「もちろんですよ、アルフレッドさん。数が多い方が安心できますからね」

「私もそう思いますよ」

「ボクもそう思います」

「ミュ!」


 どうやらアルフレッド先生も、毒による攻撃を警戒しているみたいだね。サリー嬢に呪いの人形を渡した人物はまだ隣町にいるのだろうか? もしいるのなら、サリー嬢の呪いが打ち消されたことを知っているはずだ。


 そうなると、次はどんな手を使ってくることやら。その辺りはフェロールが警戒してくれているみたいだけどね。

 もしかしたら、隣町にいるというお友達の力を借りて、犯人を捕まえようとしているのかもしれないな。


「それではさっそく作りましょうか。まずはこの上級薬草をすりつぶします」


 こうしてニャーゴ先生による、錬金術による魔法薬の作り方講座が始まった。

 作り方は解毒剤と似てはいるけど、細かな部分は全然違うみたいだね。これは一度で覚えるのは難しそうだ。サクサクと作っているニャーゴさんはさすがだね。


 ボクが上級解毒剤を一人で作るとなったら、作り方マニュアルが必要だろう。でも、それを作ってもいいものか。この上級解毒剤の作り方って、きっと極秘だよね? アルフレッド先生も、メモを取ったりしていないし。


 そうしてニャーゴさんの教えに食らいついて作業を進めると、なんとか上級解毒剤を作ることができた。

 これでボクも一人前の錬金術師になれたのかもしれない。


 いや、まだまだかな。まだまだ作った道具の数が少ないような気がする。これからは定期的に作るようにしようかな?


「さすがはリディル様ですね。よくできていますよ。もちろんアルフレッドさんもですよ」

「ミュ」

「ミュー様もたくさんお手伝いしてくれましたね」

「ミュ!」


 ニャーゴさんにほめられてうれしかったのか、パタパタと部屋の中を飛び回るミュー。ミューは素材を運んでくれたりしてくれたからね。ちゃんと役に立ってるよ。

 完成した上級解毒剤を確認するニャーゴさんとアルフレッド先生。

 どれも同じように見えるのだが、どうやら二人には違う物に見えたようである。


「やはりリディル様が作った上級解毒剤は違いますね」

「ええ、違いますね。鑑定版で確認してみましょう」

「それがよさそうです」


 そう言ってから、ニャーゴさんが鑑定板を用意した。どこからどう見ても同じ物にしか見えないんだけどね。どうやらまた、ボクが作った物には特殊な効果があるらしい。

 鑑定版にボクが作った上級解毒剤を置くと、すぐに結果が表示された。


「ふむ、また解呪の効果がついていますね。今度は上級ですか」

「本当ですね。これならどんな強力な呪いも打ち消すことができますよ。いや、跳ね返すことができますね」

「跳ね返す、ですか?」

「ミュ?」


 跳ね返すって、あれだよね? 呪いをかけた人物が逆に呪いにかかることになるんだよね? それはすごい効果なのではないだろうか。


「そうです。リディル様が作った上級解毒剤を使えば、その呪いの道具を作った相手が逆に呪われることになります」

「それはすごいですね」

「すごいなんてものではありませんよ。この上級解毒剤は攻防を兼ね備えた、ものすごいものですよ」


 ちょっとあきれた様子のアルフレッド先生。どうやらそれほどすごい物を作ってしまったようである。

 でも、この上級解毒剤があれば、みんなも安心できることになるのは間違いない。これは大事に取っておかないといけないね。

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