第195話 手がかり
ニャーゴさんと目が合った。もしかすると、ボクと同じことを考えたのかもしれない。でも、サリー嬢が呪いにかかっていたかどうかなんて、今から調べることはできないと思うんだよね。あの場にアルフレッド先生かニャーゴさんがいなかったのが悔やまれる。
「あの、もしかしての話なんですが、サリー嬢の病は病気じゃなくて、何かの呪いだったのかもしれません」
「呪い……まさか」
驚くトマスさん。もちろんサリー嬢も驚いている。まさか、と言いたそうな顔をしているね。ボクも同じだ。まさかって言いたい。呪いって、そんなに簡単にできるものなのだろうか。
「実はボクが作った解毒剤に、解呪の効果があったのですよ。トマスさんが領都で購入した解毒剤はちゃんと効果のあるものだと思います。それで、ボクが作った解毒剤との違いはそれくらいしかなくてですね」
「確かにそれなら可能性は高そうです。どうりで解毒剤の効果がなかったはずだ。でもどうしてサリーがそうなったのかについては、見当がつきませんね」
やっぱり分からないみたいだね。何かの儀式を行ったりするのだろうか。そんなに簡単にはできないと思うんだけどな。もし簡単にできるのなら、今ごろはその対処方法が世の中に出回っていると思う。
そうでないということは、呪いにかかる人はめったにいないのだろう。
「アルフレッド先生、呪いってどうやってかかるのですか?」
「一般的なのはやはり呪いの道具ですね。それを手にすることで呪われることになります。ですが、サリー嬢はそんな物に触った覚えはないのですよね?」
「それが……」
暗い顔をするサリー嬢。どうやら身に覚えがあったようだ。一体サリー嬢は何をしたのだろうか。みんなの注目が集まった。
その視線を受けて、覚悟を決めたように視線を上げた。
「以前、町の外からやって来た人に道を聞かれたとこがあったのです。それで教えてあげると、そのお礼だと言って、小さな人形をもらいました」
「なぜそのことを話さなかったのだ?」
「それが、家に帰ったときにはもうなくなっていたのです。間違いなくポケットに入れたはずなのに」
うつむくサリー嬢。怒れると思っているようだ。でも、聞いた話からすると、回避するのは難しかったのではないかと思う。
ボクも同じことをされたら、きっと引っかかっていたことだろう。
「その人形が怪しいですね。サリー嬢を狙ったのでしょうか?」
「どうでしょうか。トマスさん一家を狙ったという可能性もあると思いますよ」
「トマスさんは隣町の町長ですからね。可能性はありそうです」
アルフレッド先生とニャーゴさんが考え込んでいる。ちなみに今のニャーゴさんの姿は人の姿をしている。やっぱりまだ人前にケットシーの姿で出るのには抵抗があるようだ。
ボクの前では全然そんなことはないんだけどね。それだけ信頼されているということなのだろう。その信頼を裏切らないようにしないと。
「フェロールはどう思う?」
「これだけの情報ではなんとも言えませんな。ですが、それについてはしっかりと調べてみようと思います」
「頼んだよ、フェロール」
フェロールの顔つきが厳しいものになっている。このまま放置することはできないと思っているみたいだ。
それからは、見知らぬ人からは物を絶対にもらわないという決まり事をした。もちろんボクもである。
町長一家が狙われたのだとしたら、ボクもいずれ狙われる可能性があるからね。相手は権力者たちに恨みがあるのかもしれないし。
ちょっと暗い雰囲気になってしまったけど、そのあとはトマスさんとサリー嬢を連れて、ノースウエストを案内した。
二人とも、町の中に大衆浴場があるのを見て驚いていたな。それからエルフのブドウで作ったブドウジュースをすごく気に入ってくれた。ボクもミューもお気に入りのジュースだからね。サリー嬢が喜んでくれてよかった。
トマスさんとサリー嬢がノースウエストへやって来てから数日後。温室には錬金術で使う素材がしっかりと育っていた。もちろん希少な素材も育っているぞ。
「素晴らしい。さすがは世界樹の守り人ですね」
「ボクだけの力ではないと思うんですけど」
「いいえ、そんなことはありませんよ。私が似たようなことをしたときには、まったく育ちませんでしたからね」
ハッキリとそう言ったニャーゴさん。どうやら以前に、かなり本格的に薬草園を作ろうとして失敗したことがあったみたいだね。
でもそのことをボクに話さなかったことから、「もしかして」と期待していたのかもしれない。そしてその期待通りになったというわけだ。
「まさか本当に希少な素材まで育つとは。これなら入手困難な錬金術の道具も作ることができますね」
「その通りですよ、アルフレッドさん。今から楽しみです」
興奮しているのか、ニャーゴさんの尻尾がピコピコと揺れているな。ケットシーの尻尾は感情を素直に表現するみたいだね。
入手困難な錬金術の道具か。それがあれば、前回サリー嬢を救ったときみたいに、だれかを助けられるかもしれないぞ。
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