第194話 温室を作ろう

 どうしたものかと思ったけど、これは話さないといけないやつだな。そうでなければ、デニス親方とルミ姉さんがボクの肩を離しそうにないからね。

 思い立つ日が吉日とも言うことだし、まずは話してみようかな。もしこれがうまくいけば、一年中、素材が取り放題になるかもしれないからね。


「えっと、どうせなら、温室を作ったらどうかなと思ってさ」

「坊主、それはどんなものなんだ?」

「ガラスでできた部屋だよ。その中の温度を調節して、冬でも草花が育つようにするんだ」

「これまたすごいことを考えますね。なるほど、ガラスで作るのは日の光が降りそそぐようにするためですか」


 アルフレッド先生がアゴに手を当ててうなずいているな。どうやら感心しているようである。ガラスなら王城でも使われていたからね。それに、ノースウエストでも、エルフさんの手によって、ガラス製品が生産されているのだ。まだ少しだけどね。

 もしかすると、エルフやドワーフの手にかかれば、もっと大きな一枚のガラスを作ることができるかもしれない。


「面白そうだな。ちょっとやってみるか。室温を制御する魔道具は俺たちに任せてくれ」

「やるッスよ、やってやるッスよ!」

「それでは私は大きなガラスを用意することにしましょう。知り合いにガラスの扱いが得意な人がいますからね」


 デニス親方とルミ姉さんに任せておけば、温室内の空調設備は問題なさそうだね。そしてやっぱり、大きなガラスもなんとかなるみたいだ。さすがはエルフだね。


「それじゃ、ボクとミュー、ニャーゴさんで薬草園を作りましょう」

「ミュ」

「そうしましょうか」

「それでは私はみなさまのお手伝いをすることにしましょう」

「頼んだよ、フェロール」


 そうして役割分担が決まったところで、さっそく行動を開始する。フェロールがみんなのフォローに入るので、料理や掃除なんかを気にせずに作業に集中することができるぞ。

 まずはニャーゴさんと一緒に薬草園予定地の土をフカフカなものへと変えていく。


「こんな感じかな?」

「ミュ」

「これだけ立派な畝があれば大丈夫でしょう。次は薬草園に植えるための苗を採りに行くことにしましょう」


 それから数日かけて、ニャーゴさん、それからフェロールや手のあいたアルフレッド先生と一緒に森へ苗を探しに行った。もちろんミューも一緒である。

 そこで役に立ったのは、ミューとニャーゴさんの鼻である。アルフレッド先生がビックリするほどの希少な素材を見つけることができた。


「無事にこの苗が育ってくれるといいんですけど」

「こればかりはやってみなければ分かりませんね」

「アルフレッドさんの言う通りですよ。それに失敗しても、また探せばいいのですから。気負わずに、やれることをやりましょう」

「ミュ!」

「そうですね。そうします」


 こうしてみんなで力を合わせて、無事に温室が完成した。でも、まだお試しということもあり、温室はそんなに大きくはなかった。うまくいくようなら、少しずつ、大きくしていくつもりである。


 温室の中に苗を植える。室温は暑くもなく、寒くもなく、ちょうどいい感じになっている。そしてエルフさんが作ってくれた大きなガラス窓からは、日の光がさんさんと降りそそいでいた。


「これでよし。あとは元気に育ってくれるといいな」

「ミュ」

「うまくいけば、他の場所でも作ってほしいって言われるかもしれねぇな」

「温室もノースウエストの特産品になるのかな?」


 建物が特産品になるって聞いたことがないけど、たぶん作ることができるのはボクらだけなんだよね。

 よし、作ってほしいと頼まれたときには、そのときに考えることにしよう。


「リディル様、お客様がお見えですよ」


 ニコニコ顔のフェロールがこちらへとやって来た。あの顔からすると、どうやらボクの知り合いみたいだね。一体だれなんだろうか。


「だれが来たの?」

「隣町から、トマスさんとサリー嬢がお見えです」

「分かったよ。すぐに行く」


 どうやらサリー嬢は元気になったみたいだ。だって、フェロールが笑顔だったからね。急いで手を洗って、服を整えてから屋敷の玄関へと向かう。さすがに汚れたままで会いに行くわけにはいかないからね。


「お待たせしました。お久しぶりです。元気になったみたいですね」

「リディル様、先日は大変お世話になりました。この通り、娘も元気になっております」

「ありがとうございました。リディル様は私の命の恩人ですわ」

「命の恩人って、そんな、大げさですよ」


 そう言って両手を振りつつ、前から気になっていたことを尋ねることにした。それはもちろん、なぜトマスさんが買った解毒剤が効かなかったのかである。


「トマスさん、ちょっとした疑問なんですけど、どうしてトマスさんが使った解毒剤は効果がなかったのでしょうか?」

「それは私も気になっているところなのですよね。領都で購入した解毒剤なので、効果には問題がないと思っているのですが」


 考えるかのように腕を組んで、そう話すトマスさん。やっぱり領都で購入した魔法薬だったのか。それなら品質に問題はなさそうだ。トマスさんがサリー嬢を救うためにお金を惜しむとは思えない。


「それに、リディル様からいただいた鑑定の魔道具で確認しても、問題はありませんでした」

「そうでしたか」


 そうなると、一つの理由が思い浮かんでくる。確かボクが作った魔法薬にはのろいを打ち消す効果があったよね。

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