第193話 薬草園を作りたい

 そんなわけで、さっそく薬草園を作ることになった。今のボクたちなら、魔法を使えばすぐに作ることができるよね。

 錬金術工房から出たところで、デニス親方とルミ姉さんと合流した。そしてボクたちの話を聞いて、一緒に作ってくれることになった。


「薬草園か。さすがは坊主だな。その発想はなかったぜ」

「薬草なら森に行けばすぐに手に入るッスからね。それをわざわざ育てるなって、考えたこともなかったッス」

「そうなんだ。アルフレッド先生、エルフでも薬草を育てたりしないのですか?」


 予想外の反応だな。まさか薬草園を作ること自体が珍しいとは思わなかった。王城に住んでいたときは、当然だけど中庭に庭園があった。そこでは年中、きれいな花が咲いていたと記憶している。


「育てないというか、育ちませんよ?」

「え、そうなんですか!? ニャーゴさん、ケットシーもそうなの?」

「そうですね、育てても、育ちが悪くて、素材としては使い物にならないと聞いたことがあります。そのため、森へ採取に行くのが当たり前のようになっていますね」

「なるほど」


 そういえば、中庭には草花が育っていたけど、薬草園はなかったな。育てても育たないのなら、薬草園がないのも納得だ。

 素材が欲しい場合は、冒険者ギルドに素材採取依頼を出すのが普通みたいだったからね。その辺はフェロールが詳しそうだ。


「これが成功すれば、素材の残りを気にすることなく、錬金術の道具が作れるようになりますね」

「そこら辺に生えているとは言っても、採りに行くのが面倒だったりするからな。それに、素材がたくさん生えているところは、魔物も多いからな」

「そうなんだね。何か理由があるのかな?」

「薬草を食べて、魔力を取り込んでいるっていうウワサだ。本当かどうかは分からねぇけどな」


 なかなか興味深いね。魔物にとっては薬草もごちそうなのかもしれない。普段、魔物は魔石を食べているみたいだけど、たまには別の物も食べたくなるのかもしれないな。

 それではさっそく薬草園を作る場所を決めることにしよう。場所はもちろん、屋敷と錬金術工房の間がいいよね。


「この辺りに作りたいと思います」

「錬金術工房のすぐ近くか。いいんじゃないのか?」

「ここなら錬金術工房へ行くついでに、素材を回収することができますね。私もいいと思いますよ」

「私も賛成です。どのくらいの大きさにしますか?」


 デニス親方もアルフレッド先生もニャーゴさんも賛成みたいだ。それならここに薬草園を作ることにしよう。

 大きさか。薬草の生長速度によって変わってくると思うんだよね。生長速度が速いならそこまで広くなくていいと思う。逆に遅いなら、広い面積が必要だよね。


「うーん、どうなるか分からないので、まずはそれほど大きくない大きさにしようと思います。このくらいですかね」


 ガイアコントロールを使って、目星をつけたところの土を少しだけ盛り上げた。

 うん、日頃の魔法練習の成果が出ているな。思ったところに、きれいに印をつけることができたと思う。


「なるほど、これくらいですか。あとは何を育てるかですね」

「薬草と毒消し草にしようかと思います。一番使うことになると思いますので」

「坊主、試しに珍しい植物も植えてみたらどうだ? 育つかもしれねぇぞ」

「試してみたいところだけど、種とかないよね?」


 希少な素材の種なんて、さすがに持っていないんじゃないかな? それに、種で育つ植物は少ないような気がする。薬草の花が咲いているのなんて、見たことがないからね。きっと株分けするんだと思う。


「種はないですが、苗なら見つけることができると思いますよ」


 ニャーゴさんがそう言った。どうやらニャーゴさんもデニス親方の意見に賛成みたいだね。薬草園で希少な素材を手に入れることができるようになれば、それはそれでありがたいに違いない。


「それなら、色々と植えてみることにします。それじゃ、この大きさでは小さいですよね。倍の大きさにしようと思います」

「それでも小さいような気がしますが、まあ、あとからいくらでも薬草園を拡張することができますからね。まずはこれでいきましょうか」


 アルフレッド先生、どこまで薬草園を大きくするつもりなの!? まだ薬草園が成功するとは決まっていないんだからね。

 でもみんな、なんだか期待しているみたいなんだよね。ボクが世界樹の守り人なので、もしかすると育てられるかもしれないと思っているみたいだ。


 ボクもそう思いたい。それなら一年中、育てられるようにしたいよね。そのためには温室が欲しいところだ。でも、王城にも温室はなかった。もしかして、この世界にはまだ温室がないのかな?


「温室か……」

「どうした、坊主、まだ何か面白い案を思いついたのか!?」

「坊ちゃん!?」


 ボクのつぶやきがデニス親方とルミ姉さんに聞こえてしまったらしい。逃すまいと二人がボクの両方の肩をそれぞれつかんでいる。ちょっと痛いかもしれない。

 ドワーフの耳も、案外、エルフやケットシーのように地獄耳なのかもね。

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