第188話 特に異常なし

 ビールを食料保存庫へ置いたあとは、冷蔵庫と冷凍庫の魔道具が置いてある場所へと向かった。この料理店に置いてあるのはボクが作った魔道具みたいだね。どうやらフェロールが気を利かせて最初にここへ連れてきてくれたみたいだ。


 さっそく魔道具を確認する。もちろん鑑定の魔道具も使って念入りに調べた。

 特に問題はなさそうだね。壊れている箇所も、劣化しているところもなかった。冷蔵庫を開けてみると、そこにはギッシリと、タルから陶器へと小分けにされたビールが並んでいるようだった。


 陶器がガラス製じゃなかったからね。中に何が入っているのかまでは分からない。でも、冷蔵庫に入れる飲み物と言えば、ビールくらいだと思う。それに特に何も書かれていないからね。

 ここに入っている物は全て同じ物なのだろう。


 一日でここに入っているビールを全部消費するのかな? 夜もお客さんでにぎわうだろうし、そうなのかもしれない。

 もっと大きな冷蔵庫にすればよかったかな? 次からはそうすることにしよう。


「こっちの冷凍庫も問題はないみたいだね。中を開けてみようかな」

「ミュ」

「こちらの冷凍庫には切り出した肉が入っているそうですよ」

「ちゃんと冷凍保存用として使ってくれているみたいだね」


 それなら日持ちするので、いつでも肉を食べることができるようになっているんじゃないかな。

 どんな状態で肉が入っているのか分からないので、ちょっと警戒しつつ扉を開く。


「うーん、なるほど。そのまま詰めてあるのか。せめて大きな葉っぱに包むとかにしてほしかったかな」

「ミュ」


 ミューもその様子にあきれているようである。ブロック肉がそのままぶつ切りにされて入っているからね。もうちょっと加工してくれていたらよかったのに。ちょっと生々しいぞ。


「こっちもギッシリ詰まっているね。冷凍庫としての使い方は正しいけど、やっぱり容量が小さかったみたいだね」


 料理店を甘く見ていた。こんなことなら、業務用の大きな冷凍庫にするべきだったかもしれない。マジックバッグを使えば、持って行くのは簡単だからね。そして魔道具が大きくなれば、簡単には盗むことはできないので防犯にもなるぞ。


 次からは業務用の冷蔵庫と冷凍庫にしようと決意したところで、ボクたちもお店の中へと戻った。もちろん店長には「何も問題はなかった」と伝えている。それを聞いた店長が喜んでいる様子だったので、きっと冷蔵庫と冷凍庫を気に入ってくれたのだと思う。


「戻ってきたか、坊主。どうだった?」


 すでにビールを飲んでいい気持ちになっていると思われるデニス親方が、ちょっと軽い感じで聞いてきた。その正面に座っているルミ姉さんもご機嫌なようである。まぶしい笑顔を浮かべてこちらを見ている。


「冷蔵庫も冷凍庫も、問題なかったよ。強いて言うならもう少し大きい物にしておけばよかったかな」

「それじゃ、次は大きいやつにしよう」

「そのときはあたしも手伝うッスよ」


 ボクたちも昼食を食べるべく、席に座る。するとすぐに昼食が運ばれてきた。どうやらデニス親方とルミ姉さんは、ボクたちがくるのを待っていたみたいだね。おつまみは食べていたみたいだけど。

 ハンバーグ定食を食べつつ、これからの話をする。


「昼食が終わったら、町長さんのところへあいさつに行こうと思っているよ」

「そうですな。それがいいかと思います。隣人との交流は必要ですからね」

「もちろん俺たちもついて行くぜ。坊主の護衛だからな」

「それならお酒を控えてほしいかも」


 そのビール、何杯目? と聞くこともできずに、視線だけを送る。どうやらカラになったコップと引き換えにビールを持ってくるみたいなんだよね。そのため、二人がどれだけ飲んだのかまでは分からない。


「大丈夫だ。ドワーフはそう簡単には酒に酔わねえ」

「そうッスよ。ドワーフの血を甘く見られては困るッス」

「それならいいんだけど」


 実際にそうなのだから、非常に困るところである。さすがにタルごと飲めば酔うみたいだけどね。

 昼食を食べ終えると、少し町の中を見て周り、それから町長の家へと向かった。町の中は、以前にアルフレッド先生たちと来たときとほとんど変わらなかった。


 この町の成長に比べると、ノースウエストはずいぶんと急激に変わったなって思っちゃう。あとは人が来て、にぎわってくれるといいんだけど。

 町長の家に到着すると、すぐに町長のトマスさんが出てきた。だがその顔は、なんだかやつれているように見えた。

 何かあったのかな?


「これはリディル様、ようこそいらっしゃいました」

「お久しぶりです、トマスさん。あの、何かあったのですか?」

「いえ、それが……」


 なんだか言いにくそうにしているな。それにチラチラと家の中を気にしている。気になると言えば、トマスさんの娘であるサリー嬢の姿が見えないな。ミューのことを気に入っていたので、すぐに出てきそうなんだけど。


「ミュ?」

「あの、もしかしてサリー嬢に何かあったのですか?」


 どうやら正解だったみたいだな。トマスさんが口を結んだまま下を向いた。まさか。

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