第187話 乗合馬車と料理店

 乗合馬車の乗り場が見えてきた。どうやら都合良く乗合馬車が止まっているみたいだ。

 この町で使われている乗合馬車にはほろはついていない。雨が降ったら、ロウを塗った革製のマントでも身につけてやりすごすのだろう。


「これが乗合馬車ッスか。屋根もないし、縦長なんスね」

「作りは簡単だな。俺たちの乗っている馬車の方が、何倍も作るのが大変そうだ」

「デニス親方、できればこの馬車にほろをつけてもらいたいんだけど、大丈夫そう?」

「なんだそりゃ?」


 どうやらほろ馬車を知らないらしい。そんなわけで、マジックバッグから紙とペンを取り出して、サラサラと描いた。


「なるほどな。乗合馬車の屋根はそんな感じになっているのか」

「この屋根を作るのは難しそうッスね。布の全面にロウを塗りたくるってなれば、かなり大変ッス」

「そこはニャーゴさんに相談して、錬金術で作った道具の中に、ロウの代わりに水をはじく物がないか、聞いてみることにするよ」

「それならなんとかなりそうだな」


 デニス親方とルミ姉さんがうなずいている。どうやらなんとかなりそうだね。あとはニャーゴさんがはっ水加工の道具を作れるかどうかである。スライムの粘液を混ぜたりして作れないかな? まあ、スライムなんて、まだ見たことがないんだけどね。存在するのだろうか。


 乗合馬車を確認したあとは、フェロールの案内で料理店へと向かった。今では町の中にある料理店の三軒ほどで、ビールを売りに出してもらっている。冷たいビールは好評みたいで、他の料理店からも「ビールを出せないか」とお願いがあるようだ。


 ありがたい話なんだけど、これ以上、ビールを売りに出せないんだよね。そんなことをすれば、ノースウエストに住む人たちが飲むビールがなくなってしまう。

 ドワーフさんたちが飲むビールの量はすごいけど、エルフさんたちも、町の人たちもかなりの量のビールを飲むのだ。そのため消費がとても早い。


 ビールの生産量をこれ以上増やすつもりなら、ホップの栽培場所を広げないといけない。それからビールを造る魔道具の数も、もっともっと増やすことになる。

 ノースウエストがお酒の町になるのはいいけど、ビールだけを売り出すのはちょっと違うような気がする。色んな物を売りに出したいよね。その方がリスク回避にもつながるのだ。


「リディル様、ここが一つ目の料理店になります」

「おお、結構、大きいね!」


 目の前には周辺のお店を四軒合体させたくらいの大きさの料理店があった。料理店としては大きいのではないだろうか。それだけもうかっているってことなのかな?

 お昼が近くなっていることもあって、すでにお店の中には人の姿があった。そしてもちろんビールもテーブルの上に並んでいる。どうやら昼間から飲んでいるみたいだ。どこも一緒!


「かーっ! 俺たちも飲もうぜ、ビール!」

「賛成ッス、飲むッス!」

「あ、ちょっと待ってよ」

「ミュ!」

「やれやれですな」


 まだお昼には少し早いのに、料理店の中へと突撃して行ったデニス親方とルミ姉さん。しょうがないのでそのあとを追う。

 まずは料理店に置かれている冷蔵庫と冷凍庫を調べてから、そのあとに昼食にしようと思っていたのに、計画が台無しだよ。まあ、いいけどね。


「いらっしゃい。おや、フェロールさんじゃないですか」

「いつもお世話になっております。今日は冷蔵庫と冷凍庫の様子も見にきました」

「そうでしたか。それではこちらの方があの魔道具を作った?」


 従業員さんの声が小さくなった。どうやらこの人はこの料理店の店長のようだな。魔道具はまだまだ貴重な物だからね。この店にそれが置いてあるとなると、騒ぎになるかもしれない。そう思ったのだろう。


「そうです。様子がおかしいようであれば、修理もする予定ですよ」

「それはありがたい。今のところ、特に問題は起こっておりませんよ。見に行きますか?」

「どうなさいますか、リディル様?」


 デニス親方とルミ姉さんは早くもビールを頼みたそうにしているな。それならボクとフェロールだけで見に行くのでもいいような気がする。これでもボクも冷蔵庫と冷凍庫の製作者だからね。

 それに鑑定の魔道具も一緒に使えば、より詳しく分かるはずだ。


「ボクとフェロールだけで見に行くことにしよう」

「ミュ」


 手を上げるミュー。そんなミューをモフモフしてあげる。どうやら一緒について行きたいみたいだね。


「ミューもね」

「ミュ!」

「分かりました。それではわたくしたちだけで行くことにしましょう」


 店長にビールとお昼の定食を頼み、調理場の奥へと向かう。どうやらビールはかなりの評判みたいで、注文するとすぐに運ばれてきた。

 みんなが注文するので、その対応も早くなっているみたいだね。


 調理場の奥では、まずはフェロールが持ってきたビールを食料保存庫へと置いた。これで三日くらいは大丈夫だろうとフェロールが言っている。

 タルが三つくらいあるんだけど、これで三日なのか。思ったよりも消費量が多いような気がする。それだけビールが大盛況だということだね。

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