第185話 世界樹さんの進化の秘密

 期待に目を輝かせた二人がグイグイとボクとの距離を詰めてきた。しまったな、これは期待している感じだぞ。ここで「乗合馬車です」とか言ったら、ガッカリされそうな気がする。でも、言うしかないな。ノースウエストのさらなる発展のためには、どうしても必要な物なのだ。


「デニス親方とルミ姉さんに乗合馬車を作ってもらいたいんだ。その乗合馬車をノースウエストと隣町の間で運行させたいと思っているよ」

「乗合馬車か。たくさんの人が乗れる馬車でいいんだな?」

「馬車なら見たことあるッスけど、乗合馬車は初めてッスね。どんな形にするッスか?」


 どうやらルミ姉さんは乗合馬車を見たことがないみたいだな。デニス親方はこの間、隣町へ行ったときに見たことがあるようで、そのときの光景を思い出すかのように、うーん、と頭を抱えていた。

 それならば。


「それじゃ、明日にでも隣町へ行って、乗合馬車がどんな形をしているのか見に行こうよ。ボクも久しぶりに隣町へ行きたいと思っていたところだからさ」

「そうだな、それがいいな。新しい発想が思い浮かぶかもしれねえ」

「いいッスね。それなら乗合馬車がどんな乗り物なのか、しっかりと分かると思うッス」


 これで決まりだね。隣町へはフェロールが頻繁に通っているみたいだけど、あれから料理店に渡した冷蔵庫と冷凍庫の魔道具がどうなっているのか、気になっていた。

 一度自分の目でもちゃんと使われているのか、見てみたいと思っていたところだったんだよね。


「それでは明日、隣町へ行きましょう。アルフレッド先生とフェロールはどうしますか?」

「そうですね、デニスとルミナ嬢がリディルくんと一緒に行くのであれば、私は乗合馬車で使う馬について、交渉しておきましょう」

「よろしくお願いします、アルフレッド先生!」

「ミュ!」


 これで馬もなんとかなりそうだね。実物の乗合馬車を見れば、それをデニス親方とルミ姉さんが再現するのは簡単なことだろう。

 それよりも、色んな魔道具を装備したすごい乗合馬車が完成しそうな気がするぞ。なんだか楽しみになってきた。


 せっかく隣町へ行くのだから、隣町の町長であるトマスさんにもあいさつに行こうかな。娘さんのサリー嬢は元気にしているかな? せっかくつないだ、隣町での友達だからね。たまには会いに行かないと、忘れられてしまうかもしれない。


「それでは私はリディル様と一緒に隣町へ行きましょう。隣町のことなら、ずいぶんと詳しくなりましたからね」

「フェロール、よろしくお願いね」

「お任せ下さい」




 翌日、朝食を食べてから、世界樹さんにあいさつに行く。今日は隣町へお出かけするからね。いつのもように、あいた時間にお話をすることができないのだ。


「おはようございます、世界樹さん」

「ミュ!」

『おはよう、リディル、ミュー。今日はやけに早いですね?』

「これから隣町へ行くことになってます。それで、今日は早めにあいさつに来ました。帰ってくるのがいつになるか分からないですからね」

『そうでしたか』


 ワサワサと世界樹さんが揺れている。その様子はまるでうなずいているかのようである。

 世界樹さんは町の成長に合わせるかのように、少しずつ、大きくなっているようだった。以前のように、一気に大きくなることは今のところないようだ。


 世界樹さんの話では『あと一回、進化すればもっと色々とできるのに』ということだった。

 色々って、一体何をできるようになるのだろうか。そのことについて聞いてみても、そのときのお楽しみだとか言って、教えてくれないのである。これはもう、「そのとき」を楽しみにしておくしかないな。


「うまく行けば、ノースウエストにもっと人がくるようになるかもしれません。そうなれば、世界樹さんも進化することができますか?」

『うーん、どうでしょうか? 進化の前提については、私もよく分からないのですよね』


 右へ傾く世界樹さん。どうやら世界樹さんでも知らないことがあるみたいだ。前にアルフレッド先生に聞いたときには分からなかったから、今度はデニス親方とルミ姉さんに聞いてみようかな? 何か知っているかもしれない。


 世界樹さんと別れたボクたちはさっそく隣町へ向かうことにする。屋敷へ戻ると、フェロールが馬を準備してくれていた。どうやらアルフレッド先生について行って、馬を借りてきてくれたみたいだね。

 前回、隣町へ行ったときと同じく、デニス親方の馬車にこの馬をつないで引っ張ってもらうようである。これなら楽に隣町へ行けそうだ。


「フェロール、馬を借りてきてくれてありがとう。あとでアルフレッド先生たちにもお礼を言わないといけないね」

「心配はいりませんよ。わたくしがしっかりとお礼を言っておきましたので」

「そうなんだね。それなら今度、何かお礼の品を持って行くことにしようかな。ところでデニス親方、世界樹の進化について何か知らない?」

「進化?」


 首をかしげるデニス親方。あれ、これはもしかして、デニス親方も世界樹が進化することを知らないのかな?

 そんなわけで、デニス親方に「世界樹が急に大きくなる現象」が進化なのではないかということを話しておいた。


「なるほど、興味深い話だな。そう言えば『世界樹は何かのきっかけで急に大きくなることがある』といった伝承を聞いたことがあるな」


 おお! さっそく何か手がかりがありそうだぞ。ボクはミューと一緒にワクワクしながらデニス親方の言葉を待った。




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