第182話 もっとお店見学

 次は魔道具を売っているお店だ。ここで売られている魔道具は、ドワーフに弟子入りした町の職人さんが作った物である。

 前々から魔道具には興味があったみたいで、すでに簡単な魔道具なら作れるようになっていた。


「これは領主様、いらっしゃいませ」

「すごい! ランプの魔道具なんだろうけど、色んな形がありますね」

「それはもう、師匠が同じ形の物を作りたがりませんからね」


 そう言って笑っているが、その顔は残念そうではなく、むしろ逆に楽しそうだった。どうやら魔道具作りが楽しいみたいだね。

 大量に作っているからなのか、値段も安いのではないだろうか? 隣町へ視察に行ったときには魔道具が売っていなかったので、比較することはできないんだけど。


「アルフレッド先生、値段は問題ないですかね?」

「正直に言わせていただけると、安すぎると思いますね。隣町から商人がくるようになれば、全部、買っていかれるでしょう」

「それは困りますね」


 アゴに手を当てて、アルフレッド先生がうなずいている。どうやら間違いなさそうだな。アルフレッド先生は人族のフリをして、あちこちの国を訪れたことがあるのかもしれないな。それだけに、アルフレッド先生の言葉には重みがある。


 どうしたものか。売値を変えるようにした方がいいのかな。町の人たちが買うときには安く買えて、外から来た人には高く売るようにしてもらう。

 うーん、さすがにそれだと面倒だろうし、なんだか不公平な気がするよね。


「心配しなくても、ここにある魔道具は数日のうちに全部売れるはずですよ。ほら、私たちが話している間にも一つ、売れましたし」


 アルフレッド先生にそう言われて見てみると、早くも町の人がランプの魔道具を購入していた。それに、火種の魔道具も。

 確かにこの調子なら、ここにある魔道具はすぐにでも売り切れそうだね。


「魔道具がどんどん売れるなら、商人さんの手に渡るようになるのはまだまだ先になりそうですね」

「そうなるでしょうね。商人がここへくるころには、ほとんどの商品は売れてしまっていることでしょう。ここで安く買って、他で高く売るというのは難しいと思います」


 それならしばらくはこのままで大丈夫そうだな。まずはノースウエストの住人たちの、生活の質の向上が最優先だ。先にみんなの手に便利な魔道具が手に入るのなら問題なし。

 将来的には商人さんたちが大もうけすることになるかもしれないけど、その分だけ、ノースウエストに興味を持ってくれる人が増えるはずだ。

 そうなれば、ノースウエストを訪れる人もどんどん増えるはずだぞ。


 もしこれで問題が起こりそうなら、そのときに値段を変更するなどの対応を行うことにしよう。まだ問題になっていないときに考えてもどうにもならないからね。

 壁にぶつかったときに、一生懸命考えればいいのだ。

 ここにはアルフレッド先生もデニス親方もフェロールも町のみんなもいるからね。なんとかなるはずだ。


 一階に併設されている食堂からは、どんどん店の外へと料理が運ばれている。みんなが外で食べている料理がこの食堂で作られた物だと分かれば、これからきっと利用してくれるに違いない。どの料理もとってもおいしかったからね。

 この建物がノースウエストのランドマークになるといいな。


 お店は他にも、お酒を売っているお店、ガラス製品を置いているお店、色んな木工品を取り扱っているお店などがあった。

 これだけ色んなお店があるのだ。ここへ来れば、なんでもそろえることができそうだね。


「ここから二階へ上がれるみたいですね」

「せっかくなので、行ってみましょうか」

「行きましょう。どんな部屋になっているか楽しみです」


 二階からは宿屋になっている。どんな風になっているのだろうか。ボクたちが作った木工品も置いてもらっているのでちょっとドキドキする。

 たまにはここに宿泊するのもいいかもしれない。いつもと少しだけ違う日常は、きっと楽しいはずだ。


「さすがにまだだれも泊まっていないようですね」

「そのようですね。それなら、私たちが一番乗りして、泊まりましょうか?」

「いいですね、それ!」

「ミュ!」


 急きょ決まったけど、なかなかいい考えなのではないだろうか。ノースウエストの領主が泊まった宿となれば、他のみんなも来てくれるかもしれない。

 外からノースウエストへやってくる人たちも、領主が使った宿となれば、安心して利用することができるはずだ。


 まずは階段からあがってすぐの部屋を見学させてもらう。部屋の造りはどれもほとんど同じらしい。だが、部屋に置いてある家具はそれぞれの部屋で違うようだ。

 もちろん窓から見える景色も違う。これは思った以上に楽しめそうな気がするぞ。


「わあ、思ったよりも広いですね。この部屋は二人部屋みたいです」

「できたばかりということもあって、さすがにきれいですね。置かれている調度品は、木工所で作ったもののようです」


 部屋には簡易的なベッドが置いてある。使われている木材はしっかりとヤスリがけされており、表面はツルツルだった。そこに手を抜いた様子は見られない。機能性に関しても、問題ないように思える。

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