第181話 お店見学

 みんなで軽く昼食を食べたあとは、さっそくお店の中へと入った。すでに開店の準備は整っているみたいだね。一つ一つはそれほど大きな店じゃないけど、色んな種類のお店が並んでいる。見ているだけでワクワクしてきたぞ。

 これぞまさにデパートだな。これなら建物の維持費も少なくてすむし、気軽に店を出すことができると思う。


 うまくいかなければ、すぐにやめて次に行くこともできるからね。ここでは自由に物を売り買いしていいのだ。もちろん手数料なんて取らないぞ。そして今なら、賃貸料金も無料である。


「色んなお店が並んでますね。どこから見に行こうか、迷っちゃう」

「ミュ、ミュ!」

「あっち? それじゃ、ミューが見たいところから見に行くことにしよう」


 ミューが選んだのはもちろん食べ物のお店である。どうやらここでは牧場で採れた卵を使ったクッキーやケーキを売っているようだ。まさに地産地消。すばらしいね。

 クッキーが大好きなミューは並んでいる商品を食い入るように身を乗り出して見ていた。


「ようこそ。守り人様の果樹園で採れた果物がタップリ入ってますよ」

「それはとってもいいですね。どれもおいしそうです。これをいただいてもいいですか?」


 ボクたちが管理している畑や果樹園で採れた作物や果物は、欲しいし人がいれば分けてあげるようにしているのだ。もちろん無料だぞ。


 アルフレッド先生とデニス親方のマジックバッグにはたくさんの物が入るみたいだけど、入れておくだけじゃあまり意味がないからね。食べてこそ、価値があるとボクは思っている。

 それに、みんなで食べた方がおいしいからね。


「はい、どうぞ。お金はさすがにいただけませんよ」

「でも……」


 困り顔のエルフさん。これだけきれいに焼き上げられたお菓子なのに、お金を支払わないわけにはいかないと思う。だけど、ここでお金を支払うと、今度から作物や果物を分けるときに、お金をもらうことになりそうなんだよね。


「ミュ!」

「分かりました。それではいただいていきますね」

「そうして下さい。お金なら、これからきっとたくさん入ってくるはずですからね」


 エルフさんが視線を向けた先には町の人たちの姿があった。どうやらボクたちがお店に入ったのを見て、みんなも興味を持ったようである。ついてきたみたいだね。

 これは宣伝部長として、ボクががんばらないといけないぞ。

 そんなわけで、さっそくミューにクッキーを食べさせてあげる。


「ミュ? ミュー!」


 ミューが空を飛んで、グルグルと回り始めた。どうやら飛び上がるほどおいしかったようである。

 それを見た町の人たちがクッキーを買いにきてくれた。

 ボクよりもミューの方が、よっぽど宣伝が上手だね。もちろん、ボクもクッキーを食べる。


「おいしい! 生地の中に果物を混ぜ込んでいるのかな? このクッキーは桃の味がする」

「ほう、それは気になりますね。私ももらっていいでしょうか?」


 そうしてアルフレッド先生だけでなく、フェロールもクッキーを購入していた。

 ちなみにデニス親方とルミ姉さんは外でみんなと一緒に酒盛りをしているはずである。花より団子ならぬ、お店よりお酒である。


「ケーキもおいしそうですね。乗っている果物がどれも鮮やかな色をしていて、とってもみずみずしい感じがします」

「せっかくなのでもらっていきますか? マジックバッグに入れれば、問題ないですよ」

「そうですね。そうしようと思います。ミューもケーキを食べたいよね?」

「ミュ!」


 ピッと短い手を上げるミュー。そのかわいらしい姿に癒やされるな。

 タダでもらうのは気が引けるなと思いつつ、おいしそうなケーキの魅力には勝てなかった。イチゴの載ったケーキをいただくことにした。


「ありがとうございます。守り人様が買ったとなれば、とてもいい宣伝になりますよ」

「ボクの名前を使って、どんどん宣伝して下さい! ボクにできるのはそのくらいしかないですから」

「そんなことはありませんよ」


 笑顔のエルフさんに見送られて次の店へと向かう。こっちはニャーゴさんのお店だね。人型になったニャーゴさんが錬金術の道具を売っている。

 興味があるけど近づけないのか、町の人たちが遠目に見ているね。ここはボクの出番だな。


「ニャーゴさん、買い物に来ましたよ。すごい道具を売って下さい」

「いらっしゃいませ。すごい道具ですか? そうですね、それではこのヒカリゴケはどうですか? 夜になると昼間に蓄積した光を一定時間放つことができるコケなのですよ」

「すごい! どんな仕組みになってるのですか?」


 錬金術ってすごいな。そんなこともできるんだ。聞いた話によると、どうやら特殊なエサを与えてそうなったらしい。正直、ボクには分からなかった。

 でも、とても便利そうなのは分かる。


「これを下さい」

「ありがとうございます。お金は……いただきましょうかね」

「そうして下さい」


 ボクの考えをよく知っているニャーゴさんがそう言った。こうしてお金でやり取りしているところを見てもらえば、町の人たちも安心して買い物することができるはずだ。

 ドワーフさんやエルフさんたちも、ちゃんとお金を使ってくれるようになると思う。今はまだ、物々交換だったり、無料で物を作ったりしているからね。

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