第180話 牧場見学

 まだまだ冷蔵庫と冷凍庫を作らないといけないなと思っていたところに、ルミ姉さんがそう言ってズイッと近づいてきた。

 急いで作らないといけない物?


「そんな物あったっけ?」

「何を言ってるッスか。ビールの魔道具ッスよ、ビールの魔道具。あれがないと、ビールをたくさん造ることができないッス。ノースウエストのビールがなくなってしまうッスよ」

「そうだったね。それじゃ、ビールを造る魔道具と、それに原料となる、ホップの栽培にも力を入れないといけないね」


 ビールを造る魔道具だけが増えてもどうしようもないからね。それと同時に、ホップの収穫量も増やさなきゃ。

 その日の夕方、デニス親方が仕事から帰ってきたところでフェロールの話と、ビールを増産する話をしておいた。


「それは確かに重要な案件だな。よし、明日にでも準備しよう」

「がんばるッスよ!」

「デニス親方、宿屋とお店は?」

「あっちはあいつらに任せておけば大丈夫だ。もうすぐ完成するぞ」


 グッと親指を立てたデニス親方。どうやらもう完成するみたいだね。こっちの準備の方が間に合っていないようだ。

 それならそれで、売りに出せる物から随時、出店してもらうことにしよう。様子を見ながら、町の人たちを雇わないといけないね。




 そうして翌日からデニス親方とルミ姉さんがビールを造る魔道具の製作を始めた。

 同じ魔道具をいくつも作ることになるのだが、お酒に関する物なので、二人は文句を言うことなく、作っていた。


 その間にボクたちはホップの畑を拡張した。フェロールにはさっそくビールを隣町へ届けに行ってもらった。

 牧場も完成したらしく、時間ができたら見にきてほしいとのことだった。


 どんな感じの牧場になっているのか、楽しみだな。

 そうして手があいたところで、さっそく牧場を見学に行った。


「おお、広い! 丘全体が牧場になっているのですね」

「これなら馬や牛たちも、伸び伸びと過ごすことができるはずですよ。向こうでは鶏も飼っています」

「鶏なんているんですね」


 馬や牛たちを見せてもらいながら、とり小屋へと向かう。なお、馬はよく知っている馬の形をしていたのだが、牛は違った。

 なんと言うか、角が大きくて、体も大きい。これが野生の牛なのか。


「これが鶏ですか……?」

「そうですよ。どうやら初めて見たみたいですね」


 目の前にいるのは、鶏というよりも、鳥型の魔物、そう、コカトリスのような生き物だった。確かに遠目に見れば、鶏に見えるかもしれないけどさ。


「あの、大丈夫なのですか?」

「不用意に近づかなければ大丈夫ですよ。しっかりと対策していれば問題ありません」


 それはつまり、対策しなければ問題があると言うことである。

 とり小屋には近づかない方がいいな。卵は欲しいけど、身の危険を感じる。この世界で卵を入手するのは、そう簡単ではないようだ。




 それからはホップの畑を拡張したり、錬金術の道具を作ったり、牧場を見学したりして過ごした。

 そしてついに、ノースウエストに初めての宿屋とお店が完成した。今日はそのオープニングセレモニーだ。


「何度見てもいいできだよね」

「それはそうさ。ドワーフとエルフの共同作だからな」


 そう言って笑うデニス親方。ボクの目の前には、ノースウエストの景観を大きく変化させないように建てられた建物が建っている。一階部分は同じ大きさの石を正確に積み上げられて造られており、その上に木造の建物が乗っている。


 土台がしっかりとしているので地震が起きても大丈夫そうだ。木造の部分に使われている木材はつややかな茶色をしており、しっかりと磨かれていることが分かる。

 壁にはガラスの入った窓がついており、ノースウエストの最先端を行く建物と言ってよいだろう。


「それではリディルくん、まずはあいさつを」

「みんなの協力のおかげで、とてもすばらしい建物がノースウエストに誕生しました」


 建物の前にはテーブルが置かれ、その上には飲み物や食べ物がところせましと置いてある。もちろんボクたちが用意した物である。今日のセレモニーに合わせて、町のみんなに食べてもらおうと、あらかじめ準備していたのだ。


「この建物を始めとして、これからどんどんノースウエストを発展させていきましょう。そのためには、町のみんなの力が必要です。これからも、どうか協力していただけるとうれしいです」


 ボクがそう締めくくると、あちこちから拍手があがった。その中には「もちろん協力するぞ」という声が混じっている。そちらを見ると、町の住人たちとドワーフたち、エルフたちが肩を組んでビールジョッキを掲げていた。


「それでは、乾杯しましょう。カンパーイ!」

「カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 みんなが一気にビールを飲み干した。ビールの量産体制を構築しておいてよかった。この感じだと、すぐになくなってしまいそうだ。

 ボクも子供たちと一緒に、ブドウジュースを飲む。色んな果実が採れるようになったけど、一番人気はやっぱりこのブドウジュースだね。




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