第179話 冷蔵庫と冷凍庫

 昼食後は世界樹さんのところへと向かった。完成したアイスを世界樹さんにも、ぜひ食べてもらわないといけないからね。


「世界樹さん、今朝話していたアイスを持ってきましたよ」

「ミュ!」

『例の冷たくて、おいしい食べ物のことですね。楽しみにしてましたよ』


 ワサワサと世界樹さんが揺れる。どうやらとても楽しみにしていたみたいだね。でも、どうやって食べてもらえばいいのだろうか。世界樹さんに口とかないよね?


「あの、どうやって食べさせてあげればいいのでしょうか?」

『根元に置いていただければ、根を通して食べることができますよ。私にもリディルと同じような体があればよかったのですが、まだ無理みたいなのですよね』


 横に揺れる世界樹さん。その言い方だと、将来的にはボクたちみたいな体を持つことができるみたいだね。そのときがくるのが楽しみなような、そうでもないような。

 今考えてもどうにもならないことみたいなので、まずはアイスを食べてもらわないとね。そんなわけで、世界樹さんにほど近い地面にアイスを置いた。


 見た目はもったいないようなことをしているけど、これで問題ないはず。ミューもそれが世界樹さんの食べ物だと分かっているみたいで、食べに行くことはなかった。その場合はもちろん止めていたぞ。


『おお、これがアイス。冷たくてとてもおいしいですね。それに甘くて、滑らかで、なんとも不思議な味ですね』

「そんなことまで分かるんですね。さすがは世界樹さん」

『もちろんですよ。果物を凍らせた物なら食べたことがあったのですが、これは新食感ですね。すぐに根から吸収することができて、それもとってもいいですね。果物だとどうしても時間がかかるのですよ』

「確かに固形物だとそうかもしれませんね」


 なるほど。今度から世界樹さんに何か食べ物を持って行くときには、食べやすいように細かく切ったり、ペースト状にしたりするようにしておこう。

 その後はニャーゴさんと一緒に作った特製の肥料を世界樹さんの周りの土に混ぜてから、屋敷へと戻った。

 世界樹さんがとても満足そうにしていたので、ボクも大満足だ。世界樹さんにはいっぱいお世話になっているからね。




 世界樹さんにアイスをおすそ分けしたあとは、アルフレッド先生とルミ姉さんと一緒に錬金術の道具を作ったり、ルミ姉さんから教わって泡立て器を作ったりして過ごした。

 そうこうしているうちに、フェロールが隣町から帰ってきた。


 なお、ルミ姉さんには錬金術の道具を作る才能が全くなかったようで、それはもう、とんでもないことになった。

 同じ作り方をしているはずなのに、どうして暗緑色の回復薬ができあがるんだ? それを見たニャーゴさんがすごく困惑していた。

 

 まあ、ドワーフであるルミ姉さんには、同じ物をひたすら作るのが苦手だ。だから同じ物を繰り返し作ることになる、錬金術は向いていないとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。

 最終的に、アルフレッド先生のサポートという形で落ち着いたけどね。ルミ姉さんが錬金術に興味を持たなくてよかった。


「お帰り、フェロール。どうだった?」

「リディル様のおかげで、うまく話を進めることができましたよ。試しにビールを置いて下さるそうです。冷蔵庫を置いてもらって、一度でも冷えたビールを飲めば、そのおいしさが分かってもらえるはずですからね」


 フェロールが笑顔でそう言った。フェロールも仕事終わりの、キンキンに冷えたビールを楽しみにしているからね。どうやらビールを気に入ってくれたようである。

 報告を聞いたアルフレッド先生たちもうなずいているね。ビールが喜ばれることに対しての自信があるのだろう。


 ボクも冷えたビールの美味しさについては確信を持っているけど、まだ飲んだことがないんだよね。ボクが想像しているビールの味と一緒だったらいいんだけど。


「さすがはフェロールだね。よくやってくれたよ。これで一歩、前進だね。ノースウエストには色んなお酒があることが知れ渡れば、商人が買いつけに来てくれるかもしれない」

「必ずや、来てくれることになるでしょう。そうすれば、これまでよりも、もっとたくさんの商品を、ノースウエストで売ってもらえることになるはずですよ」


 そうなってくれたらうれしいな。お酒を売ってお金を稼いで、そのお金で物を買って、みんなの生活の質を向上させる。そのうち服も、もっとおしゃれな物へと変わっていくはずだ。楽しみになってきたぞ。

 

「冷凍庫はどうなったの?」

「そちらも置いてもらえるようになりましたよ。魔道具の構造を聞いて、とても驚いていましたし、とても喜んでいました。これで肉を長期間保存できるかもしれないと」

「それならよかった。将来的には、冷蔵庫と冷凍庫をノースウエストで売りに出せるようになりたいところだね。まずはその前に、ノースウエストの飲食店に置いてもらうのが先決だけど」

「坊ちゃん、その前に急いで作らないといけない物があるッスよ」

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