第176話 錬金術の道具の作り方を教えてもらう

 調理場へ移動すると、さっそくアイス作りを開始する。一度やった作業なので、前よりも慣れた手つきで作業を進めることができた。


「なるほど、そうやって作ってるッスね。特に珍しいことをするわけじゃないみたいッスけど、組み合わせ方でこんなにも違う物ができるッスね」

「そこが料理の楽しいところなんじゃないかな? さてと、さっそくこれの出番だよ」


 ルミ姉さんが作ってくれた泡立て器を取り出して、卵と生クリームを泡立てる。

 さすがはルミ姉さんが作ってくれた泡立て器。昨日、ボクががんばって泡立てたのとは、比べものにならないほど、きめ細かな泡を作ることができだぞ。


「これはなかなか便利な道具を作ってしまったようッスね。どうして料理人たちはこの魔道具に行き着かなかったッスかね?」

「楽するのは料理人としての誇りが許さなかったのかもしれないね」

「うーん、おいしい物が食べられるのなら、少しくらい楽してもいいような気がするッスけど」


 ブツブツと言っているルミ姉さんをよそに、必要な素材をかき混ぜてアイスを完成させた。ミューが食べたそうにしているけど、まだダメだぞ。冷凍庫で固めてこそのアイスだからね。


「ダメだよ、ミュー。たぶん昼食の時間には固まっているはずだから、そのときに一緒に食べようね」

「ミュ!」

「楽しみッスね」




 アイスを調理場の冷凍庫へ入れたところで、今日の一つ目のやるべきことが終わった。次はニャーゴさんのところへ行って、錬金術の道具作りだ。一体何を教えてくれるのかな。今から楽しみだ。


「これからニャーゴさんのところへ行くけど、ルミ姉さんとミューはどうする?」

「もちろんついて行くッスよ。今日は坊ちゃんの護衛を任されてるッスからね」

「ミュ」

「うーん、屋敷の中なら護衛がいなくても大丈夫なような気がするんだけどね」


 ちょっと過保護な気もするが、断るわけにはいかないか。そんなわけで、「退屈だったら、好きなことをしてもいいからね」とルミ姉さんに言ってから、ニャーゴさんのいる離れへと向かった。

 煙突からは白い煙が立ちのぼっている。どうやらすでに作業中のようだ。邪魔しないように気をつけないと。


「ニャーゴさん、アイス作りが終わりましたよ」

「おお、それは完成が待ち遠しいですね。ちょっと時間がかかったようですが、何かありましたか?」


 壁に掛けてある時計を見て、ちょっと首をかしげるニャーゴさん。今の姿はネコのような姿である。やっぱり元の姿の方が作業しやすいみたいだね。


「ルミ姉さんに泡立て器を作ってもらっていたのですよ。これがその泡立て器だよ」

「泡立て器ですか。なるほど、この刃のような物が回って混ぜるわけですね」


 そう言ってから、色んな角度で泡立て器を確認するニャーゴさん。何か気になることでもあったのかもしれないな。


「どうかしましたか?」

「錬金術の道具を作るときに利用できないかと思いまして。混ぜるのが大変なときもあるのですよね」

「それならあたしに任せるッス。速度調整はお手の物ッス」


 泡立て器を作るときに、色々とギヤ比を変えて回転速度を何度も調整したからね。そのときにしっかりと速度調整の技術を身につけていたようである。さすがはルミ姉さん。

 ニャーゴさんとルミ姉さんが新たな魔道具の話をしたところで、ついに魔法薬を作ることになった。


「リディル様は蒸留水を作ることができるようになっていますからね。今日はそれを使った魔法薬を作りましょう」

「よろしくお願いします」

「キュ!」

「それではまずは回復薬にしましょうか」


 そうしてニャーゴさんに教わりつつ、回復薬を作成する。主な素材は薬草だけという、とてもシンプルな魔法薬だ。だが、作り方の手順によっては、効果も味も変わるらしい。

 それなら慎重に作らないといけないね。前世の理科の実験を思い出しながら、作業をする。どんな経験も何かの役に立つものなんだね。


「できました」

「これは……初めてとは思えない、とてもいい品質ですよ。リディル様には錬金術師としての才能があるみたいですね」

「そうだとうれしいです」


 できあがった緑色の液体を確認する。向こうが透けて見えるくらい透明度が高い。ニャーゴさんによると、この透明度が高いほど、いい回復薬なのだそうである。

 せっかくなので、試しに使ってみたいところだね。どのくらいの効果があるのか、すごく気になる。


「ニャーゴさん、使ってみてもいいですか?」

「さすがは将来有望な錬金術師なだけはありますね。やはり効果が気になりますか。もちろん構いませんよ。この回復薬なら、指を切った傷くらいなら、跡形もなく治すことができますよ」

「おお」


 お城にいるときには、もちろん回復薬なんて使ったことはない。そもそもケガをすることがなかったからね。これはちょっと、いや、かなり楽しみになってきたぞ。

 ちょっと渋るルミ姉さんから刃物を借りて、指先をちょっと切った。赤い血がプクリとできあがった。

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