第173話 甘くて冷たい食べ物

 ミューの反応を見て、みんなもシャーベットを口へと運んだ。もちろんボクもである。

 おお、これは! お城で食べたときよりも、ずっと滑らかでしっとりとしている。そして、ミカンの味がとても濃いぞ。さすがはノースウエストで育てられたミカンなだけはあるね。


「冷たくて、とってもおいしい!」

「これはいいですね。口当たりもとても滑らかで、すぐに溶けていってしまいます」

「夏にピッタリな食べ物だな。ミカン意外の果物でもできそうだ」

「シャーベットですか。これはすばらしい食べ物ですよ」


 ニャーゴさんも目を輝かせている。かなり気に入ってくれたようだ。シャーベットは色んな果物でも作ることができるから、色々と試したいところだね。


「リディル様、これは売ればお金になりますよ」

「ボクもそう思っていたところだよ。だれかにお願いして、スイーツ店を開いてもらわないと」


 どうやらフェロールもボクと同じ考えに行きついたみたいだね。その後はフェロールと相談して、ノースウエストに住んでいる女性たちにお願いできないかという話で決まった。


 アルフレッド先生はエルフのご婦人方を推薦したんだけど、もうほとんどのエルフさんが仕事を持っているんだよね。そこに追加でお願いするのはちょっと仕事が集中しすぎることになると思う。


「アルフレッド先生、ミルクを分けてもらってもいいですか? 冷凍庫が完成したので、もう一つ、考えている甘くて冷たい食べ物を作ろうと思います」

「ミュ!」

「もちろん構いませんよ。牧場が完成すれば、ノースウエストでも、いつでもミルクを手に入れることができるようになりますからね」

「その日がくるのが楽しみです」


 今のところ、ミルクは貴重な食材だからね。ノースウエストへは日持ちしやすいチーズの状態でしか入ってこないのだ。

 アルフレッド先生からミルクを受け取り、砂糖や卵などを入れてしっかりと泡立てた。生クリームがすでに存在していてよかった。

 む、泡立てるのが結構大変だ。これは今度、泡立て器もデニス親方に作ってもらわないといけないな。


「ニャーゴさん、バニラももらっていいですか?」

「いいですけど、これ、錬金術の素材であって、食べ物じゃないですよ?」

「何を言っているんですか。これも大事な食材の一つですよ」


 ちょっと驚いた表情をしたニャーゴさんだったが、すぐに手持ちのバニラを分けてくれた。やっぱりアイスと言ったらバニラアイスだよね。

 バニラを入れて、サッと混ぜる。黒い粒々が均一になれば大丈夫だぞ。


「あとはこれを冷凍庫で冷やすだけです。今の時間からなら、お風呂あがりにはアイスが完成していると思います」

「新しい食べ物はアイスという名前なのですね。できあがるのが楽しみです」

「ミュ!」


 どうやらアルフレッド先生でも見たことがない食べ物のようだな。それなら珍しい物として、売れるかもしれないな。作り方は簡単だけど、泡立てるという発想がなかったのかな? 生クリームはあるのに。

 いや、違うな。そもそも、冷凍庫がないんだった。それじゃ、作れないのは当然だね。


「フェロール、冷蔵庫と冷凍庫が完成したよ。ちゃんと動くかの試験も終わったから、持って行ってもらって大丈夫だよ」

「確かに受け取りました。これを持って、さっそく明日には隣町へ行きたいと思います」

「頼んだよ、フェロール」


 これでよし。これでまた一歩、ノースウエスト発展の道筋が見えてきたぞ。次はビールの量産だね。こっちはデニス親方に任せておけば、喜んでやってくれるはずだ。なんと言っても、ビールの在庫が増えることになるからね。在庫が増えれば、飲む量が増えても問題ないということである。ドワーフにとってお酒は水なのだ。


 夕食を食べ、お風呂からあがるとさっそくみんなでアイスを試食することにした。そのころまでにはルミ姉さんも帰ってきており、見慣れぬ魔道具を見て歯ぎしりしていた。


「お兄ちゃんだけずるいッスー! あたしも新しい魔道具を作りたいッスー! もう明日からは向こうへは行かないッスー!」

「落ち着けルミナ。たまたまだよ、たまたま。ちょうど俺と坊主が一緒にいるときに、坊主が新しいことを思いついただけだから」

「それなら明日からはずっと坊ちゃんについておくッス!」


 そう言ってボクを抱きしめるルミ姉さん。お風呂あがりで薄着なのがちょっと困るところである。そんなルミ姉さんを見て、困ったような顔になってるデニス親方。アルフレッド先生も同じような顔をしているね。


「分かった、分かった。明日は俺がルミナの代わりに向こうへ行くとしよう。それよりも、アイスだ、アイス」

「ミュ、ミュ!」

「ちょっとミュー、落ち着いて」


 そうだ、そうだと言うかのように、ミューが飛びついてきては、みんなの周りを飛び回った。どうやら待ちきれないみたいだね。

 ボクの部屋に置いてある冷凍庫から、凍らせたアイスをダイニングルームへと持ってくる。

 途中で確認したけど、問題なく固まっているみたいだね。


「これがアイスだよ」

「シャーベットとはかなり違うみたいですね」

「シャーベットよりもまろやかなんですよ」

「これは楽しみだな」

「ミュ!」

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