第172話 ミキサー

「うん、大丈夫そう。こっちのミカンもカチンコチンだね。これならシャーベットにすることができるよ。ああ、でも、シャーベットにする道具がないのか」

「ほう、そんな物があるのか。なければ作ればいいじゃない」


 デニス親方がとてもうれしそうな顔をしている。シャーベットにする道具なんて、大した構造じゃないんだけど、それでも新しい物を作れる予感がして、うれしいようだ。さすがはドワーフだね。


「えっと、こんな感じの道具だね。中央にある刃が回転して、中に入れた物を小さくすることができるんだ」

「恐ろしい道具を考えるもんだな。刃を回転させる動力はなんだ?」

「魔道具の力でなんとかならないかな?」

「そうなると、この道具はこの世界にはまだないかもしれない物なのか。なんて名前なんだ?」

「ミキサーだよ」


 どうやらデニス親方はボクが紙に描いたこの道具が、ボクの前世の知識から引き出した物だと気がついたようである。そして色々と納得してくれたみたい。


「ミキサーか。分かった、なんとかしよう。ポンプと同じような感じで、プロペラの代わりに刃が回転するようすればなんとかなりそうだ」

「安全のために、あまり大きな物にしないでね」

「もちろんだ。指でも入れたら、痛いじゃすまないだろうからな」


 ポンプと似たような構造だと理解したデニス親方。とても楽しそうな顔をしながら、ミキサーを完成させた。残念ながら容器はガラスではないので、中は見えないけどね。そのうちガラス製にしたいところである。


「これで完成だ。どうだ?」

「最高だよ、デニス親方。これは売り物になるよ。野菜を細かく切るときに使ってもよさそうだね」

「なるほどな。これならスープも簡単に作れそうだ」

「野菜タップリのジュースも作ることができるよ」

「うわ……それはちょっと勘弁だな」


 嫌そうな顔をするデニス親方。そんなデニス親方の顔を見て、ミューと一緒に笑っていると、アルフレッド先生とフェロールが戻ってきたみたいだ。

 ボクたちが楽しそうに騒いでいるのに気がついて、疲れているはずなのに、屋敷へ入らずにこちらへとやって来た。


「何やら盛り上がっているようですね」

「何か楽しいことでもありましたかな?」

「お帰りなさい、アルフレッド先生、フェロール。これからシャーベットを作ろうと思っていたところです」

「ミュ!」


 ミューがいい返事をしたので、それが食べ物であることを、アルフレッド先生とフェロールは察知したようである。その視線が先ほどデニス親方が作ったミキサーへと向かった。


「見慣れない魔道具がありますね。これはデニスが作った物なのでしょう?」

「そうだぜ。坊主の思いつきを形にした物だ。ミキサーっていう名前だ。中に入れた物をバラバラに細かくすることができる魔道具だ」

「なるほど、リディルくんの思いつきですか。それで、これで何を作るつもりなのですか?」


 アルフレッド先生の視線がこちらを向いた。どうやら単なる思いつきでミキサーを作ったわけではないことが分かったようだ。

 ボクはアルフレッド先生とフェロールの前に、カチンコチンに凍ったミカンを置いた。


「この凍ったミカンを粉々にして、シャーベットにしようと思っています」

「なるほど、シャーベットと作る魔道具でしたか。確かに刃物を使ってシャーベットにするのには時間がかかりますからね。魔法だと、あちこちに飛び散ることになりますし」

「これなら中に入れた物が飛び出すこともありませんな。さすがはリディル様。王城にこれがあれば、料理人たちも楽をすることができたでしょうね」


 そう言いながら、フェロールがミキサーを手に取って確認している。持ち運べるくらいの大きさなので、色んなところで使ってもらえると思う。

 それじゃ、さっそくシャーベットにしてみよう。さっきからミューが冷凍ミカンとミキサーを交互に見てるからね。


「デニス親方、試しに使ってみましょう」

「そうだな。まだ試運転が終わってないからな。これをやらなきゃ始まらねぇ。フェロール、貸してみな」


 フェロールからミキサーを受け取ったデニス親方がその中に冷凍ミカンを入れる。テーブルの上でしっかりとミキサーを抑えると、操作ボタンを押した。

 ウイーン! という甲高い音と一緒に、ジャリジャリという音がする。


 でも、それはほんの少しの間だけだった。どうやらもうシャーベットになったようである。ミキサーのフタを開き、アルフレッド先生が準備してくれたボウルの中に、デニス親方が中身を入れた。


「ミュ!」

「おお、滑らかな感じに見えるね」

「これはすごいですね。なんだか私の知っているシャーベットとは違いますよ」

「確かにとても滑らかですな」

「これがシャーベットか。なかなかよさそうじゃないか」


 今にもシャーベットに飛びつきそうになったミューを抱きかかえる。その間にアルフレッド先生が全員分のお皿を出して、次分けてくれた。

 さすがに全部をミューだけで食べると、おなかを壊すよ。もちろん、木のスプーンもついているぞ。


「さっそく味見してみましょう」

「ミュ、ミュー!」


 器用に木のスプーンで一口食べたミューが飛び上がった。あれは冷たかったからのか、それとも、おいしかったからなのだろうか。ボクではちょっと判断できないな。

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