第171話 スイーツ店を作りたい

 マジックバッグの中からミカンを取り出した。数日のうちに食べる予定だったので、ボクの作ったマジックバッグでも問題なし。

 おもむろにミカンを取り出したボクを見て、ミューが飛びついて来た。どうやらもらえると思ったみたいだ。


「ミュ、ミュ!」

「ダメだよ、ミュー。これは冷凍庫の試験に使うからね。うまくいけば、凍ったミカンのシャーベットが食べられるよ」

「ミュ!? ミュ!」


 どうやら納得してくれたようである。善は急げとばかりにボクを冷凍庫へと押し出すミュー。結構力が強いぞ。

 そんなボクとミューを見て、デニス親方が何やら考え込んでいた。


「シャーベットっていう名前なのか。人族は本当に面白いことを考えるな」

「王城にいたころでもめったに食べられなかったけどね。でもそうか。ここでなら、好きなだけ食べることができるようになるのか。それなら今度は他の果物でも試してみたいね」

「ミュ!」

「シャーベットのお店が開けそうだな」


 そう言って、ガッハッハと笑うデニス親方。スイーツ店を開店するのもいいかもしれない。あとでアルフレッド先生とフェロールに相談してみよう。

 たぶんだけど、ドワーフは販売には向かないと思うんだよね。同じことの繰り返しと言えばその通りだし。


 ドワーフが作った魔道具がなかなか出回らないのは、そう言った理由もあるのかもしれない。そしてスイーツ店を作ることになるのなら、新しいスイーツも作りたいところだ。


「冷凍庫の試験がうまくいって、牧場が完成すれば、アイスなんかも作れるようになるかもしれないね」

「ミュ!?」

「おう坊主、そのアイスっていう物はなんだ? 話の流れからして、甘い物みたいだが」

「ああ、アイスって言うのはね、ミルクに砂糖を加えて、それを固めて作った甘い食べ物だよ。もちろん、ただ単に二つの素材を混ぜただけじゃないけどね」


 そんな物もあるのか、とどこか納得した様子のデニス親方。ミューはボクを見上げて目を輝かせていた。

 これは近いうちに挑戦しないといけないな。アイスはみんな大好きな食べ物なので、きっと人気商品になるはずだぞ。


 果物も混ぜて、色んな味のアイスを作りたいな。そしてできればソフトクリームも食べたい。冷凍庫が完成すれば夢が広がるな。

 ミカンが凍るまでには時間がかかる。冷凍庫が完成したかどうかが分かるのは今日の夕方くらいになりそうだ。もちろんミカンだけでなく、容器に水を入れた物も置いておく。


「うまく作れているといいんだけどな」

「そこは問題ねぇぜ。俺の見た限りではちゃんと冷凍庫になっている。さすがはマジックバッグを作っただけはあるな」

「それなら安心だね。デニス親方の教え方がよかったから、失敗することなく完成させることができたんだと思うよ」

「そうかぁ?」


 そう言いながらも、後頭部に手を当てて照れているデニス親方。満更でもなさそうだな。

 次はどうしようかな、と思ったけど、冷たいスイーツに備えて、もう一台、冷凍庫を作っておきたいところだね。これはボクの部屋に置いて、色んな実験に使うとしよう。


「デニス親方、もう一台、冷凍庫を作りたいな」

「いいぜ、今度は自分一人の力でやってみな!」

「よーし、やるぞ!」

「ミュ!」


 どうやらミューはボクの部屋でアイスやシャーベットを食べることができると思ったようで、ボクの周りを飛び回って応援しているようだった。

 ……たぶん応援しているんだよね? ご機嫌に歌っているみたいだけど。


 そんなミューからの応援もあって、先ほどよりも時間をかけることなく、二台目の冷凍庫を完成させることができた。

 やはり前世の記憶は偉大なり。一度作れば、どこかしらが前世の記憶とつながるようで、簡単に作れるようになるのだ。これは楽しい。


「完成だよ」

「うーん、坊主には魔道具師としての才能があるみたいだな」

「魔道具だけじゃなくて、大抵の物はすぐに作れるようになるよ。木工品の作り方をアルフレッド先生から教わっていたときも、同じようなことを言われたからね」

「そうだったのか。さすがは世界樹の守り人だな。俺もあがめておいた方がいいか?」

「ミュ?」

「やめてよね、二人とも」


 冗談かのように首をかしげる二人に、慌てて否定する。ここで肯定したら、本当にあがめられることになりそうだ。世界樹の守り人だからって、みんなとの距離ができるのは嫌だからね。


 二台目の冷凍庫の確認もしなければいけないな。でもその前に、最初に作った冷凍庫の様子を確認しないといけない。日も暮れかけてきたし、そろそろ凍っているはずである。


「デニス親方、冷凍庫の確認をしようと思う」

「そうだな、それなりに時間が経過しているからな。もう凍っているかもしれない」

「ミュ、ミュ!」


 冷凍庫に飛びつくミュー。だがお利口さんなので、勝手に冷凍庫を開けることはなかった。たぶん自力で開けることができるはずなのに。えらい。

 そんなミューをなでながら、冷凍庫を開ける。試験用に置いていた水はしっかりと固まっているようだね。

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