第169話 みんなの報告を聞く

 昼食を食べながら、みんなの報告を聞くことにした。まずはアルフレッド先生からだ。その表情からして、どうやら無事に引き受けてもらえたみたいだね。


「牧場の話ですが、快く引き受けてくれましたよ。話を聞いてすぐに牧場予定地を見たいということでしたので連れて行きました」

「反応はどうでしたか?」

「とても喜んでくれましたよ。そこでさっそく、あの丘を使いやすいように魔法で改良しておきました。ため池から水が流れてくるように小さな小川を作っておいたので、動物たちも自然にいるときと同じように水を飲めると思います」


 小川を作ったんだね。ボクも小川があった方がいいんじゃないかなと思っていたから、ちょうどよかったと思う。でもまさか、午前中の間に作ってしまうとは思わなかったぞ。さすがはエルフ。

 これは予想よりもずっと早く牧場が完成するかもしれないね。楽しみになってきたぞ。


「牧草はどうするのですか?」

「それも心配はいりませんよ。すでに牧草の種をまいて、魔力をそそいでおきましたから。数日の間に、十分な大きさの牧草が育っているはずです。育ちすぎた牧草は刈り取って、冬に備えて蓄えておくそうです」

「それなら問題なさそうですね。すぐにでも放牧ができそうです」

「今は囲いを作っているので、あと二、三日もすれば放牧が始まると思いますよ」


 さすがは馬を育てるのが好きなエルフさんなだけはあるね。これなら任せておいて大丈夫そうだ。あとは人手が足りるかだな。ドワーフさんの中にも牧場に興味がある人がいるとうれしいんだけど。


「アルフレッド先生、人数は足りていますか?」

「大丈夫ですよ。彼以外にも、馬が好きな人は何人かいますからね。その人たちが協力してくれるそうです」

「それならよかったです。デニス親方、ドワーフさんの中にも、馬に興味のある人がいたりする?」


 ボクの素朴な疑問に、デニス親方の顔がなんだか苦い物でもかんだかのような表情になった。どうやらまずいことを聞いたみたいである。


「いないと思うぜ? 坊主、俺たちが馬に乗れると思うか?」

「あ……」


 そうだよね。ドワーフさんたちはエルフさんたちみたいに、スラリと手足が長いわけではないもんね。どちらかと言うと、ずんぐりむっくりとした体型をしている。その体型では馬に乗るのは難しいだろうな。

 よし、今の質問はなかったことにしよう。次だ、次。次はフェロールだね。


「フェロールの方はどうだった? 作物の育ちは順調なのかな」

「とても順調ですよ。たくさん収穫してきましたので、悪くならないうちに、アルフレッド殿のマジックバッグへ移動させなければいけません」

「ごめんね、フェロール。ボクがもっと高性能なマジックバッグを作ることができたらよかったのに」


 初めて作ったマジックバッグだったから、時間の停止機能はついておらず、拡張機能しか備わっていないんだよね。それなりに物は入るけど、保存性はイマイチだ。熟成したいワインや、劣化が遅い木工品や加工品なんかを運ぶのには問題ないんだけど。


「何をおっしゃるのですか。リディル様にいただいたマジックバッグはとても重宝しておりますよ。これがなければとても収穫物を回収することはできなかったことでしょう」

「そんなにあるんだ」

「はい。果樹園にしていた区画でも実が実り始めましたからね。町の人たちがはしごを持って来てくれたので、よさそうな物を収穫しておりますよ」

「キュ!」


 果物が実ったと聞いて、ミューがフェロールに飛びついた。そんなミューの様子に笑顔を浮かべながら、収穫してきたリンゴとミカンをミューの前に出した。

 どちらも立派に育っているね。ツヤが違う。それにほのかに甘い香りが漂っているぞ。


「ミュ!」

「さっそく試しに食べてみないといけないね」


 ボクがそう言うと、フェロールがあっという間に皮をむいてくれた。

 すごい! ナイフの使い方がとても鮮やかだ。ボクにはまねできそうにないね。

 フェロールがむいてくれたリンゴとミカンをミューが食べる。どうやらおいしかったらしく、目を大きくすると、すごい勢いで食べ始めた。


「ミュー、ボクにも一口ちょうだい」

「ミュ」

「ありがとう。おお、甘い! すごく甘いよ。リンゴにはほのかな酸っぱさがあるけど、それがいい感じに甘さを引き出しているような気がする。ミカンはただただ甘いね」

「私もいただいてもいいですか?」

「俺も食べてみてぇな」

「私も……」


 そんなわけで、追加でフェロールが出してくれた果物をみんなで食べた。みんな満足そうな顔をしているし、同時にとても驚いていた。


 ミューの食べっぷりからして、どうやらミューに食べさせるのは、野菜やお肉じゃなくて果物が正解みたいだね。食いつきがすごい。これは次からミューのご飯は果物中心で決まりだね。


「リンゴもミカンも、これほど甘く育つ果実でしたかね?」

「ニャーゴさん、この地には世界樹がありますからね」

「あ、そうでした。なるほど、だからこんなにも甘くておいしいんですね。それに魔力もしっかりと詰まっているみたいです」


 どうやら普通のリンゴとミカンよりも優れているみたいだね。ボクもそう思ったけど、間違いではなかったみたいだ。

 そしてそれは世界樹さんが関係しているらしい。それに魔力が詰まってるって、どういうことなの? 食べるだけで魔力が補充されるってことなのかな。

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