第166話 デニス親方に弟子入りする
待てよ、ビールを売りに出すのはいいとして、ビールは冷やさないとおいしくないよね? 冷やさないビールはビールじゃない。エールだ。
「アルフレッド先生、ビールはどうやって冷やしておくつもりですか?」
「あー、それがありましたね」
「そうだな、冷蔵庫を持ってくるしかねぇな。人族で魔法を使うことができるのはごく一部なんだろう?」
「そうだね。そうなると、料理店と直接お酒を売る交渉をした方がいいのかもしれないね。そうすれば、冷蔵庫を食べ物の保管用にも使ってもらうことができるし」
町を見て回った限りでは、魔道具を使っていそうなところはなかった。肉も冷蔵保存している感じではなかったからね。
それなら冷蔵庫を持ってきてあげれば、料理店も喜んでくれるはずだ。
「それでは、冷蔵庫は貸し出すようにいたしましょうか。最初は無料で貸し出して、利益が出るようでしたら、使用料をいただくことにしましょう。それでも魔道具を購入するよりかは安いでしょうからね」
フェロールがそう言ってからうなずいている。どうやら頭の中で素早く計算しているみたいだ。計算ならボクでもできるけど、この世界の相場を考慮してから計算するのはまだまだ無理だからね。
「そうしよう。貸し出しにするのなら、壊れたときにボクたちで修理することができるからね」
「そうだな、そうするか。それじゃ、ノースウエストのみんなにも手伝ってもらわないといけねぇな」
「弟子をたくさん取ってもらわないと」
人族の弟子を取るのはドワーフさんたちにとっても悪くはないはずだ。だって弟子たちに同じ物を作ってもらうようにお願いすることができるからね。ドワーフさんたちの「同じ物をひたすら作り続ける」というストレスも緩和されるはずである。
「そうするか。ノースウエストに戻ったら忙しくなるな」
「それじゃ、隣町のどの店にビールを置いてもらうか、考えておかないといけないね」
何事も最初が肝心だからね。悪いウワサが広まってしまったら、せっかくのビールが売れなくなってしまうかもしれない。大事だぞ。失敗は許されない。
「それでしたら、今日のお昼を食べた料理店はどうでしょうか? あそこはわたくしの知り合いが経営しておりますので、都合がいいと思います」
「分かったよ。それじゃ、料理店との交渉はフェロールに任せてもいいかな?」
「お任せ下さい」
フェロールがしっかりと請け負ってくれた。交渉には時間がかかるかなと思っていたけど、これなら予想以上に早く商談がまとまりそうだな。戻ったら急いで冷蔵庫を作ってもらわないと。ついでに冷凍庫もつけてもらいたいな。
「デニス親方、冷凍庫つきの冷蔵庫を作ってもらえないかな?」
「任せておけ。坊主も一緒に作るか?」
「もちろん手伝わせてもらうよ。ボクが作った物を鑑定する魔道具が役に立ったばかりだからね。次も役に立つ物を作りたい」
「それじゃ決まりだな」
デニス親方がうれしそうに笑っている。これでボクは正式にデニス親方の弟子ということになるね。親方の顔を潰さないように、安全第一の魔道具を作ってみせるぞ。
ノースウエストへ戻るころにはすでに夕暮れが近づいていた。
急いで夕ご飯の支度をしないと、と思っていたら、ずっと屋敷で作業をしていたニャーゴさんが準備してくれていた。
「お帰りなさい。夕食の準備はできていますよ。ケットシー族の伝統の料理を食べていただきたいと思って」
「ありがとう、ニャーゴさん。どんな料理が出てくるか楽しみだね」
食事の準備をしながら、隣町についての話をニャーゴさんにもしておく。そして怪しげな魔法薬が売られているという話をすると、ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「なんということを。錬金術の道具で一番大事なことは、信用だと言うのに」
「ニャーゴの言う通りだな。魔道具だって、信用が第一だぜ。安全な魔道具こそが、信用を高めることができる」
デニス親方がうなずいている。どうやら人族のやり方がだんだんと分かってきて、不快に思いつつあるようだ。でも、それが普通だったりするんだよね。だから他の種族が人族の前に姿を見せなくなるんだ。
まあ、ボクがそのことを言っても仕方がないからね。今さらそれを変えるのは難しいことだと思う。
そうこうしているうちに夕食の準備が整ったようである。今日の夕食はおいしそうなミルクシチューである。なるほどね、なんとなく納得した。やっぱりケットシー族って、見た目通りネコに近い種族みたいだね。
「ミュ!」
「おいしそうだよね。あ、ミューは熱い食べ物は大丈夫なのかな。ネコ舌だったりする?」
「ミュ!」
バカにするな、と言うかのようにボクのおなかに頭突きをしてきたミュー。でもモフモフの毛と、柔らかい角のおかげで全然痛くないぞ。こんな攻撃力のなさで、よくこれまで生き残ることができたよね。
ああ、そう言えば、ミューは精霊魔法が使えるんだったか。それなら簡単には負けることはなさそうだ。
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