第164話 町長さんの家にお邪魔する
その後もトマスさんと話していると、その流れでトマスさんの家に行くことになった。どうやら今後を見据えて、ノースウエストとも交流を深めたいと思ってくれたみたいだね。
こちらとしてもありがたいお話なので、お邪魔させてもらうことにした。
「デニス親方はどうしよう?」
「心配はいりませんよ。わたくしが探してこちらへ連れてきますので」
「頼んだよ、フェロール」
「ミュ!」
「お任せ下さい」
フェロールがどうやってデニス親方を見つけるのかは分からないが、どうやら自信があるみたいだね。アルフレッド先生もフェロールなら大丈夫だと思っているようで、フェロールにうなずいただけだった。
「あの、そのウサギさんは?」
「この子はミューだよ」
「ミュ!」
「かわいいですわね」
どうやらサリー嬢はミューのことを気に入ってくれたようである。ミューもサリー嬢のことを気に入ったようで、渡してあげると腕の中にスッポリと収まった。なかなか据わりがいいみたいだね。
そんなサリー嬢と一緒に大通りから一つ入った裏通りを進むと、立派な屋敷が見えてきた。どうやらここが町長さんの家みたいだね。広さはヨハンさんの家と同じくらいだが、こちらは三階建てになっていた。
「立派な屋敷ですね」
「ありがとうございます。ここにはこの一帯を治めている領主様が宿泊することもありますからね」
「そうなのですね。領都だけでなく、周辺の町や村も視察しているとは、なかなかできることではないですよ」
「年に数回ですが、ありがたい話です」
これはますます領都へ行ってみたくなったな。そんな人物が直接治めている街なら、きっと学ぶところがたくさんあるはずだぞ。
屋敷の中へ入ると、すぐに奥さんと家族を紹介された。どうやらサリー嬢はずいぶんと遅くに生まれた子供みたいだね。
「領主様、何かこの町で気になるところはありましたか?」
「えっと、トマスさん、ボクのことはリディルと呼んで下さい。サリー嬢も、同じように呼んでもらって構わないですからね」
「わ、分かりました。ありがとうございます、リディル様」
「ありがとうございます」
うーん、王族という肩書きはこんな辺境の地でも強い効力を発揮するのか。ノースウエストではそうでもなかったから、身分が高い人に限るのだろうけどね。さすがにすぐに親しくなるのは難しそうだ。
「気になったことと言えば、のみの市で売られている魔法薬がちょっと危険そうでしたね。あれは大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、あれですか……我々も分かってはいるのですが、証拠がなくて禁止できないのですよ。実際に使って効果を確かめるわけにもいきませんし」
なるほどね。のみの市で魔法薬の販売を禁止すればいいだけなのだろうが、もしかすると、本物の魔法薬も売っているかもしれないからね。それで助かる命もあるのかもしれない。
そして自由な物の売り買いを規制すれば、のみの市に出店する人たちが激減するかもしれない。売る人がいなくなれば、当然そこへ買いにくる人もいなくなる。
魔法薬はダメだけど、古着や食器、家具なんかはまだまだ使えそうな物がならんでいたからね。新品を買うことができない人たちにとってはとても重要な場所なのだろう。
「確かにそれは困りますね。何か調べる物があればいいのですが……そうだ」
そういえば、ちょうどよく物を鑑定する魔道具を持っていたな。ボクの手作りだけど、問題なく使えることは確認ずみだ。これを使えば、危険な魔法薬を排除することができるはずだぞ。
「あの、よかったらこれを使って下さい。この魔道具を使えば、物を鑑定することができますよ」
マジックバッグの中から鑑定の魔道具を取りだしてトマスさんに渡した。それを見て、トマスさんの動きが止まった。
「よろしいのですか? このような貴重な物をいただいても」
「もちろん構いませんよ。それは私が作った魔道具ですからね。また作るので、遠慮しなくて大丈夫です」
「作ったのですか!?」
驚くトマスさん。口に両手を当てているが、サリー嬢も驚いているみたいだ。目が飛び出しそうになっている。
ボクが作った魔道具がだれかの役に立つ日がくるとは思わなかったな。なんでもやってみるもんだね。
「アルフレッド先生とデニス親方に教わって作りました」
「そ、そうだったのですか……」
「おう、俺を呼んだか?」
「デニス親方!」
フェロールがデニス親方を探し出してくれたみたいだ。相変わらずの美丈夫の姿になっているデニス親方である。
顔色はまったく変わっていないけど、ちゃんとお酒のことを調べたのかな? まさかお酒を飲まなかったなんてことはないだろうけどさ。
「これは初めまして。トマスです。この町の町長をやっております」
「フェロールから聞いているぜ、デニスだ。よろしくな」
ハッハッハと笑うデニス親方。どうやらいい気持ちになっているみたいだね。つまり、ちゃんとお酒を飲んで市場調査をしてくれているというわけだ。帰ったら話を聞かないとね。主にお酒の値段と質を。
「あの、ノースウエストにはエルフとドワーフが住み着いているというウワサがあるのですが、本当なのですか?」
「本当ですよ。アルフレッド先生はエルフで、デニス親方はドワーフです」
「なんと!」
目と口を丸くして、トマスさんがアルフレッド先生とデニス親方を交互に見ている。アルフレッド先生はともかく、デニス親方はどう見てもドワーフには見えないよね。困惑する気持ちはよく分かる。
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