第163話 トルネオさんのお店へ行く

 一通り町を見て回ったボクたちは、最後にノースウエストへいつも物を売りにきてくれているトルネオさんのお店へ行くことにした。

 トルネオさんのお見せは大通りから一つ道を入ったところにあるようだ。フェロールが事前にどこにあるのかを聞いてくれていたらしく、迷うことなくたどり着くことができた。


「ここがトルネオ殿のお店になりますね」

「大通りに並んでいた店よりも大きいね」

「どうやら店舗の大きさを確保するために、大通りではないこの場所に店を構えたようですな」


 きっとトルネオさんのことだから、質と量を兼ね備えたお店にしたかったのだと思う。そうなると、どうしても店が大きくなってしまうからね。

 さっそくお見せの中に入る。中はゆったりとしていて、動きやすく、商品も色んな物が並んでいた。


「これはこれは、領主様たちではないですか」

「トルネオさんこんにちは。この町を見学させてもらっています。そのついでというわけではないですが、トルネオさんのお店も見てみたいと思いまして」

「そうでしたか。ゆっくりと見て行って下さい。ノースウエストへはどうしても売りに出せなかった商品もありますので」


 忙しいはずなのに、トルネオさんはお店の中を案内してくれた。確かにトルネオさんの言う通り、ノースウエストでは見たことがない商品もたくさんあった。


「文房具も取りそろえているんですね」

「はい。この町には学校がありますからね。それにギルドもいくつかあります。そこの学生や職員が買いにくるのですよ」


 紙やペン、インクもあるようだ。ノースウエストではまず使うことがないからね。ノースウエストの識字率はとても低いような気がする。これはまずはそこから教えるべきかもしれないな。

 小さい学習塾くらいなら、ノースウエストにも準備できそうな気がする。


「トルネオさんのお店でも、魔道具や錬金術で作られた道具類はないみたいですね」

「領主様はそれらをお探しなのですか?」

「いえ、特には探しているわけではないですけど、ちょっと気になったものですから。それらが必要なときは隣の領都まで買いに行くのですよね?」

「そうなりますね。どちらも値段が高く、この町で買う人はほとんどいませんからね。貴族はこの町へはめったに来ませんし」


 なるほどね。さすがのトルネオさんでも、売れない物を仕入れることはないか。ノースウエストで魔道具や錬金術の道具を作って、ここで売ってもらえないかと思ったけど、ちょっと難しそうだな。


 トルネオさんのお店に並んでいる物の種類はすごかった。これだけの物をそろえるのは大変だっただろうな。そしてこれだけの種類の商品をノースウエストで準備するのは難しいだろう。

 それなら得意なジャンルに特化して作った方がよさそうだな。一点突破だ。


「おや、町長さんではないですか」


 振り向くと、そこには町の人たちよりも装飾品のついた服を身につけた人物がいた。どうやらこの町の町長さんみたいだね。その隣には、子供なのか、孫なのかは分からないけど、ボクと同じくらいの女の子の姿があった。

 ボクと目が合うと、サッと町長さんの後ろへ隠れた。


「トルネオさんが案内しているとは、珍しいですね」

「それはそうですよ。こちらはノースウエストの領主様です」

「初めまして。リディルです」

「え? は、初めまして、町長のトマスです」


 トマスさんと握手をする。どうやらトルネオさんからはある程度の話を聞いているようで、緊張した様子だった。ボクが王族であることも知っているのだろう。

 だが安心してほしい。名ばかりの王族だからね。もう王都でもボクの名前は通用しないことだろう。


「私の後ろに隠れているのは一番下の娘のサラです。ほら、サリー、ごあいさつしなさい」

「サ、サリーです」


 トマスさんの後ろから顔だけ出したサリー嬢。トマスさんと同じく赤い髪に暗紅色の目の色をしているな。髪は肩までの長さで、活発的な女の子に見えるけど、中身はそうでもないようだ。

 どちらかと言うと、人見知りがあるような女の子みたいだね。


「こんにちは。これからよろしくお願いしますね、サリー嬢」

「よ、よろしくお願いしましゅ」


 かんだぞ。だが、そのことには気がつかなかったフリをしよう。それでこそ、紳士だ。

 そのあとはフェロールとアルフレッド先生があいさつをする。今は姿を変えているので、アルフレッド先生のことをエルフだとは気がつかなかったようだが、その顔を見て、サリー嬢はちょっとほうけているようである。さすがはエルフ。


「領主様はどうしてこちらへ?」

「ノースウエストにお店を出せないかと思いまして。それでこちらの町のお店を参考にさせてもらおうと思ってきました。お恥ずかしいことに、物の値段がよく分からないのですよ」

「そうでしたか。確かノースウエストでは物々交換をすることが多かったのでしたね」

「ええ、そうです。さすがにそれでは物を売りにくいですからね。なんとかお金でのやり取りにできないかと思っています」


 ボクの話を聞いて、笑顔でうなずいているトマスさん。どうやら感心しているようである。ノースウエストにお金が流通することになれば、この町にもお金が入ってくることになるからね。願ったりかなったりなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る