第162話 のみの市
その後もお店を見て回る。そして売っていない物に気がついた。
「さすがに魔道具が売っていないのはなんとなく理解できますけど、魔法薬も売ってないみたいですね」
「その様ですね。どうやらかなり貴重な品のようです」
「それならノースウエストで魔法薬を売るようになったら、隣街から買いにくるかもしれませんね」
魔法薬はノースウエストに人を連れてきてくれるかもしれないぞ。ニャーゴさんにも話をしておかないとね。きっと喜んでくれると思う。
あれ、でもそうなると。
「それじゃ、この町でケガや病気をしたらどうしているのかな?」
「そのときはこの町の隣にある領都へと向かうようですよ。そこならば、魔法薬も治癒院もありますからね」
フェロールはその辺りも調べてくれていたようだ。もしかすると、ボクに何かあったときのために調べてくれていたのかもしれないな。本当にありがたい。
「なるほどね。それじゃ、今までは、ノースウエストで重病人が出たら、領都まで行ってたってことだね」
「そうなりますな」
それは大変そうだな。領都まで移動するだけでも時間がかかる。ノースウエストにボクが来てよかったのかもしれない。今ならニャーゴさんがいるからね。ニャーゴさんの錬金術の道具で、大抵のことはなんとかなると思う。
「領都まで足を運びたいところだけど、また今度になりそうだね」
「この町で宿泊する必要がありますからな。改めて出直すことにいたしましょう」
大通りを見て回ったボクたちは、最後に自由に物を売り買いできる場所へとやってきた。いわゆるフリーマーケットだね。
そこは広場になっていた。物を売る人は地面の上に大きな敷物を置いて、その上に商品を並べている。中には直接、地面に置いている人もいるようだ。
そこそこの人でにぎわっているな。でも、さすがに貴族は来ていないみたいだね。そのため、ボクたちの姿はかなり目立っているみたい。なんだかあちこちから視線を感じる。
「ミュ」
「なんだか落ち着かないね。売っている物はどれも中古品みたいだ」
「そのようですな。中には壊れている物もありますぞ」
お宝鑑定のごとく、フェロールが注意深くそれらの商品を観察していた。アルフレッド先生も珍しい物があったのか、何やら手に取って確認している。
食器の他に古着もたくさんあるな。他には錬金術の道具っぽい何か。大丈夫なのかな、これ。大通りのお店では売ってなかったんだけど。
「これはなんの道具なのかな?」
「それは傷薬ですよ。とてもよく効くと評判です」
「そ、そうなのですね」
店主さんが笑顔を浮かべている。なんだかウソっぽいぞ。そんなにすごい物なら、こんなところで売っているはずがないからね。ラベルも何もないし。
ここでは食べ物も置いてあり、謎の薫製肉や、ベーコンがあった。そしてもちろんお酒もある。
デニス親方がこれを見たらなんと言うかな。買ってみようぜっていうかな?
「アルフレッド先生、何か気になる物がありましたか?」
「ええ、まあ、色々と。ここで買うのは小道具や服だけにしておいた方がよさそうです。決して口に入れる物を買ってはいけませんよ」
「分かりました」
「ミュ」
ボクとミューの返事にうなずくアルフレッド先生。どうやら危険な物が売られているみたいだね。口の中に入れる物はちゃんとしたところで買うようにしないと。
そうなると、やはりあの錬金術の道具類はニセモノだったようである。買う人がいるのかな?
結局、フリーマーケットを利用してノースウエストの商品を売る作戦は取りやめにすることになった。
こんな怪しいところで商品を売っていたら、同業者だと思われるかもしれないからね。せっかくのノースウエストで作られた良品が、不良品扱いされるのはさすがに許容できない。
「この町で売るには店を持つ必要がありそうですね」
「そうなりそうですね」
アルフレッド先生も困り顔である。人族の社会はとんでもないなと思っているのかもしれない。エルフ社会ではきっときちんとした物が売られているんだろうな。
それもそうか。エルフたちだけでなく、ドワーフたちや、ケットシーも、自分の作った商品には誇りを持っているみたいだったからね。怪しげな物を売りに出すことなんてやらないだろう。
「しかしこの町で店を構えるとなると、商業ギルドに所属せねばなりません。そうなると、商業ギルドから色々と口出しされることになりますな。色々と面倒なことになるかもしれません」
「確かに面倒なことになりそうですね」
アルフレッド先生が遠い目をしている。きっと人族の社会にはあまり関わりたくないと思っているに違いない。
だってボクもそう思っているからね。これならわざわざ隣町へ売りに行くより、ノースウエストに人が集まるように模索した方がよさそうだ。
うん、そうしよう。
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