第160話 日替わり定食
ちょっとお尻が痛くなってきたところで隣町へ到着した。無事に到着したのはいいけど、そろそろお昼の時間である。せっかくなので、この町で昼食を食べることにしよう。
「先にお昼にしませんか?」
「そうですね、それがいいかもしれません」
「おう、もうそんな時間か?」
「ミュ!」
「それでしたら、評判のよい食堂を知っておりますので、案内いたしますよ」
「よろしくね、フェロール」
どうやらフェロールはワインを売るときに、何度かここへ来たことがあるみたいだね。それとももしかして、影の人としての仲間がこの町にもいるのかもしれない。たぶんボクじゃ分からないんだろうけどね。
フェロールに案内されたのは町の中央付近にある、ちょっとしたお店だった。すでにたくさんの人がおり、にぎわっているようだった。
そんな中にイケメンのアルフレッド先生とデニス親方が入ってきたことで、注目が集まった。フェロールは執事の姿だし、今のボクたちはどこかの貴族、もしくはお金持ちだと思われていることだろう。
そんな視線などまったく気にしない様子で、アルフレッド先生とデニス親方があいている席へと座った。四人がけの四角いテーブル席である。ミューはボクの膝の上に載った。いつもの体勢だね。
「これがメニュー表みたいですね。えっと、どれがいいのかな?」
「おすすめは日替わり定食ですな。今日採れた、新鮮な野菜や肉を使った料理が出てきますよ」
「それじゃ、それにしよう」
主体性はないが、それだけに間違いもないだろう。こういうのでいいんだよ。フェロールも日替わり定食にしたようだ。
アルフレッド先生は野菜タップリのヘルシーメニュー、デニス親方は肉と酒のついたランチにしたようだ。どうやら飲むらしい。分かってたけどね。
注文を待つ間に周囲の人たちを観察する。
やはりボクたちは目立っているようで、チラチラと目が合うな。あまり気にしないようにして、食べている物や、服装なんかを確認する。
なるほど、ノースウエストには服飾店も必要だな。もう少しノースウエストの人たちにもおしゃれをしてもらいたいところだね。この町の人たちが身につけている服には色んな色が入っている。そうして思い出してみると、ノースウエストの住人たちが着ている服は少し地味で同じ色ばかりだった。
「アルフレッド先生、服を作るのが得意なエルフさんもいますか?」
「もちろんいますよ。次は服や、装飾品も作れるようにしましょうか」
「ドワーフにも作れるやつがいるぞ。特に光り物を作るのが得意なやつがな」
「それならドワーフさんにもお願いしよう。ああ、でも、一点物になっちゃうのか。それなら弟子を探しておかないと」
「頼んだぜ、坊主、フェロール」
「やれやれですな」
少しあきれた様子になったフェロール。ドワーフのすぐ飽きるクセはどうにかならないものかと思っていることだろう。ボクもそう思う。
食堂のメニューにはどうやら麺類もあるみたいだな。パスタ料理とかをノースウエストの料理店で出してもらうのもいいかもしれない。
あとはやっぱり日替わり定食をまねしたいところだね。新鮮な野菜なら、ノースウエストも負けてはいない。
そうしている間に、みんなのところへ料理が運ばれてきた。どれもとてもおいしそうである。
「ミューはボクのを分けてあげるからね。さすがに一人では食べられないよ」
「ミュ」
「それにしても、何も言われなくてよかった。ミューが一緒だと、さすがに怒られるかと思ってた」
「ミューがおとなしくしているから、目をつけられていないのですよ。それに神獣ですからね。何か特殊な力が働いているのかもしれません」
「ミュ!」
ミューが力強く返事をした。どうやらそうみたいだね。神獣には周囲の人の心を穏やかにさせる力があるのかもしれない。確かにそれなら納得できるぞ。さすがは神獣モフモフなだけはあるな。
日替わり定食にはハンバーグと野菜スープ、そしてパンがついていた。かなり豪華に見えるのはボクだけなのだろうか。アルフレッド先生のヘルシーメニューはサラダがてんこ盛りだった。女性に人気があるのかもしれない。
アルフレッド先生はそのサラダをミューにも分けてくれた。もちろんミューは喜んだ。優しい。
デニス親方のステーキセットはすごいな。昼間から食べる物ではないような気がしたけど、人気メニューなのか、他にも食べている人がいるんだよね。やっぱり肉を食べないと、力が出ないのかもしれない。お酒はウイスキーみたいだね。
「キンキンに冷えたビールだったらよかったのに」
「さすがにここでは無理みたいだね」
「ああ、ビールが恋しいぜ」
そう言いながらも肉とウイスキーを口の中へかきこむデニス親方。豪快な食べ方である。見た目が美丈夫なだけに、すごく違和感があるな。
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