第159話 隣町へ視察に行く

 そういえば、デニス親方はそのままの姿で行くのかな? 身長から人族とは少し違うと思われるかもしれない。そうなると、デニス親方がドワーフだってことがバレるかもしれない。


「デニス親方も姿を変える魔道具を使うの?」

「うーん、そうだな、念のため使っておくか」


 そう言ってデニス親方がゴソゴソとマジックバッグから魔道具を取り出した。指輪型の魔道具みたいだね。

 デニス親方がその指輪をつけた。そこには美丈夫の姿があった。ヒゲもない。身長もアルフレッド先生くらいの高さになっていた。詐欺だよ、これ。


「どうだ?」

「変わりすぎ!」

「ミュ!」

「まあ、そう言うなって。ドワーフが姿を変えようとすれば、どうしてもこうなるんだよ。ルミナならそのままでも問題ないだろうけどな」

「どう言う意味ッス。あたしもボン、キュッ、ボンのセクシーボディになるッスよ!」


 がるる、とデニス親方に食ってかかるルミ姉さん。それはそれで完全な詐欺だと思う。もしかして、そんな姿で人族に混じって生きているドワーフもいるのだろうか? 人間不信になりそう。


「デニスもヒゲをそればそのままの姿でも大丈夫そうですけどね。リディルくんの兄貴分にしか見えないはずですよ」

「何言ってるんだ。アルフレッドも知っているだろう? ドワーフにとってヒゲは自分の存在価値を示す物だぞ」

「そうだったんだ。だからみんなヒゲを伸ばしているんだね」


 言われてみれば確かに、ヒゲをそったドワーフはいないな。もしそんな人がいれば、アルフレッド先生の言うように、ボクの友達にしか見えないだろう。

 そうなると、ルミ姉さんはボクの友達だとすでに思われているのかもしれない。

 ドワーフの女性も大変だな。


 その後は現在建設中の建物の話をしてから、畑の様子を見に行った。今では町の人たちが手伝ってくれているので、特にボクたちが何かをする必要もなくなっている。終わり際にフェロールが収穫した物をマジックバッグへ入れて持って帰るだけだ。


 今のところ、マジックバッグのことは知られてはいないようである。ボクたちが魔法を使っているのをみんなが見ているので、フェロールも魔法を使うと思われている様子だ。

 そして物を収納できる魔法を、ボクたち全員が使えるのだと思われているようである。


 どうやら予定通りにマジックバッグのことを知られずにすんでいるみたいだね。これなら妙なウワサが出回ることもないだろう。




 翌日、フェロールを加えたボクたちは隣町へと視察へ向かうことにした。乗り物はアルフレッド先生がマジックバッグから出してくれた馬車である。デニス親方は持っていなかったみたいなので、馬車を作りたがっていたけど、また今度にしてもらった。


 馬はどうするのかなと思っていたのだが、昨日のうちにアルフレッド先生の知り合いのエルフさんが立派な馬を届けてくれた。どうやらノースウエストに来ているエルフさんの中に、馬を育てるのが得意な人がいたようだ。ボクの知らないところに牧場を作って、そこで馬を育てていたみたい。


 せっかくなので、ノースウエストの牧場を担当してもらうことにした。馬の他にも牛や豚なんかも育てられないかと話したら、ものすごく喜んでいた。一度、やってみたかったらしい。


 そんなわけで、今回の視察では家畜を購入するための下調べもする予定である。うまくいけば、ノースウエストで安定的に肉を手に入れられるようになるぞ。


「忘れ物はないですね? それでは出発しますよ」

「隣町についたら、商人のトルネオさんにあいさつしたいですね」

「それがいいでしょうね。色々と教えてもらえるかもしれません」


 こんなことなら、事前にトルネオさんに隣町へ行くことを話しておけばよかったな。ちょっとあせりすぎたかもしれない。

 でも、着々と宿屋と商店ができつつあるんだよね。ボクの情報収集が遅れれば、それだけみんなの頑張りがムダになってしまう。それだけは避けないと。


 ノースウエストを出て頼りなく続く細い道を進む。この道を通るのは二度目だね。もちろん一回目はノースウエストへ向かったときである。

 ガタガタと激しく揺れる馬車。道はまだまだ舗装されていない。そのうち道幅を広くして、表面のでこぼこが少ない道にしたいところだね。

 そうすれば、ノースウエストへの行き来も楽になるはずだ。みんなも喜んでくれると思う。魔法でやればすぐだよね。

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