第158話 責任重大
まだ昼食を食べている人たちもいるようで、作業現場にいる人はまばらだった。それでもすでに活動しているドワーフさんとエルフさんたちもいた。
「せっかくここまで来たので、中を少しだけ見せてもらってもいいですか?」
「もちろんですよ。ぜひとも見て行って下さい」
笑顔のエルフさんに導かれて一階部分へと入った。どうやらすでに内装を作っているようである。てっきり先に建物だけを作って、あとで内装を作るものだと思っていたけど、どうやら違ったみたいだね。
考えてみれば、それもそうかと納得できる。どちらかと言うと、ドワーフさんは建物を建てるのが得意みたいだし、エルフさんは内装を作る方が得意そうだ。家具とかにもこだわったりするんだろうな。
「おお、ここがお店のカウンターになるんですね。お店ごとに違う装飾にするのですか?」
よく見ると、お店の区画ごとに違う模様や彫り込みがなされているように見える。統一感はないけど、なんだか華やかな雰囲気になることは間違いなさそうだ。
ボクの言葉を聞いて、案内してくれているエルフが笑顔になった。
「よく気がつきましたね。さすがは世界樹の守り人様です。そうなのですよ。それぞれが一つのお店を担当して、装飾を競い合うことにしたのです」
「そうだったんですね。それじゃ、どんなお店ができあがるのか、とても楽しみですね」
「ええ、もう、楽しみにしていて下さい。判定は守り人様にお願いするつもりですので」
うわ、責任重大だぞ! どうしてそんなことになっているんだ。でも、そうやってみんなが楽しみながら仕事をしてくれているのなら、それはそれでいいような気がする。それならボクは、しっかりとみんなの仕事を見届けて、評価しないといけないね。
優勝賞品でも用意しておいた方がいいかもしれないな。
その後も一階部分を見せてもらっていると、だんだんと建築現場が騒がしくなってきた。どうやら食事に行っていた人たちが次々と戻ってきているみたいだね。
「ミュ!」
「あ、デニス親方とルミ姉さんも戻ってきたみたいだね」
そんなわけで、ミューの角を隠す魔道具を持っていないかを聞きに行った。デニス親方とルミ姉さんはいい感じにお酒が入っているようで、どこか楽しげに肩を並べて話している。
「デニス親方、ルミ姉さん」
「おう、坊主、見にきていたのか。完成まではまだまだかかるぞ。なんと言ってもノースウエストの目玉になる建物だからな。手は抜けねぇ」
「坊ちゃんとアルフレッド様が見にきてくれているなら、もっと早く戻ってくればよかったッス」
どこか誇らしげに話すデニス親方。失敗したとばかりに、ちょっとガッカリした様子のルミ姉さん。そんな二人に、魔道具について尋ねる。
「ミューの角を隠す魔道具を持ってないかな? 明日にでも、隣町へ視察に行こうと思っているんだ」
「明日の視察にはデニスも一緒に来てもらいたいのですが、お願いできますか?」
「もちろんだぜ。それが俺の役目だからな。ミューの角を隠す魔道具か。俺は持ってねぇな。ルミナはどうだ?」
「えっと、あったッス! でも、指輪なんですよね。ミューちゃんにはつけられないかも」
ルミ姉さんから受け取った指輪型の魔道具は大人サイズで、ボクの指にもうまくつけられそうにない、そしてウサギ型のミューでは間違いなくつけらえれないだろう。どうしたものか。
「貸してみろ。俺がちゃちゃっと首輪型に加工してやるぜ。それならミューでもつけられるだろ?」
「ミュ!」
「デニス親方、お願いします」
「あ、今からあたしがやろうと思ったのに!」
どうやらいいところをデニス親方に取られてしまったようである。デニス親方にまとわりつくルミ姉さん。それをうっとうしそうにデニス親方が払っていた。
妹だからなのか、なかなか容赦がないな。そして物づくりに関することとなると、他に譲るつもりもないようだ。さすがはデニス親方。ドワーフの中でも一番の腕を持っているというだけはあるな。
それほど時間をかけることなく、魔道具の改良は終わったようである。ミューの首のサイズに合わせた「姿を変える魔道具」が完成した。
「よし、できたぞ。試しにつけてみろ」
「ミュ! ミュ?」
「おお! ミューの黄金の角がなくなってる。これなら普通のウサギにしか見えないね。これなら一緒に隣町へ行くことができるぞ」
「ミュ!」
ミューもうれしそうにしているね。
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