第156話 ニャーゴさんに前世の記憶のことを話す

 ニャーゴさんに代わって、まずはボクが蒸留水を作らせてもらうことになった。

 この手の機器の取り扱いはボクの得意とするところだ。先ほどニャーゴさんがやっているところもしっかりと見せてもらったし、装置の使い方も大体覚えた。問題はないはずだぞ。


 慎重に機器を動かす。使う水はニャーゴさんが出してくれた水なので、先ほどと同じような感じで大丈夫だろう。

 機器に設置されている温度計を見ながら、慎重に加熱していく。不純物がなるべく入らないようにした方がいいよね。


 まあ、精霊魔法で出した水なので、元から変な物なんて入っていないんだけどね。

 ダイヤルを回して火力をアップ。そして温度が上がりすぎたら、少しだけ容器を離す。管を通って冷却された蒸留水が、管の先に置かれているビーカーへゆっくりとたまっていく。


「……なんだかずいぶんと手慣れておりますね」

「まあ、そうかもしれませんね」

「そういえば、ニャーゴさんにはまだ話していませんでしたね。どうしますか、リディルくん?」

「これから一緒に生活することになりますし、話しておこうと思います」


 そんなわけで、蒸留水を作りながら、ボクの前世の記憶についてをニャーゴさんにも話した。その話を聞いたニャーゴさんはすごく驚いたみたいである。


「前世の記憶! そんなものがあるのですか。ずいぶんと装置を使うのに手慣れているように感じたのはそれが原因だったのですね」

「インチキしているみたいでごめんなさい。そうなりますね。これよりも、もっと複雑な装置を使っていました。なのでこのくらいはそこまで難しくありません」

「素晴らしい……! これならリディル様は一流の錬金術師を目指すことができますよ」


 よほどうれしかったのだろう。ニャーゴさんが小躍りしそうな勢いで、ボクと、ボクが精製している蒸留水を見ていた。

 一流の錬金術師か。ものすごいアイテムを作り出すことができたりするのかな? そうなるまでには、まだまだ先は長そうだけどね。


「出来上がりました。品質はどうですか?」

「問題ありませんよ。私が作ったのと同じくらいの品質です」

「これは思わぬ才能ですね。私よりもリディルくんの方が上かもしれませんね」

「さすがはリディル様ですな。どれ、次はわたくしが挑戦させていただきましょう」


 そんなわけで、次はフェロールの番になった。フェロールはニャーゴさんだけでなく、ボクの作業もしっかりと観察していたようで、四苦八苦しながらだったがなんとか蒸留水を精製することができた。


「品質はまだまだ改良の余地がありますが、初めて作ったのなら合格点でしょう。フェロールさんも錬金術師としての才能がありそうですね」

「それはうれしい話ですな。作ってみたい魔法薬がいくつかありますのでね」


 笑うフェロール。でもその笑顔がなんか黒く見えるぞ。フェロールは影の人だからね。もしかすると、そこで使う毒薬なんかを作りたいと思っているのかもしれない。

 仕事熱心なのはいいけど、ほどほどにね。


 最後はアルフレッド先生が蒸留水を作る。

 やはり何度も蒸留水を作ったことがあるのだろう。慣れた手つきで、問題なく蒸留水を作り終えた。ニャーゴさんからはもちろん合格点をもらっている。


「アルフレッドさんもなかなかの腕前みたいですね。ずいぶんと高難易度の錬金術の道具を作ってきたのではありませんか?」

「それが、私のところではそこまで高度な錬金術の道具を作るやり方が伝わっていないのですよ。そういったわけで、中級の回復薬くらいまでしか作ることができません」

「もったいない! アルフレッドさんはまだまだ上の道具を作ることができますよ」


 ニャーゴさんが力説している。どうやら本気でそう思っているようである。それを聞いたアルフレッド先生も、満更ではなさそうな顔をしていた。どうやら興味があるみたいだね。


 そして錬金術アイテムの作り方は、どうやらその多くが秘匿とされているみたいである。

 やっぱり危険なアイテムもたくさんあるんだろうな。門外不出のレシピなんかもあるに違いない。


 ニャーゴさんはどこまで教えてくれるのだろうか。ボクがお願いすれば、どんな錬金術アイテムの作り方でも教えてくれそうな気がするんだけど。

 でも、そこに付け入るのはよくないよね。ボクからは提案せずに、ニャーゴさんが提案してくれた物だけを作ることにしよう。


 きっとニャーゴさんが選んでくれた錬金術アイテムなら、危険な物ではないはずだからね。それならボクも安心して作ることができるはずだ。

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