第155話 初めての錬金術

「あ、これは知ってますよ。薬草ですよね」

「ミュ」

「え、違うの?」


 ミューが首を左右に振っている。どうやら薬草マスターのミューは違いが分かるらしい。ボクには薬草にしか見えないんだけど。

 えっと、こっちの引き出しに入っているのも薬草だね。そっちも薬草だ。


「これは魔力草ですね。そっちはウチケシ草。そしてこっちがシビレ草ですね」

「全然分かりません!」


 ダメだな。ボクにはとても薬草マスターになることはできなさそうだ。

 そうしてニャーゴさんからひとしきり素材についての話を聞いたあとは、いよいよ錬金術をやってみることになった。


 中央付近にある作業台に、アルフレッド先生たちと一緒に座る。ミューはボクの膝の上である。勝手にあちこち歩いて、大事な素材を食べたら困るからね。

 ミューはグルメなのだ。高級な素材から食べてしまうことだろう。


「ミュ」

「ダメだよ、ミュー。ここにあるのは食べ物じゃないからね」

「ミュ!」


 そのくらい分かってる、とでも言うかのように、ミューが頭突きをしてきた。ミューってボクが思っているよりもずっと賢いよね。さすがは神獣。こんな見た目だけど、もしかしたらボクよりもずっと年齢が上なのかもしれない。


「それでは最初の授業を始めましょうか。最初に作るのは蒸留水ですよ」

「蒸留水ですか? それって、水を温めればいいだけですよね」


 ボクの質問にニャーゴさんがニコリと無言で笑った。

 ……どうやら早まったようである。これからはニャーゴさんの説明が終わるまで、おとなしくしておこう。

 どうやら先生モードのニャーゴさんは、なかなか厳しいようである。


「確かにリディル様の言う通りですが、蒸留水の作成は基本にして、頂点の中間素材なのですよ。基本をおろそかにすると応用も利かなくなりますし、出来上がった道具の品質にも大きく関わってきます」

「そうだったのですね。よく分かりました」

「分かってもらえたようでうれしいです。それではまずは私が作って見せますので、装置の使い方をよく見ておいて下さいね」


 そう言ってニャーゴさんが、先ほどのガラス製品がたくさん組み込まれた機器のところへと向かった。どうやらこれが蒸留水を作る装置だったようである。

 ニャーゴさんに続いて、装置のところへと向かう。フェロールもどこかウキウキとした感じだね。足取りも軽やかだ。


「まずは水をここへ入れます。どんな水でも構いませんよ。それこそ、泥水でも使うことが可能です」

「それはすごいですね」


 そうなると、毒水でも蒸留水に仕上げることができそうだね。これなら安全に飲み水を確保することができるね。

 あ、でも、純度の高い水って、体に悪いんじゃなかったっけ? 蒸留水をそのまま飲むのはやめておいた方がよさそうだ。


 ニャーゴさんが装置を動かすと、それほど待つこともなく、白い蒸気が上がり始めた。水蒸気だね。それを装置が集めて蒸留水にするらしい。仕組みはボクが知ってる物と同じみたいだね。


「このときの温める温度で、最終的に完成する蒸留水の性質が大きく変わってきます。火力が高いとたくさんの量が取れますが、質が下がります。ですが、低い場合は質はよいのですが量が取れません」

「なるほど。どちらを取るべきかを考えないといけないということですね」

「それもありますが、使用する水の状態を見て、的確な温度で加熱するのも、錬金術師としての腕の見せ所だったりもするのですよ」


 なるほど。そこの見切り具合で、その人の力量が分かるということか。それじゃ錬金術師たちのあいさつは、「蒸留水作ってみて」なのかもしれない。

 それなら確かに原点にして頂点だね。毎日、しっかりと鍛錬する必要がありそうだ。


 ものすごい錬金術アイテムじゃないけど、蒸留水は錬金術師にとって重要なアイテムみたいだね。

 アルフレッド先生もデニス親方もうなずいている。よし、ボクも今日から頑張らないと。


「ニャーゴさん、ボクも蒸留水を作ってみたいです!」

「あの、できればわたくしも挑戦させていただければと思います」

「もちろんですよ。それではリディル様とフェロールさんにも作っていただくことにしましょう。アルフレッドさんとデニスさんはどうしますか?」

「私も作らせていただくとしましょう。久しぶりなので、腕が鈍っているかもしれませんからね」

「俺はやめとくぜ。どうも錬金術は性に合わないみたいだ。俺も宿屋と商店を建てるのを手伝ってくることにしよう」


 そう言って、デニス親方が手を振りながら部屋から出て行った。どうやらドワーフにとって、錬金術は天敵のようだね。

 そして蒸留水の作成は、自分の腕前のチェックにも使えるみたいだ。万能なんだね。蒸留水を甘く見ていたよ。




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