第153話 ご近所付き合い
今さらながらだけど、隣町の情報が少なすぎることに気がついた。流通に関してはフェロールとヨハンさんに完全にお任せしているからね。それがよくなかったのかもしれない。
ドワーフさんやエルフさんの中には、隣町まで足を運んでいる人もいるのかな?
「フェロール、隣町のことについて、もっと詳しく教えてもらえないかな?」
「そうですな……それなら視察に行ってみますか? ノースウエストを発展させるときの参考になるやもしれません。いや、それよりも、近隣の領都まで足を伸ばした方がいいかもしれませんな」
ううむ、と考え込むフェロール。そういえば、ノースウエストに来てから、一度も他の町へ行ったことがなかったね。
いつまでも引きこもっていないで、この辺りで外へ出るのもいいかもしれない。
「リディルくんのいい刺激になるかもしれませんね。大丈夫ですよ、フェロールさん。ちゃんと私たちがついて行きますから」
「アルフレッド殿……ありがとうございます。もちろんわたくしもついて行きますが、不測の事態というものは、いつ起こるか分かりませんからな」
「そのときに護衛がたくさんいれば、色々と手を打てるからな。もちろん俺も行くぜ!」
「デニス親方も……ありがとう。それじゃ、近いうちに隣町を視察に行こう。それが終わったら、今度は領都へ行こう。あ、もしかして、領都を治めている貴族にあいさつする必要があったりする?」
貴族との付き合いがどうなっているのかはボクには分からない。フェロールなら分かっていると思うんだけど。そもそも、周辺の貴族たちはボクがノースウエストに来ていることを知っているのかな?
「身分はリディル様の方がはるかに上なのです。向こうからあいさつにくることはあっても、こちらから出向く必要はありませんよ」
「そうなんだね」
フェロールがキッパリとそう言い切った。目が少し据わっているところを見ると、その辺りは国王陛下から何か言われているような気がする。これまで何も言われなかったけど、裏では色々と話が動いているのかもしれないな。
今のところは気にしないようにしておこう。ノースウエストがもっと発展して大きな街になるようなら、ご近所付き合いも大切にしないといけないだろうけどね。
「商品を売るとなれば、私が錬金術で作った道具も一緒に売ってもらいたいです。もちろん、売り上げはリディル様にお渡ししますよ」
「さすがにそれはよくないよ。ニャーゴさんの売った道具で得られたお金は、ちゃんとニャーゴさんが受け取らないと」
「ですが、私は身の安全と家まで用意してもらっている立場ですよ? さすがに何もしないわけにはいけません」
なるほど、ニャーゴさんの言うこともよく分かる。ボクだって、ドワーフさんとエルフさんに、何か報酬を渡したいと、ついさっき考えていたところだからね。
それもあって、ニャーゴさんはこの話を今出したのだろう。さて、どうしたものかな。
「それではニャーゴさんにお願いがあります。ボクにも錬金術を教えてもらえませんか? その授業料を無料にして下さい。それが対価でどうですか? ああ、でもこれだと、ボクだけの対価になりますね」
この話で納得するのはボクだけだろう。屋敷を作ったのはデニス親方だし、設計したのはアルフレッド先生やフェロールたちである。当然、そちらへも対価を支払う必要があるはずだ。
「そんなことはありませんよ。私もニャーゴさんに錬金術を習うとしましょう」
「実によい考えですな。わたくしにも教えていただければ、色々とはかどるかと思います」
「俺は今ある酒を、もっとうまい酒に改良してくれればそれでいいぜ」
アルフレッド先生、フェロール、デニス親方が笑っている。どうやらケットシー族の錬金術には、学ぶところがたくさんあるようだ。最後のデニス親方の言葉はただの願望みたいだけどね。
それとも、本当にお酒をおいしくすることができる錬金術のアイテムがあるのだろうか。
「分かりました。それではそうすることにしましょう。役に立つものから、役に立たないものまで、幅広く教えることにいたしましょう」
ボクたちの提案に、ニャーゴさんも納得してくれたようである。とてもいい笑顔を浮かべていた。
それにしても、役に立たない錬金術の道具ってなんだろうか。すごく気になるぞ。
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