第7話 魔道具の秘密

 エルフはすぐそこにいる。そう。キミの隣にも。なんちゃって。もしかすると、ボクが知らないだけで、お城にもエルフがいたのかもしれない。正体がバレたら大騒ぎになるだろうから、黙っているんだろうな。


「エルフは人族のことが嫌いなのですか?」

「そこは意見が分かれるところですね。人族に興味がある人もいれば、全くない人もいる。人族に憎悪を向ける人もいれば、友達になりたいと思っている人もいます。ただ、エルフ全体的に言うと、あまり積極的に関わり合いたいとは思っていないようですね」

「そ、そうなのですね」


 思わず苦笑いしてしまう。この話を聞いたフェロールの目が飛び出しそうになっている。それならなんでここへ来たのかって思っているんだろうな。


「アルフレッド先生は人族のことをどう思っているのですか?」

「実に面白い人種だと思ってますよ。我々エルフとは考え方が大きく違うようですので。ですが、同族どうしで戦争をするところは理解できませんけどね」

「ボクもそう思います」


 アルフレッド先生の言う通りである。同族で戦争するのは人族だけ。他の種族では聞いたことがない。もしかしたら記録に残っていないだけかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。


 寿命が人族より長いと言われているエルフがそう言うのだから、ほぼ間違いないだろう。そしてそんな人族を好ましく思っていないのは、エルフだけではないはずだ。

 ボクが人族なだけにモヤモヤするな。人族も戦争をやめればいいのに。だが、そんな気配は今のところはない。


「リディルくんが私たちと同じ考えをしているようでよかった。だからこそ、世界樹に選ばれたのでしょうね」

「それがボクが選ばれた理由……そう言えば、先ほど見せていただいたマジックバッグも魔道具なのですか?」

「その通りですよ。ただの布の袋に特殊な魔法と、仕組みを組み合わせて作ってます」

「エルフってすごい技術を持っているんですね」

「そう……ですね」


 なんだろう。なんだか歯切れが悪いな。もしかして魔道具はエルフが作り出したものではないのかな? 確かにボクの中では、エルフは物づくりというよりも、魔法の研究に余念がないというイメージがあるな。


「もしかして、魔道具を作り出しているのはドワーフなのではないですか?」

「さすがに鋭いですね、リディルくんは。その通りですよ。魔道具を作り出しているのはドワーフです。私たちはその魔道具の仕組みを読み解いて、自分たちのために活用しています」

「それって、ドワーフから怒られないのですか?」


 ドワーフが知恵と技術を結集して作った魔道具を、勝手に分解して、勝手に生産しているってことだよね? 人族でそれをやったら間違いなく非難される。そして争いごとになるのは間違いない。


「それが、ドワーフはちょっと変わった種族なのですよ。新しい物を開発するまでは、それはもう寝る間も惜しんで作業をします。ですが、一度、完成させてしまえば、もう執着をなくしてしまうのです」

「それは……すごく情熱的ですね。そしてとっても冷めやすい」

「ええ、その通りです。そして悪いことに、同じ物を何度も作ることを嫌うのです」

「ああ、それは困りますね。姿くらましの魔道具はエルフにとっては必需品のようなものですからね」


 アルフレッド先生と顔を見合わせた。苦笑しているが、きっとボクも同じ顔になっていると思う。

 エルフたちは悪気があって、魔道具の仕組みを読み解いているわけじゃない。必要に迫られてそれをやっているのだ。本来なら、ドワーフに作って欲しいと思っているはずだ。


「アルフレッド先生、ドワーフってどこにいるのですか? 見たことがないんですけど」

「彼らは地中に住んでいますよ。あまり外へは出ないので、見かけることは少ないと思います」


 モグラかな? 山の中に穴を掘って暮らしているのなら、人族が会うのは難しいだろう。山には自然の恵みがたくさんあるが、急な斜面や落石、そして凶暴な魔物がいたりするので油断できない。当然、道にも迷うからね。


「もしかして、あの霊峰にも住んでいるんですか?」

「もちろんいますよ」


 そうなんだ。あの霊峰ってスゲー。何か名前があったりするのかな? ちょっと気になって来たぞ。気になると言えば、もう一つ気になることがある。これはこの世界の常識なのか、それともボクの前世の知識なのか。


「エルフとドワーフは仲が悪かったりするのですか?」

「うーん、微妙なところですね。ドワーフは基本的に美意識が低いのですよ。例えばですが、水浴びをするようなことはめったにありません」

「か、体くらいは拭きますよね?」

「どうでしょうか? 少なくとも、私は見たことがありませんねぇ」


 笑顔のアルフレッド先生。これはきっと体も拭かない感じだぞ。そりゃ微妙な関係になるのも仕方がないな。ボクだってちょっと気にすると思う。

 アルフレッド先生もそうだけど、他のエルフも美男美女ぞろいなんだろうな。そこにはエルフ特有の美意識があるのは間違いない。それが大きく異なっているのだから、仲がめちゃくちゃいいはずがないか。


「なんとなく察しました。それは微妙な関係になってもしょうがないと思います」

「リディルくんに理解してもらえたようでよかった」


 ドワーフかぁ。どんな姿をしているんだろうか。やっぱり身長は低いのかな? それで腕は丸太のように太くて、きっと男女の区別がつかないんだ。みんなヒゲを生やしていてさ。


 そう言えば、エルフも男女の区別がつきにくいよね? アルフレッド先生だって、男装した女性だと言われても納得しちゃう。

 ……まさか、そんなことないよね? だって名前が男だもんね?

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