第6話 できるかな?
なんだろう。なんだか含みのあるような発言に聞こえてしまった。もしかして、アルフレッド先生は人の本質を見抜く力があったりするのかな。その目、もしかして普通じゃなくて、魔眼だったりするの? かっこいいじゃん。
「聞いているとは思いますが、リディル様の護衛も務めさせていただきます」
「護衛も! ありがとうございます。あの、アルフレッド先生、ボクのことはリディルと呼んで下さい。様なんてつけなくていいです。それから、普通に話して欲しいです」
「そう言うわけには……分かりました。それではリディルくんと呼びましょう」
「これからよろしくお願いしますね、アルフレッド先生。でも、世界樹さんのあの言い方だと、別の人が護衛に来ると思っていました」
おかしいな。それならそれで、世界樹さんなら”護衛兼先生”と紹介しそうな気がするんだけどな。まあ、いいか。ちょうどよく、両方を兼ね備えた人物が見つかったのだと思うことにしよう。ボクって意外と運がいいのかもしれない。
部屋の準備ができたみたいなので、ヨハンさんに案内してもらった。来客こそ稀だが、普段から客室はキレイにしていたみたいだ。
アルフレッド先生の部屋へと向かう。ベッドと机しかない、簡素な部屋だ。それでも、この町では豪華な設備なのだと思う。
何か問題はないだろうかと部屋の中を見回していると、アルフレッド先生がどこからともなく、テーブルとイスを取り出した。真っ白な木で作られているようだ。とってもキレイ。いや、それよりも。
「アルフレッド先生、今、どこからこのテーブルとイスを取り出したのですか? あ、もしかして魔法ですか!?」
「いえ、違いますよ。このマジックバッグから取り出したのです」
「マジックバッグ! 中に色んな物をたくさん詰め込むことができる道具ですよね!?」
「おや、よく知ってましたね。人族で持っている人はいないと思っていたのですが。それどころか、存在すら知らないと思ってましたよ」
「あ」
そう言えばそうだ。マジックバッグなんて、お城でも見たことも聞いたこともないぞ。これはもしかして、ボクの前世の記憶。
ボクの前世って一体、どんな人だったんだろう。マジックバッグを知ってるってことは、持っていたのかな。もしかしてボクは、古代エルフの生まれ変わりだったりする?
「ふむ、もしかすると、人族の物書きがそんな道具があれば便利だなと思って、物語の中に書いたのかもしれませんね。それならリディルくんが知っていてもおかしくはない」
「そ、それよりも、さすがはアルフレッド先生。すごい道具を持っているんですね!」
「これは先祖代々、受け継いでいるものですよ。型式としては相当古い物になりますね」
貴重な物のはずなのに、簡単に「どうぞ」とマジックバッグをボクに渡すアルフレッド先生。いいのかな、触っちゃって。ドキドキしながら触ってみる。
……うん、ただの巾着袋だね。中身は空だ。
「あれ?」
「ふふふ、驚きましたか? そのマジックバッグは私の血族でなければ使うことができないのですよ」
「そうだったのですね。それなら中の物がだれかに盗まれなくて安心ですね」
もしかして、ボクたち人族の世界にマジックバッグが流通していないのはそのせいなのかもしれないな。だれにでも使えるわけではないのなら使い勝手が悪いからね。
中にたくさん物を入れて、それを引き継ぐ前に死んでしまったら大損だ。そんな危険をおかす人はいないはず。
「リディルくんも欲しいですか?」
「それはもちろん欲しいです」
「それでは、勉強のついでに作りましょうか」
「え、作れるんですか!?」
「リディルくんなら可能でしょう」
そう言ってからにこやかにアルフレッド先生が笑った。マジで!? ボク、本気にしちゃうよ?
「作ってみたいです!」
「それでは、特別に作り方を教えてあげましょう」
思わずほほがあがってしまったが、この話を聞いていたフェロールは半信半疑のようである。まるで疑うかのように眉間に深いシワを刻みながら、アルフレッド先生を見ている。
やっぱりアルフレッド先生がエルフなのを警戒しているのかな?
「アルフレッド先生、エルフはあそこに見える霊峰に住んでいるって聞いたのですが、本当なんですか?」
「ええ、そうですよ。あそこだけではありません。他にもエルフが住んでいる場所はありますよ。この大陸にも、隣の大陸にも」
「隣にも大陸があるんですね。知りませんでした」
「ふふふ、この世界はリディルくんが知っているよりも、ずっと広いのですよ。精霊魔法を教えるついでに、そのことも話してあげましょう」
なんという破格の待遇! エルフから魔法を教えてもらえるだけじゃなくて、この世界のことも学ぶことができるだなんて。きっとお城にいる研究者でも知らない話だぞ。
エルフはたくさんいるんだね。あれ? でも、エルフを見たことがある人はほとんどいないって言う話だったよね。
「アルフレッド先生、エルフを見たことがない人がたくさんいるのはどうしてですか?」
「ああ、それですか。それはこの”姿くらまし”の魔道具を使っているからですよ」
アルフレッド先生から一つの指輪を受け取る。なんの変哲もない銀の指輪のように見える。飾りもついていない。そして先生はこれが魔道具だと言った。
「もしかして、この指輪の魔道具を使うと姿が変わるのですか?」
「その通りです。ほら、こんな具合に」
「あ、先生の耳がちっちゃくなりました!」
なるほど、エルフ特有の長い耳を人族と同じにする魔道具だったのか。確かにこれなら人族となんら変わらない。ただの美形の成人男性に早変わりだ。これなら人族の中に混じっても、エルフだとは気づかれない。
「この魔道具は指輪の他にも、イヤリングやネックレス、腕輪、髪飾り、アンクレットなどの種類があるのですよ」
「その魔道具を身につけているからエルフだと気づかれないわけですね」
「そう言うことです」
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