第5話 魔法の先生、現る!
世界樹さんとお別れしたあとはそのままノースウエストを視察する。まあ、視察と言うよりかは顔見せだね。早くボクの顔をみんなにも知ってもらわないと。それが安全につながると思う。見慣れない顔の人がいたら、よそから来た人だってすぐに分かるからね。
「うーん、やっぱりヨハンさんが言ったように、大衆浴場はないみたいだね。家にもお風呂はないのかな?」
「リディル様はご存じないのかもしれませんが、お風呂はとても高価なものなのですよ。お湯を沸かすだけでも、大量の薪が必要になりますからな」
「それはそうかもしれないけど、魔法を使えばいいんじゃないの? お城ではそうしていたよね?」
ボクの質問にフェロールが頭を抱えた。
あれ、間違ったかな。もしかして、ボクの前世の知識とごちゃごちゃになってる?
不安に思っていると、フェロールが姿勢を低くして、ボクと目を合わせた。
「よろしいですか、リディル様。魔法を使うことができるのは、ほんの一握りの人たちだけなのです。ほとんどの人は魔法を使うことはできません」
「えええ! それじゃ、ボクが魔法を使えないのは、当然と言えば当然なの?」
「リディル様が王族でなければ、当然だと思われるでしょうな」
「……王族じゃなかったらよかったのに」
困ったようにフェロールが眉を下げている。つい、本音が出てしまった。
ボクが王族じゃなかったのなら、魔法が使えないからと言って、あんなに冷たい態度をお城のみんなからとられることもなかったのに。
王族の一員でなかったのなら、お母様が死ぬことはなかったのかもしれない。
「リディル様が王族として生まれたことには何か意味があるはずです。大人になれば、きっとその理由を知ることができます。このわたくしが保証しますぞ」
そう言ってフェロールが励ましてくれた。そうだよね。フェロールのためにも、前を向いて進まないとね。いくら後ろを振り返っても、お母様は生き返らない。それなら前にだけ向かって進むしかない。
「それなら、これからその理由を探していかなくちゃいけないね」
「そうですとも。いつか必ず見つかるはずですぞ」
希望の光は見えないが、王城に閉じ込められているよりかはマシだと思うことにした。今のボクには多少の自由があるのだ。フェロールも一緒だし、きっとなんとかなるはず。
この地へ来た理由も、ボクが世界樹の守り人に選ばれた理由も、きっとあるはずだ。
そうして世界樹と屋敷を往復する日々を続けていたある日、日常に変化が訪れた。世界樹さんが言っていた”精霊魔法の先生”がノースウエストの屋敷へやって来たのだ。
「ここにリディルという少年がいると聞いてやって来たのですが、間違いありませんか?」
「どちら様で……? え、もしかして、エルフですか!? リ、リディル王子殿下、リディル王子殿下ー!」
すごい声でヨハンさんが叫んでいるけど、すぐ後ろにいるんだよね。珍しく屋敷に来客があったので、様子を見に玄関まで来ていたのだ。つまり、退屈だったってこと。
初めて見るエルフ。だけど、どこか遠い昔に見た記憶にあるエルフと一致している。
長い耳に黄金色に輝く髪。長くて美しい髪は後ろで三つ編みにしている。背が高く、体は細いけど、しっかりと筋肉はついているようだ。そして、超美形! 腰には剣を差していた。
ボクの勝手なイメージだと、エルフと言えば魔法と弓なんだけど、どうやら剣も使えるらしい。涼しげな青色の瞳がボクのことを……驚いたように目を大きくさせて見ていた。なんで?
「まさか……本当に……!」
口元をはわはわとさせたあとに、ボクに向かってエルフさんがひざまずいた。ちょ、何? 一体、何事なの!? ボクまだ何もしてないからね!
「お初にお目にかかります。私はアルフレッド・イニャス。悠久の時を生きる、古代エルフの末裔です。世界樹のお導きにより、この地へ参上いたしました」
「古代エルフ! なんだかすごそう。ボクがリディルです。世界樹さんが言ってた”精霊魔法の先生”って、アルフレッドさんのことですよね?」
「その通りです。私のことは呼び捨てにしていただいて構いません」
「いえ、そんなわけにはいきません。ボクは教えてもらう立場ですからね。そうだ、これからはアルフレッド先生と呼ばせていただきます」
アルフレッド先生が黙ってうつむいているけど、大丈夫だよね? もしかして、泣いてる!? なんで!
アワアワしながら助けを求めてフェロールとヨハンさんを見たが、二人も困惑しているようだった。これは……ボクがなんとかしなければいけないやつなのかな?
「えっと、ヨハンさん、あいている部屋がまだあったよね? そこをアルフレッド先生のために貸してもらえないかな」
「それはもちろん構いませんとも。すぐに準備いたします」
そう言ってから、ヨハンさんが逃げるようにこの場を去った。たぶん部屋の準備をしながら、心を落ち着けるつもりなんだろうな。できることならボクも部屋に戻って心を静めたい。
「まさか、本当にあの木の言葉が分かっていらしたとは。それではあの木は本当に世界樹ということになるのですな」
「そうだよ、フェロール。やっと信じてもらえた?」
「ええ、確かに。疑って申し訳ありませんでした」
フェロールが深々と頭を下げた。別に謝って欲しいとか思っていないので、慌てて頭をあげさせる。
「気にしなくていいよ。もし逆の立場だったら、ボクだって信じていなかったからね。頭がおかしくなったのかと思っていたはずだよ」
「確かに、そういう思いもあるかもしれませんな」
二人で顔を見合わせて苦笑いした。ボクもフェロールも、世界樹さんに振り回されているのだ。どちらが悪いということでもないのだ。もちろん、世界樹さんが悪いわけでもない。きっと何か理由があって、ボクを”世界樹の守り人”にしたのだろうからね。
もしかして、ボクがここへ来るのは世界樹さんの想定通りだった?
「アルフレッド先生、こちらはボクの執事のフェロールです。そしてさっき玄関で出迎えた人がこの町の町長のヨハンさんです」
「フェロールです。我が主ともども、よろしくお願いいたします」
「ご紹介をいただきありがとうございます。二人とも悪い人ではなさそうで安心しました」
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