第8話 魔法の秘密

「さて、お互いに自己紹介も終わったことですし、さっそく仕事を始めましょうか」

「仕事?」

「そうです。リディルくんに精霊魔法の使い方を教えなければなりません。リディルくんは魔法が使えますか?」

「使えません。だから精霊魔法のことも分かりません」

「大変素直でよろしい。それではどうしましょうかねぇ」


 腕を組み、人差し指をこめかみ付近でトントンするアルフレッド先生。そんな仕草も素敵。ボクもエルフに生まれたかった。


「それではまずは魔法と精霊魔法の違いから説明するとしましょう」

「お願いします」

「簡単に説明しますと、魔法は体内の魔力を使いますが、精霊魔法は体の外にある魔力を使うのです」


 どうやら二つの違いは魔力の出所にあるようだ。体の内か、外か。それによって大きく分けられているようだ。そして人族の間では精霊魔法が使われていないので、人族は外の魔力を使うことはできないらしい。あれ、ちょっと待った。


「アルフレッド先生はどっちの魔法を使えるのですか?」

「私は両方を使うことができますよ。エルフは自然と調和を保っていますからね」


 その言い方だと、人族が精霊魔法を使えないのは、自然との調和を保っていないからということになる。

 確かにその通りだと思う。戦争で町や村だけじゃなく、森も林も破壊する。川に汚れを垂れ流し、水質を汚染する。湖も同じだ。


「精霊魔法は自然から魔力を分けてもらって使う魔法なのですね」

「その通り。リディルくんは理解が早くて助かりますよ。これは教え応えがありそうですね」


 うれしそうにアルフレッド先生が笑っている。どうやら本気でそう思っているようだ。

 ボクが精霊魔法を使えるようになったということは、自然から力を借りるということである。これからはもっと自然を大事にしなくちゃいけないな。最初からないがしろにするつもりはなかったけど。


 あと、毎日ちゃんと世界樹さんのところへ行かないとね。これからは何か手土産とかも必要になるかもしれない。肥料なんかがいいのかな? 分かんないや。


「それではボクが魔法を使うことができないのは、体の内側に魔力がないからなのですね」

「正確に言うと、体の内側に魔力をためることができないということですね」

「魔力をためることができない……」


 なるほど。それじゃ魔法は使えないね。魔力を体の内側にためることができるのか、できないのかは完全に体質によるものなのだろう。そしてその大きな要因は遺伝だと思う。だから王族は魔法を使える人が多いのか。そしてボクは魔法を使えなかったお母様の体質を引き継いでしまったというわけだ。


 男は母親の体質を引き継ぐって言うからね。仕方ないね。お兄様やお姉様がみんな魔法を使えたのは、母親が魔法を使えたからだったのだろう。納得した。

 もしボクにも魔法が使えていたら。

 そう思うと、知らずに両手を見つめていた。いつまでも未練がましいぞ。


「大丈夫ですか、リディルくん?」

「あ、いえ、大丈夫です。どうしてボクが魔法を使えなかったのか、よく分かった気がします」

「リディルくんは魔法が使えないことを気にしているようですが、魔法は使えない方がいいですよ。私も普段は使いませんからね」

「え、そうなんですか!?」


 驚いて顔をあげると、アルフレッド先生が顔を少ししかめていた。どうやら冗談ではないらしい。本気でそう思っているようだった。魔法が使えると色々と便利そうなんだけど、違うのかな?


「魔法の使い過ぎは体を壊すことを知っていますか?」

「はい。聞いたことがあります。使いすぎると、寝込むことがあるみたいですね」

「ええ、その通りです。度が過ぎるとそのまま命を落とす人もいます。体内に蓄積された魔力を使うということは、生命力を使っているのと同じなのですよ」

「どうしてそんなことに?」

「魔力と生命力には強い結びつきがあるからですよ。そのため、体内に魔力を満たしている状態を長く保つことができれば、いつまでも若々しくいられるのです」


 だから王族や高位貴族には若く見える人がたくさんいるのか。魔法を使える人がたくさんいるからね。それにしても、魔法を使うと生命力まで失うことになるとは思わなかった。どうりでアルフレッド先生が使えない方がいいって言うはずだよ。

 魔法を使うということは、寿命を削っているようなものだからね。


「魔法を使うということは、本当は怖いことだったのですね」

「人族はそのことを知らない、もしくは知っていても知らないフリをしているみたいですけどね。確かに、戦いで魔法を使えば、目立った活躍をすることができるでしょう。その結果、命を縮めることになりますけどね」


 おお怖い。魔法が使えなくてよかった。そうなると、精霊魔法はチートだよね。自分の寿命を削らずに、他から魔力をもらって魔法を使うのだから。

 でもいいのかな? そんな精霊魔法をボクが使えるようになって。いや、正確にはまだ使えないんだけどさ。


「アルフレッド先生、魔力をもらっても大丈夫なのですか?」

「その心配はいりませんよ。外へと自然に放出されている魔力を利用するだけですからね。今もリディルくんから、体に蓄えることができなかった魔力が、ほんの少しですが放出されていますよ」

「そうなんですね。全然気がつきませんでした」


 それなら他から魔力をもらっても大丈夫なのかな? 不安はあるが、精霊魔法の使い手のアルフレッド先生がそう言うのだから問題ないのだろう。


 ボクの中での精霊魔法を使うことに対するモヤモヤはほとんどなくなった。今なら素直な気持ちで精霊魔法を習うことができそうだ。そう思うと、なんだかワクワクしてきたぞ。

 ついに念願の魔法が使えるようになるんだ!


「アルフレッド先生、精霊魔法はどうやって使うのですか?」

「ふふふ、精霊魔法に興味を持ってもらえましたか? それではさっそく練習を始めることにしましょう。まずは周囲にある魔力を感じるところからです」

「周囲にある魔力ですか? そんなものがあるような感じはしませんけど」

「最初はだれでもそうですよ。そうだ、感覚を早くつかむためにも、世界樹のところへ行きましょう。あそこは魔力を感じるのにうってつけの場所ですからね」

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