第3話 守り人の役割

 さて、この世界樹さんはボクを守り人にしてまで、一体、何をして欲しいのだろうか。とりあえず、ボクはまだ七歳児だからね? そこだけはハッキリさせておかないといけない。


『年齢は関係ありません。百年も過ぎれば、だれも気にしなくなるでしょう』

「気が長すぎ! 木だけにね!」

「あの、リディル様、今の状況をこのわたくしにも聞かせていただけないでしょうか?」


 不安そうな顔をしたフェロールがおそるおそる尋ねてきた。どうやらボクのメルヘン体質を、とりあえずは受け止めてくれることにしたらしい。

 フェロールは心が広いな。もし逆の立場だったら、ボクには決してできなかっただろう。実際にヨハンさんはいまだに困惑の表情を浮かべているからね。


「これから詳しい話を聞こうと思っているんだけど、どうもボクが”世界樹の守り人”に選ばれたみたいなんだ」

「世界樹の守り人ですか。聞いたことがありませんな」

「き、聞いたことがありますよ!」


 おおっと。いきなりヨハンさんが再起動したぞ。ビックリするから、起動音くらいは出して欲しかった。ウィーン、ガシャン、とかね。

 驚いて、フェロールと一緒にヨハンさんの顔を見た。赤べこのように何度も首を上下に振っているヨハンさん。大丈夫かな?


「ヨハンさん、何を聞いたことがあるの?」

「リディル王子殿下、この地はかつて、巨大な世界樹があったとされる場所なのですよ。千年ほど前にその世界樹は失われたそうですがね」

「それで、世界樹の守り人って何する人なのかな?」

「さて、そこまでは……」


 フムフム、つまり、この地には世界樹の伝説が残っていたってことが分かったわけだ。そして逆に言えば、それしか分からなかったということである。もうちょっとヨハンさんには頑張ってもらいたかったなー。わがままかな?

 そんなわけで、世界樹さん、一体全体、どう言うことだってばよ!


『守り人にはこの地に新たな国を建国する権利を与えられます』

「え?」


 ちょっと何言ってるか分からないですね。そんなに簡単に建国する権利を与えちゃってもいいの!?

 あ、もしかして、曲がりなりにもボクが王族で、第六王子だからってことなのかな?

 イヤイヤイヤイヤ。さすがにそれは無理だよ。だってボクはしがない第六王子だもん。そんなことをすれば、反逆罪でギロチンになっちゃう!


『もちろんそれだけではありませんよ。守り人になった段階で、あなたは精霊魔法を使えるようになっています』

「精霊魔法? 何それ? フェロール、ヨハンさん、ボク、精霊魔法を使えるようになったみたいなんだけど、それがなんだか分かる?」

「いえ、聞いたことがありませんな。我々が使う魔法とは、また別の魔法体系のようですね」

「初めて聞きますね。伝承にも残っていないと思います」


 なるほどね。だれも知らない魔法ってことか。そんな物を使えるようになっても、使い方が分からなかったらどうしようもないんだよね。残念、無念。もう少し長く王城で勉強することができていたら、精霊魔法の話を聞くことができたのかもしれないね。


「そう言うことだから。精霊魔法を使えるようになっても、ボクにはあんまり影響はないみたい。それに、国を建国して王様になるつもりはないよ」

『……そうですか。残念です』

「け、建国ですと!? なりませんぞ、リディル様! そのようなことをすれば、国家反逆者として、たとえ王子であっても処刑されてしまいますぞ!」

「だから建国しないって言ってるじゃない」


 フウ、と額の汗をぬぐうフェロール。もしかして本当にするとでも思っていたのかな? ボクにだって、そんなことをすれば危険だっていうことくらい分かるぞ。

 それにもし仮に建国するつもりがあるのなら、ボクの監視役であるフェロールの前では言わないと思う。


「ヨハンさん、世界樹って何かすごい力を持っているの?」


 とりあえず分からないことはヨハンさんに聞いてみることにした。

 本当なら世界樹さんに直接聞いた方が早いと思うんだけど、世間とのずれがありそうだからね。世界樹さんの話を鵜呑みにしたら、とんでもないことになるかもしれない。

 今、ボクが欲しいのは、一般的な世界樹についての知識である。


 ボクが知っているのは、小さいころにお母様に読んでもらった、童話の中での話だけ。

 その中では、世界樹は頭を雲の上に出し、その近くには色んな種族が集まって暮らしていたということだった。完全におとぎ話だね。


「特に伝わっていることはないですね。ただ、ものすごく大きな木だということだけが伝わっております」

「大きな木。なんとも不思議な木だね。不思議な実がなるのかな?」

「実がなるという話は聞いたことがありませんね」


 残念。世界樹の実が採れれば、それをノースウエストの特産品として売りに出すことができたかもしれないのに。この町を発展させるのはちょっと、いや、かなり難しそうだな。

 だからこそ国王陛下であるお父様はボクをこの地へ送り込んだのかもしれない。こんな辺境の地なら、何かをやろうと思っても、何もできないだろうからね。危険性もないというわけだ。


『実ならなりますよ』

「え、実がなるの?」

『はい。その実を使った魔法薬がありますよ』

「そうなんだ。知らなかった。錬金術師しか知らないのかもしれないね。ヨハンさん、世界樹には実がなるらしいよ。この苗木が大きくなって実をつけるようになったら、町の特産品になるかもしれない」

「は、はぁ」


 なんだかやる気のなさそうな”はぁ”である。どうやらヨハンさんはあまり熱心にノースウエストを発展させるつもりはないようだ。

 その気持ちは分かるぞ。だって、畑以外に何もないからね。もしかすると、学校も試験もなんにもないのかもしれない。

 これはあとで町にある施設を確認する必要があるな。この町にないのはお店だけじゃないのかもしれない。


「世界樹さん、今のところはボクに何もできることはないみたい。ごめんね。その代わり、毎日、ここへ来るからね」

『それだけで十分です。いつでもお待ちしていますよ、リディル』

「ふふふ、やっとボクの名前を呼んでくれたね」

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