第6話 有言実行

 さぁ、ここからが大変なことが起きたんだけどー。

 外野たちが『さっきの約束したことって何?』って言った時に『喋ることだよ』と言えばよかったんだけど、それをしなかったせいで面倒なことが起きてしまったんだよねー……

 しかも、違う件でも問題が起きて……

 はぁー……

 ため息の一つや二つ、いや百は吐きたくなる事件がね……

 

 休み時間になるごとに、えみはぼくの席に来て、話しかけてきた。

 彼女がぼくの席に来るたびに、たくさんの視線が集まる。

 はぁー、そうだよねー。

 みんなこっちを見るよねー。

 五月に入っても、ぼっちで動画を観たり、本を読んでいた人が急に不良女子と仲良く話しているもんなー。

 そりゃー、何があったんだって気になるよねー。

 昨日、ほんの少しだけ喋っただけなんだけどね……

 にしても……こんなに絡んでくるの?

 どんだけ喋りかけてくるの、この人?

 さとし、すんごく驚いてます。

 友達がいないのか?

 あ、自分が言えた立場ではないな。

 ぼくに友達がいれば、こんなにも気軽に絡んでも来なかっただろう……たぶんね?

「さとし、さとし。どうしたのよ?」

「え?」

「ボケーっとしているから何事かと思ったわ」

「ああ、ちょっと考え事してて」

「ふーん、そうなんだ」

 今、昼休みで、ぼくとえみ、そして、えみの友達のうさぎとで三人で昼食をとっていた。ぼくの席に机をくっつけて正面に座るのはえみ、その隣に座っているのがショートヘアーの可愛い系のうさぎ。

 そのうさぎはさっきから一言も喋らずにぼくたちの会話を聞いていた。

 うさぎの場合、ただ聞くだけじゃないんだよなー。妙な視線を送ってくるんだよなー。

 不良女子と昼食をとりながらの会話はぼくにとったらハードルが高い。

 まぁ、えみに関しては喋れるけど、うさぎとは……んー、喋りずらいなー。

 ぼくが黙っていると、

「さとし、昼休みになってからあんまし喋ってないけど、本当に大丈夫? 調子が悪いとか?」

「いやー、そんなことはないんだけどー。やっぱり、うさぎさんとは初めて面と向かうから少し緊張してー」

「なにー? あたしがいると迷惑ってことかなー?」

 昼食の場でうさぎさんが初めて発した言葉がこれである。

「違う、違う。ぼくがビビりってだけの話で……」

 怖いよ!

 言葉に圧を感じるんですけど⁉

 なに、あの発言?

 え、今すぐにでもしめられそうなんですが⁉

「うさぎがいて迷惑なんて思うはずないでしょ。こんな可愛い子がいたら、誰だって緊張するって」

「えみー! 大好きー!」

 うさぎはそう言うと、ちびちびと食べていたサンドウィッチを机に置いて、えみを抱きしめる。

 そのうさぎをよしよし、とえみは撫でる。

「……」

 ええー、一人で食べたほうがめっちゃ気楽なんだけどー。

 発言に気を付けないと、目の前でイチャイチャしてるうさぎにしめられそうになるし、あと、なぜか他のクラスの人たちが廊下でごった返していて、こっちを見ているし。

 なんなの……?

 超絶気まずいんだけど。

 ここに、ぼくはいていいのかな?

 というか、『いていいのかな?』じゃなくて、ここにいたくないんだけど?

 ……んー、あ、そうだ! 別に、ぼくがここにいる必要ないじゃん!

 ここから離れよう。

 あのー、とぼくは前にいる二人に言って、右手をゆっくりと上げる。

 二人はイチャイチャをやめ、顔をこっちに向ける。

「どうしたのよ?」

 ぼくはえみに答える。

「やっぱり調子が悪いかも。今から保健室に行ってくる」

「そ、そう……? お大事にね」

「うん」

 ぼくは早々に食べかけの弁当箱を片付けて、足早で保健室に向かった。


「失礼しまーす」

 保健室に入ると、

「どうしましたか?」

 女性の保健の先生が出迎えてくれた。

「えっとー、さっきまでお腹が痛かったんですけど、先生を見たら治りました。ていうことで、失礼しました」

「ほえ……?」

 保健の先生は口をポッカ―ンと開けて立ち尽くす。

 そんな先生を置いて、保健室を出る。

 まぁ、ぼくがここに来たのは、保健室に行くって言ったから、形だけでもと思って入っただけ。

 さーて、これからどうしようかなー。

 ぼくは保健室の前でうーんっと考えていたら、女性に声を掛けられる。

「ちょっと」

 声のする方を向くと、そこには――さっきまで昼食を共にしていたうさぎがいた。

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ぼくたちの思い出 シドウ @jpshido

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