キャラクター同士の関係が細やかに美しく描かれていて、とても読み応えがある作品でした。切なくも優しい、綺麗なお話です。この作品と出会えたことを嬉しく思います。
人生に煮詰まった主人公が出会った不思議なカフェ。そこに集う者たちとの交流のなかで、自分を見つめ直し、新たな再出発をする。こう書いたらよくあるお馴染みの話に聞こえるかもしれないが、人物たちはそれぞれの悲しみを抱えながらもあくまで語り口は明るい。「刺さる」強い小説ではないが、まるで自分の背中を「さすって」くれるような味わいがある。小説とは嘘だけれど、作者の筆に嘘はないと評価した。(特別審査員・キタハラ)
コーヒー好きの主人公がふらりと立ち寄ったカフェは人ならざるものたちの憩いの場でもありました。そんな始まりから心踊る本作の魅力は、カフェの細やかな描写にあります。読んでいるうちにふわりとコーヒーの香りが届き、どれを食べようかなんて読者までメニューを見てわくわくします。店内の穏やかな空気が伝わってきます。登場人物は人でないものばかりで、彼らと人間である主人公の時間感覚の違いが、ゆったりと時間が流れるカフェの中で交わっていく。そんな不思議な交流を温かなコーヒーを味わうような気持ちで楽しめました。
昼間は人間用、夜は人間以外のヒトたちようのカフェ。コーヒーの美味しさはもちろんのこと、食事のメニューも盛りだくさん。不死者だ、幽霊だ、といったってその関わりは何処か温かい。それは店主の人柄なのか、作者の心持なのか。ふっと狭間をのぞき込みそうになっている時訪れたら優しく引き戻してくれるでしょうか。