第5話 突然の別れ その2 ターコイズブルーの空
「学校サボっちゃった・・」
ママと喧嘩して家を飛び出した私は、シンデレラでもないのに靴下のままで
走った。
そのうち靴下も面倒になり、体をかがめて靴下を脱ぐと、丸めてポケットに
突っ込んでみた。
「私、どうみても不良だわ・・」
裸足で地面を踏むと、アスファルトのでこぼこや、
小石が足の裏に当たってすごく痛い。
でも気分はよかった。
体を縛り付けていた鎧が、
解き放たれた感じがした。
これが自由っていうのかな?
でも良い気分が続いたのは、せいぜい一時間だけ。
だんだん不安になって、お腹が空いて
今、ママがどんな気持ちなのか、
心配で後悔が襲ってきた。
学校に行って先生に事情を話すか?
いや、学校はダメだ。
ややこしいことになるし、こんな気分の時に
もっと叱らたら、もう立ち直れない。
しかも、今日は午前中授業だから、今行っても、
もう授業は終わってる。
今まで優等生だった私が裸足で学校に行ったら、
令美が壊れたって、
格好の噂の種になるに違いない。
「行こう、宝梅サーキットへ」
私は、歩いて宝梅サーキットに向かった。
もうレースは始まっているはずだ。
徒歩では、到底間に合わないだろう。
宝梅サーキットに行くには、国道から10キロにも及ぶ
長い山道を登らなければならない。
私は決心して、息を切らしながら山道を歩いた。
宝梅サーキットに行けば、ツキカゲセリナがいる。
セリナなら、私の気持ちをわかってくれるはずだ。
時間の感覚が麻痺してわからなるい。
二時間、いや三時間くらい歩いただろうか?
足の感覚がもう無い。
しかし妙な興奮状態が続いていて、
裸足なのに痛みは全く感じなかった。
「私、これからどうなるのかな・・・」
私の隣をビュンビュンと車が通り過ぎていく。
今までママに言われるまま、全力疾走してきた。
ママと喧嘩して、私は、生まれて初めて自分の今を、
明日を考えている。
私は、今まで何のために全力疾走してきたんだろう。
そのうち、一台のタクシーが追い越して行った。
タクシーは、目の前でハザードランプをつけて
静かに減速して、綺麗なラインで道の左がわに
静かに停止した。
ちかちか点滅するハザードランプが
まるで私に微笑んでいるみたいだ。
「可愛いい」
不思議だな。
生まれて初めて、ただの機械である、
自動車が可愛いいと思えた。
タクシーの後部座席から、白いアディダスの運動靴を持った、
お姉ちゃんが降りてきた。
「お姉ちゃん!」
「令美、ママが倒れた、
救急車で神戸の病院に運ばれた、
タクシーで今から行こう」
私はその場に崩れ落ちた。
私のせいだ、
私のせいでママは倒れんたんだ・・
ママごめん、ほんとにごめん。
私は裸足のまま、アスファルトに膝をついた。
さっきの決心はどこかにいき、
体じゅうの力が蒸発してしまったみたいに、
消滅して、目の前が一瞬で真っ暗になってしまった。
涙が、流れてきた。体が冷たくて寒くて震えた。
「ママ・・・・・ごめんなさい・・・」
お姉ちゃんは、そんな私の目の前に靴を見せて言った。
「大好きな令美、私の愛しい妹、どうか、泣かないで靴を履いて」
脱力した私は、
アスファルトに寝転んで、
赤ちゃんみたいにふにゃふにゃなって、涙を流し続けた。
そんな私の両足に、お姉ちゃんは丁寧にアディダスの運動靴を履かせてくれた。
「令美、目を開けてご覧」
アスファルトに寝転んだまま、私が目を開けると、
ターコイズブルー空が・・・
今年一番、綺麗な秋のターコイズブルーの空が、見えた。
令美は私が、守るから大丈夫、
さあ、タクシーに乗って」
「うん・・・」
私は、お姉ちゃに支えられて、
よろよろと起き上がり、
最高に美しいターコイズブルーの空のした、
秋風に吹かれながら、
タクシーの、後部座席に乗り込んで、
隣のお姉ちゃんにくっついた。
何年かぶりにくっつく、大好きだったお姉ちゃんは
ふかふかで暖かくて、優しい匂いがした。
続く
ぜん⭐️かい!! 鈴鹿 一文(スズカカズフミ) @patapatapanda
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