僕の見ている景色に君を

永和

こんとわ

ここは色のないモノクロの街。

そんな街の中でたった1人僕だけが色が見えた。

僕の中では当たり前で、それが何も不自然ではなかった。

それなのに色が見えるだけで僕の扱いは人と変わる。

僕が間違っているかのように。

僕が変わり者のように。

僕が異端者のように扱われる。


父さんと母さんもそうだった。

僕がまだ4歳になる前の頃だ。

「にいる……?何をしている…の、?」

母さんは今にも泣き出しそうな顔で僕を見てくる。

「あ!母さん!見てこれ!とっても綺麗な絵じゃない?僕も将来絵を描く仕事がしたいなぁ」

母さんは不可解な顔をしている。

泣き出しそうになったり意味が分からないような顔をしたり。母さんは何を思っているんだろう。

「にいる、…?まさか…あなた色が……見えるの…?」

母さんは何を当たり前のことを聞いてくるんだろう。

色が見えるからこの絵を綺麗だねと僕は言ってるんだ。

「そうだよ母さん?それがどうかしたの?」

「ああぁ…な、なんてこと…」

「どうしたの?母さん?ねぇ、どうしたの?」

母さんは椅子に座って両手で顔を覆い絶望をしていた。なんで絶望されなければいけないのか。さっきから母さんの言いたいことが本当に分からない。

「ただい…母さん?どうした!!?」

帰ってきた瞬間母さんが絶望している姿を目撃した父さんはそりゃ心配するだろう。

「あ、あの子が…色が見えるって……」

「それは本当なのか?」

さっきから色がどうのこうのと…。色が見えることがそんなに悪いことなのだろうか?

僕は首を傾ける。本当に意味が分からないのだ。

「父さん…?ほら見てよ、この服の色。青色でとっても素敵じゃない…?今日の父さんの服に似ているよ」

右手を顔に当てて父さんはため息をついている。

なんで…。

なんで…。

「俺としたことが…悪魔同然の子を今まで育てていたなんて…こんな出来損ないを…なんということだ…」

なんでなの…。僕はただ色鮮やかな絵を見て、綺麗だと思って、それを伝えたら、…。

なんでこんなことに…。

「父さん…僕、、」

「父さんなんて呼ぶな」

「なんで、!僕の父さんは父さんじゃっ!」

「お前の父親は俺なんかじゃない!!!!」

父さんは荷物をまとめ始めた。

「あなたっ!どこいくの!」

父さんは母さんの声に聞く耳を持たない。

着々と父さんは荷物をまとめ始める。最小限の必要なものを旅行用カバンに詰めていく。

「こんな悪魔を育てるつもりなんかない。そもそもお前との結婚が間違いだったんだ」

昨日まで仲良くしていた2人が…。

僕のせいで…。僕が色なんか見えるせいで…。

「ちょっと待ってよ!そんなん無責任じゃない!」

父さんはついに出てってしまった。

「か、母さん…ど、どうしよう…ぼ、ぼく、、」

「…………いよ」

「え、?」

「アンタのせいよ!!!!!!!」

「母さん?な、なんで、、母さんまで僕がおかしいって言うの?」

母さんは僕を思いっきりに引っ叩いてきた。

僕は赤くなった頬を押さえながら母さんを見つめる。

「アンタのせいで父さんは出てったのよ!私は捨てられてアンタを押し付けられて!この悪魔!疫病神!汚らわしい!」

母さんはなんでそんなことを言うんだろう。僕は人間で、母さんと父さんの子で、何も間違ったことは言ってないはずだ、、、。

「アンタが普通に産まれてくれさえいれば!」

「普通ってなに?母さん」

母さんはまたため息をつく。僕の目は普通じゃなくて。色が見えちゃうからダメってこと?それが普通じゃないの?

普通じゃなきゃいけないの?

普通ってなに?

「母さん…母さん…!!!!ねぇ!母さん!」

母さんは返事をしてくれない。こっちを見てもくれない。

母さんは静かにソファに横になった。

僕は部屋の隅で静かに絵を抱き締めた。

その後母さんは僕を施設に預けた。

施設では色が見えることを隠していた。

ただ僕は絵を描くのが好きだった。

葛藤はあったが思い切って貯めたお金で絵の具とスケッチブックを買った。

絵を描くのも色を塗るのも。全てが僕をワクワクさせた。

最初はコソコソと隠れて描いていた僕だが次第に周りの目を気にすることをやめた。

18までしかこの施設にいれず僕は18歳になった年に施設を出た。

バイトを2つ掛け持ちしながら僕は趣味で絵を描いていた。

これを画家と呼ぶらしい。多分この世界に僕以外居ないだろうけど。

バイト以外の日はただ街を放浪する。

フラフラと歩き、自分が綺麗だ、美しい、と思ったものをそのまま描く。

花や木、空、海、川、道路、街並み。時には人も。

「...…んーっ、なんかいい景色無いかなぁー…」

今日も街をフラフラと歩いていた。

ここは街の人々が買い物をするアーケード。

その入口際に新しいお店が出来ていた。

「これって…花屋だ…珍しい…」

この世界は色がない。だから花は全て同じに見えるし形だけで区別するのも難しいので人は花にあまり興味を示さない。

「お花に興味があるのー?!」

元気なピンクの髪の毛が似合っている女の子がカエルの可愛らしいジョウロを持って飛び出してきた。

「ま、まぁ」

女の子は「おぉぉぉ!!」と喜びの声を上げている。愉快な子だなと思った。

今にでも花の愛を語り出しそうな勢いだ。

その時女の子は目線を僕の荷物に移した。

「え、それってスケッチブックってやつだよね!初めて見た!」

興味津々にスケッチブックを見ている。

この世界はスケッチブックが売られている場所が貴重だ。なおかつスケッチブックを使う人なんてとんだ変わり者だ。

この反応は初めて見るんだろう。

「もしかしてお花描いてくれるの!?!」

「うん、描こうかなって」

「なんだっけ!画家って言うんだっけ!初めて見た!」

花に興味を持つ人が少ないので話し相手も少ないのだろう。女の子は意気揚々と花について語ってくれる。

「そのお花はヒヤシンスだよー!ユリ科のお花で花言葉は「あなたとなら幸せ」だよ。素敵だよねえ」

「綺麗だね」

筆を滑らせながら軽く相槌を打っていく。

なんだが今日は筆ノリがいい。

絵の具の色もいつもより鮮やかだ。

同じ色でも濃さや水の量を変えて何回も重ねて塗っていく。その塗り方に女の子は首を傾けつつも口を動かす。

「この形とか本当に綺麗だよね!でもみんな買ってくれないんだぁ、、」

形だけでその人の心を掴むのは難しいだろう。

そもそも植物で心を掴むのは難しいとどこかの偉い人が言っていた。と施設で聞いたことがある。

「……色がないからじゃ…ない、かな」

「色!!聞いたことあるよ!昔の人は見えてたっておばあちゃんに聞いたことある!」

おばあちゃんという単語を出した女の子は朗笑していた。

「そうだね、昔の人は花をプレゼントしたりするのが定番だったらしいよ。だから花自体が好かれにくいんじゃなくて色が無いのが問題じゃないかな」

昔、人々が何故色を見る力を失ったのかを著した本を読んだことがある。

結局何も分からなかったが色があった時の常識の予想等が書かれていた。

その中の1つに花が人々に好かれていたと書いてあった。

確かに僕は花が好きだ。同じ種類でも色の違いがある。その些細な違いを見つける事が幸せだ。

「でも色が見えるってすごいよね。みんなが見たことも無い世界を常に体験してるんだよ。楽しそう!」

楽しそう…。

色が見えるって楽しいんだ…。なるほどその考えはなかったな。

「…?どしたの?」

「そのヒヤシンス…黄色だよ」

人前で色の単語を出すのは父さんと母さんの前ぶりだ。

少し声が震えた。

「え、!からかってるの!??」

「違うよ。本当に僕、色が見えるんだ」

女の子は「すごいー!」「ほんと?!」「まさか会えるなんてっっ!!」と物凄い興奮してくれてる。色が見えると言って引かれなかったのは彼女が初めてだった。

何か救われた気がした。

「そんな有名人みたいに…」

女の子にとっては色が見えるのは楽しそうなことで。多分、有名人や大物にあったような感覚なのだろう。

「黄色ってどんな色なのー?」

「どんな、、明るい色って言うのかな」

まるで君みたいだと、そんなキザなセリフは吐けなかった。でも心の中で呟いておこう。

君にお似合いな色だよ、と。

「でも凄いなぁ、君は僕のこと怖くないの?」

みんなは僕の事を怖がった。

まるで悪魔でも見るような目で。

「他の人と違う悪魔みたいじゃない?」

明るく言ったつもりだった。場を暗くしないために。

ケロッと少し笑いながら呟いただけだった。

「悪魔じゃないよ!君は私や周りの人と同じ人間でしょ?」

同じ人間……か…。

僕は口の端を持ち上げる。

というか持ち上がっていた。

「君の名前は?」

「みくり!」

なんか癒される名前だ。みくり。

彼女の名前の言い方もどこか跳ね上がっていて明るくなる。素敵な名前だ。

「僕はにいる。仲良くしてくれると嬉しいな」

みくりさんは四つ葉のクローバーみたいだ。

出会う人を幸せにするような。

現に僕は幸せになっている。この子と友達になりたい。

「ねぇね!みくりに色のある世界を教えてよ!本でしか見た事がない世界を知りたい!」

探求心があって、動じない心。

「うん、いいよー!」

さっきから興味深そうに見ていた絵の具の説明をする。

「沢山あるね!これ全部色が違うの?」

「そうだよ、これは青色。空と同じ色だよ。こっちは赤色でリンゴと同じかな。えっと、これは…」

みくりさんは相槌を打ちながら僕の話をよく聞いてくれる。

色の話をする相手がいることが僕も嬉しくていつもより饒舌に話してしまった。


「♪♪〜♪〜〜♪(鼻歌)」

「あ!また書いてある!懲りないなぁ、、」

「あ!にるくん!これ見てよ!」

あれから僕が休みの日は花屋に立ち寄ることにしている。

ここは花の種類も色の種類もとても多い。

描く側にとっても楽しい場所だ。

何よりみくりさんに会いたいと思うからだ。

「うわぁ、これはひどいねぇ、、」

みくりさんが見せてきたのは張り紙だ。

"花屋なんかやめちまえ" "邪魔だ" "花なんかに興味無い" "消えろ"など悪趣味な批判が大量に書かれていた。

「誰がやってるかは分からないんだけど…最近量も回数も増えてるんだよね…」

「うーん、どうしたものかなぁ、、」

僕とみくりさんで腕を組み頭を悩ませているところに、いかにもガラが悪そうな連中が近付いてきた。

「あ、あれだよ噂の花屋」

「うわ、本当に売ってんだな、どうせ誰も買わないくせに」

近付いて来たと思ったら暴言を吐き散らかされてなんなんだこの人たちは。

「みくりさん、多分あの人達だよ(コソッ)」

耳打ちをしながら連中を見つめている。

視線に気付いたのか連中がさらに近付いてきた。

最初はニヤニヤとこちらを見下すような目で見ていたが1人の男が何か気づいて隣の男に耳打ちをしていた。

「お前、何持ってんかと思ったらそれスケッチブックじゃねぇか!」

なんだ、今度は標的を変えて僕の番か。

「そうですけど、なんですか?」

「売れねぇ花屋と画家が仲良しこよししてるってわけかー!そりゃぁ傑作だな!」

みくりさんの拳に力が入っている。

僕について何かを言われる分には言い返すつもりはないがみくりさんの事をこれ以上悪くいうのはいけ好かない。

「にるくん、、みくり言ってもいいかな、、」

正直言ったところで無駄だと思う。

この人たちは人の粗探しをして楽しんでいるのだ。全く理解は出来ない。

「みくりとにるくんはあなた達みたいに誰にも迷惑なんかかけてないじゃん、あなた達よりずぅっと!マシな生き方してると思うんですけど!!」

「そんなかっかすんなよ!短気だな!お前!」

短気と言われ更にみくりさんの気持ちは怒りに溢れていく。

ヒートアップしたみくりさんの腕を引っ張った。

「にるくん、!」

「もういいよ、みくりさん。何言っても無駄だ」

みくりさんは僕と同じ気持ちだと思う。

悔しいし言い返せない。否定もされて、なおかつ自分だけじゃなく他者も巻き込んでて。

「もう帰ろーぜ」

「おう!いこー!」

連中は歩きながらまだグチグチ文句を垂れていた。

空気はしんみりしてしまったし、みくりさんもショックでしゅんとしてしまっている。

「ほら、!じゃあ僕が絵を描いてあげよう!みくりさんの好きなお花を教えて?」

「ヒヤシンス…にるくんとの思い出……持ってくる、、、」

「うんっ!」

しゅんとしてしまったみくりさんを何とか元気づけたい。僕に出来ることを精一杯してあげよう。

道路でじゃれ合う2人の姉弟がいた。

「眠人!早く!大道芸人節子さんのショーが始まっちゃう!!」

「待って待ってお姉ちゃん、後15分もあるから」

大道芸人節子が誰か存じ上げないがニッコリしてしまった。

平和な所にはしっかり平和が溢れているんだな。


その頃、街ではガラの悪い連中に指示した者がアジトに行きみくりさんとの事を報告していた。

「お前ら、本当に悪魔がいたのか」

この声は街のガラが悪い連中を取り仕切ってる親玉の声。名はコキア。

「本当にいましたよ!そこら辺のガラの悪いヤンキー2人に凸らせてみましたー!」

親玉は机の上で足を組み乗せていた。

その足を組み直し連中達の方を見る。

「私たちが指示したとは奴らにはバレてませんので顔も割れてません!」

「そうか。よくやった。私はお前らを信じている。今から言う私の要望を聞いてくれるか?」

連中の1人、名はアネモ。アネモは身を乗り出し今にでも駆け出しそうな勢いで声を上げる。

「当たり前じゃないっすか!」

もう1人の名はメリア。メリアも忠誠を示す。

「コキア様の為ならこの身も捧げます!」

コキアは机から足を下ろし2人の周りを歩き始める。

「流石だお前ら。簡単な話だよ。バカなお前らでもわかる話さ」

アネモが「コキア様にバカって言われた、、!」と興奮している。

「あいつらは街の風紀を乱している。こーーーんな悪魔がいたら人々は怖くて寝れやしない」

コキアが大きな手振りを加えながら説明しているところに気まずそうにもう1人の手下ビオラが来た。

「ビオラ!!!遅いじゃないか!どこいってたんだ!!!」

ビオラはアネモやメリアに比べたら手下歴が浅い新人だ。

「もういい!!とにかくだ!いいか!!!」

ビオラは手下の中で1番出来が悪い。なおかつ反抗心が見えるが己の弱さにいつもコキアに負けている。

そんなビオラにコキアはいつもイラついていた。

「お前らであの花屋と悪魔を追い出せ!」

アネモとメリアは息ぴったりに「はいっ!」と元気の良い返事をする。

返事をしずにひたすら俯いていたビオラにコキアは近付いた。

「出来るよなぁ????ビオラ」

コキアはビオラの胸ぐらを掴み凄まじい腕力で成人男性を軽々持ち上げた。

「こ、、、コキア様、、そ、それは、、、、」

「ビオラ、お前がこの位置に着けたのは誰のお陰だ?」

「こ、コキア様です…」

コキアのビオラを掴む力がどんどん強くなる。

「そうだ、できるよな?ビオラ」

「………勿論です、コキア様」

やっとビオラは力強い化け物から解放される。

ビオラは力をなくし、その場に沈み込んでしまった。

「良かったよ、私もビオラを手放したくないからね」

コキアはそう吐き捨て静かに、だけど力強くコツコツと音を立てながらその場を去っていった。

「おい、ビオラ」

「そろそろ立ちなさいよ」

アネモとメリアは小さな孤児院で一緒に育ったらしい。孤児院の中でも相当暴れたらしく、それを評価したコキアが2人を拾ったらしい。

勿論ビオラも彼らに可愛がられている。

「あんた相変わらず弱っちいのね!それにしても!コキア様に胸ぐらを掴まれるなんて!私なら嬉しさで失神してしまいそうだわ!」

メリアは良く言えばすぐ喧嘩しちゃう強い女の子なのだが普通に性悪娘だ。そしてコキアに惑溺している。

「メリア、無駄だよ。ビオラはまともに学を学んでいないんだから」

このアネモはいつもビオラの事を見下している。孤児院だってそこまで学がないくせに。

「そろそろあんたコキア様を怒らせるんじゃないよ!まぁ怒ってるコキア様もそれはそれで美しいんだけどさ〜!コキア様が不快に思う事は嫌なの!」

「すみません…」

こうやって謎に謝らせられる毎日。

メリアは何かとグチグチ言ってくるがアネモは一言、二言投げ捨てれば満足する。

ビオラは何も言い返せないまま、ただ、永遠と。謝る理由も分からないまま謝り続ける。

「そうだ!あんた罰として、あの花屋をあんただけで追い出してきなさいよ!花屋くらい、あんた1人でも追い出せるでしょ?」

「メリア、いい考えだ。最悪店ごと潰してしまえばいい。おい、ビオラ。お前一人でやってこい。そしたらコキア様に少し位は褒められるかもしれないぞ」

ビオラは静かに「はい、」と返事をする。

満足した2人はコキアが向かった先にそのまま去っていった。どうせ、仕事を上手く押し付けれたから2人で仲良くお茶会にでも行くのだろう。

ビオラは静かに床を見つめる。

「私の気持ちは…」


「もぉーー!!まただ!アイツらもそろそろ懲りても良くない?」

みくりさんは片手に持っていたカエルのじょうろを置き貼り紙を剥がしていく。

最近どんどん数が多くなってきている。

もしかしたら犯人はこないだのチンピラヤンキーだけじゃないのかもしれない。

みくりさんも大変だ。

よし、今日はみくりさんらしい花を描こう。

何しようかなぁ。

そう考えながら僕は花屋に近付いていた。

そこにボロボロのスーツを来た若い女性がみくりさんの横に近付いていた。

「…少し、いいですか?」

みくりさんは突然話しかけられて驚いている。

「あっ!はい!もしかしてお客さんですか?!」

女性は両手を動かしあたふたとしている。

「そ、それは、、ち、ちが」

「ん?違うの?」

女性は1回咳払いをして自分の気持ちを落ち着かせた。

「……コホンッ…き、君の店はあまりにも街の風紀を乱していると住民から苦情が届きました…。1ヶ月後までにここを退去してください」

みくりさんは驚きのあまり顔が強ばっていた。

「君はあの色が見える悪魔と仲がいいですよね?ついでに伝えてください。彼にもこの街から出てってもらうことになりました」

今度は僕の話だ。

盗み聞きはよくないが花屋の傍の電信柱に隠れて続きを聞く。

「な、なんで?!?にるくんは何も悪くないのに!!」

「もう決まったことですから、、」

「色が見えるだけでなんでそんな!そんな世界はおかしいよ!にるくんは何も悪くない!」

みくりさんは優しいなぁ…。

僕は静かにみくりさんの元に近付く。

「みくりさん」

みくりさんは声がする方へ勢いよく首を回転させた。

「全部聞いてたよ、僕は大丈夫、慣れっこだよ。それよりもみくりさん、この店を退去させないといけないなら花を移動させないとだから…」

「おかしいよ、、にるくん、、、、」

みくりさんは涙ぐみながら俯いている。

僕のシャツの裾を小さくだが、力強く。握りしめている。

「みくりさん、気持ちは嬉しいけど……」

正直僕も悔しい。

自分が悪魔と言われて追い出されるのは正直もう慣れっこだ。

そうじゃなく…。

みくりさんがこうやって僕の為に涙を流してくれる。

それがあまりにも悔しい。

「話は済みました?では、私はそろそろ…」

「ねぇ、、!どうにかならないの、、?」

女性はみくりさんに腕を掴まれて去るに去れない状況だ。

僕の立っている位置からは女性が下唇を少し噛んでいるように見える、、。

「私には、、どうする権利もない、」

「上司に意見くらいは!」

「私だって!出来たらとっくに!!」

女性は勢いよくみくりさんの掴む手を振りほどいた。僕はみくりさんの前に出る。

これ以上手を出させる訳にはいかない。

「話は以上です早く退去してください、、」

みくりさんは言葉を失い静かにカエルのじょうろを店の中にしまいに行った。

僕の主観でしか語れないがあの女性は悪い人では無いんだと思う。

なんだろう…この腑に落ちない感覚…。

とにかく主犯はあの女性ではない。上の立場の人が居るはずだ。僕なりに調べてみよう。

納得もいかないのに何もそいつらに従って出ていく必要は無い。

僕らは自由なんだ。

何も迷惑をかけていない。

最悪僕はいいんだ。この街くらい易々と出ていこう。

ただ花の美しさを人に知って貰いたい彼女の気持ちを抑える必要はない。

「みくりさーん!ちょっとこっちに来て欲しい!」

今日はみくりさんらしい花を描こうと思っていたが急遽変更だ。

そこまで得意としては無いが僕が出来ることをしてあげたい。

「そこに座って、今日はみくりさんを描きたいんだ」

「え!?みくり!?!?!待って鼻かむ、」

少しだけ泣いていたのか鼻と目が赤い。

「座ってるだけでいいよ、話をしない?」

みくりさんは自分を描いてもらえる嬉しさに素直に椅子に座る。

可愛い。

「うん、する、、」

鉛筆とスケッチブックを取り出す。

みくりさんは可愛らしいふわふわのピンクの髪が特徴的だ。

それを上手く表現したい。

「ねぇ、にるたん」

ちょうど鉛筆がスケッチブックを触れた瞬間、みくりさんに話しかけられた。

「色が見えるってさ、どんな感じなの?」

「どんな感じかぁ、、そうだねぇ、、」

色が見えるだけで人に嫌われる事が沢山あった。ただ色が見えてよかった事も沢山ある。

「景色を見て綺麗だなって思うことはよくあるよ」

モノクロの世界で過ごしている人は音で楽しむ人が多い。

だからこの国では音楽が愛されている。

「そうなんだ、じゃあ感動することが多いねっ」

会話を続けるとみくりさんにも笑みが戻ってきた。やっぱり彼女は笑顔だったり楽しそうにしている時が1番可愛い。

「海とか、空とか。ふと顔をあげると綺麗だなって思うこと多いよ」

「みくりも色がある海や空見てみたいなぁ、、」

「僕と見に行こうよ。みくりさんに全て伝えるよ」

「ほんと!?!行きたい!」

「今度見に行きましょうよ」

「うん!!」

先程の事は一旦置いておこう。

似顔絵も3分の2ほど完成してきた。

あとは首周りを描くだけだ。

そこで視点を少しだけ下におろした時にみくりさんのエプロンに入ってるメガネが気になった。

「あれ、みくりさん目悪かったっけ?」

「ん、、?あ、これ?」

エプロンからメガネを取り出し付けてくれた。

普段とは違う雰囲気でこれはこれで好きだ。

「そこまで良くないからたまにつけてるんだぁ、でもこれ汚れてきちゃって捨てようと思ってたとこ」

見る感じ傷がある訳でもない、少し曇っていてレンズが見えにくくなっている。

これは磨けば使えるんじゃないのか?

「それさ、良かったら僕にくれない?」

「え、こんなんでいいの?別にいいよ?」

そう言ってみくりさんは立ち上がり僕にメガネをかけてきた。

「わ!」

「えへへぇちょっと待ってて、スペア持ってくる〜!」

一瞬店の中に入り、うり二つのメガネをかけてやってきた。

「えへへぇおそろーい」

満足したのか、また椅子の上に座り似顔絵の完成を待っている。

そろそろ完成だ。

最後にここを少し修正して…。

「ん!でけた!」

かなりの自信作だ。

みくりさんの良さをとてつもなく表現出来ている気がする。

「どれどれ、、えぇ!すごい!完璧にみくりじゃん!!!」

良かった…。みくりさんの笑顔が取り戻せて。

「これあげますよ、メガネのお礼と言ってはなんですが」

ぱぁ!!と目に光を宿し笑顔で受け取ってくれた。

みくりさんはそっと似顔絵を抱き締めてくれた。

その姿は本当に絵を愛している人の笑みと行動だった。

あの日の僕に似ている。

こんなほのぼのとした日常をくれるのはみくりさんの凄さだ。

この人といると本当に楽しい。

こんな日常を壊そうとしている人がいる。

僕らは産まれた時から自由だ。

誰にも邪魔させない。

自分の好きなものを、好きなことを、胸を張って好きと言える世界なのだ。


「ねぇねぇ!アネモ!今日は何して遊ぶー???」

新しく買ったフレアワンピースでひらひらと舞いながら話しかけてくる女の子メリア。

「そうだね、こないだ新しく出来たドーナツ屋さんでも行かない?店員が会計終わりに「下手くそすぎワロリンヌ、ワオッ!ワオッ!」」って言ってくれるんだって

「わぁ!!それは素敵ね!コキア様にも買ってってあげましょう!!」

「そうだね、でもその前に問うべきことがあるよ、ね?」

そう言い2人はビオラの方を見つめた。

「も、申し訳ありません!!!」

ビオラは自分で何を咎められるか理解はしていた。

アネモは静かにビオラを壁に追い詰める。

「なぁ、ビオラ。お前さマジでなんも出来ないんだな」

軽蔑の目を向けられる。その目は人間に向ける目でなかった。

「花屋の女の子1人ですら追い出せないなんて!このまぬけ!のろま!鈍重!臆病者!」

ビオラは口をつむんでいた。

それは悔しさなのか。己の無能さに絶望しているのか。言わずもがなだ。

「もういい、コキア様も早いこと処理して欲しいだろう。俺達がフォローしてやる」

「と、言いますと、、、」

ビオラは怯えていた。

自分が無能のあまり花屋と画家の息の根を止めないかと。いや、さすがの2人もそこまでは…。

ビオラの予感は的中していた。

「3日後にあの2人を処刑する。いいな?」

目をギロっと動かしビオラに承諾を要求してきた。

メリアは何をするのかワクワクしてたまらないのだろう。さっきから鼻歌が止まらない。

「え!?!!殺せるの!?!!!」

興奮のあまり距離感覚がバグりアネモを押し倒す勢いで攻め入る。

「メリア、残念だけど俺達がやったら流石に捕まっちまう、けどビオラにやらせれば大丈夫だ」

「なっ!!!」

ビオラ自身の手で殺す、、。

ビオラは絶望していた。

「ア、アネモ、、流石に…それは、、、」

「は?なに?」

有無すら言わせない圧だ。

「大丈夫だよ、ビオラ。君が捕まらないように僕達もフォローする。大切な、仲間、だからね」

嘘という文字をそのまま貼り付けたかのような笑みを向けてくる。

この仲間にどれだけの念が感じられるだろうか。

「ねぇええ!!私も殺ーしーたーい!!!」

アネモは「メリアには殺す時の斧を用意してもらおうかな」と言い暴れる少女を鎮めていた。

ビオラはもうどうすればいいか分からなかった。

絶望しているビオラの横でアネモは思い出したかのようにポケットからグチャグチャの紙を取り出した。

「そういえばビオラ、こんなものが届いたんだけど」

見せてきたのは例の花屋の似顔絵だった。

「そ、それは…!!」

「あ!汚らわしい花屋の似顔絵じゃない!」

メリアは見つけた瞬間アネモの手から奪い取りビリビリに破いてしまった。

「あ、あぁ、、」

アネモは高笑いをし始めた。

部屋中にアネモの「あはははは!!!」が響き渡る。

ビオラは何がおかしいのか全くもって理解できなかった。

破き散らかした紙を思いっきり踏み続け似顔絵の面影はすっかり消えていた。今では足跡で何が描かれていたかすら分からないレベルだ。

その残骸を見てビオラはとある事を決心した。

「ビオラ、明日の夕方。最高の舞台を用意してやる。後はお前の手で殺せ」

そう言い約束だったドーナツ屋さんに2人はにこやかに向かって行った。

破られた似顔絵はそのままだ。

このままではビオラがコキアに怒られてしまう。そんな事今までにも沢山あった。

ビオラは静かに。

紙を1枚1枚拾った。


さぁて、メガネどうっすかなー。

今日はバイトの日でみくりさんに会いに行くことが出来なかった。

家路に着く間に僕はメガネの使い道を探す。

そういえば僕の唯一の友達にヘンテコな道具を作るのが好きな人がいた。

彼は施設時に知り合った人だ。

彼が施設にいたのは2年ほどだが僕の色が見える体質に引きながらも触れずにたまに話を聞いてくれた1人だ。

彼は僕の10歳ほど歳上で最後に会ったのは1年ほど前だろうか。

久しぶりに会いに行ってみるか。

少し距離があるがまぁ行ける範囲だ。

寂れたマンションの端っこに彼の作業場としている店がある。

僕は開けるのですら苦労する扉を懐かしみながら扉を引いた。

「やぁ」

彼は集中していて僕の声の反応に少し遅れた。

ゆっくり顔を上げて「なんだ、にいるか」と淡々と言いまた作業に戻った。

「にいるだよ」

僕は正常運転の彼を見て懐かしむ。

久しぶりだとしても再会を喜ぶ訳でもなく、最近どうなの?と聞いてくる訳でもなく。

ただただ普通に時間が過ぎていく。

僕は昔から彼の集中が途切れるまで待っていた。この時間は昔から嫌いじゃない。

作業が一段落したのか工具を机に置きコーヒーを入れに行った。

きっとこれが会話の合図だろう。

僕は聞かれてもない最近あった愉快な話。

みくりさんとの事を話した。


「でさ、結果的にメガネを貰ったわけなんだよね」

彼はメガネが出てきた辺りから来訪理由を察したのかメガネを興味深そうに見ていた。

「どう?僕の希望いけそうかな」

彼はメガネを手に持ち様々な方向や曲がった角度、レンズの曇り具合までくまなく見ている。

「んー、それは出来るんだけど」

「うん」

「そのみくりって子凄いな、目が見える人を引かないなんて」

まさかの話はみくりさんだった。

てっきり出来なくはないが一つだけ問題がある。など言うと思ったが彼にとってメガネの件はちょろいものらしい。

「僕も驚いたよ、それどころか凄いまで言ってくれた。本当に凄い人だよあの人は」

脳内にいつも呼んでくれる「にるくーんっ」が流れてくる。僕はそれにニヤケてしまった。

「ふーん、」

彼はメガネを置いてコーヒーの残りを一気に飲み干した。

「まぁ気が向いたらやっとくわー」

僕もコーヒーを飲み干す。

今日はもう遅い。そろそろ帰らねば。

「……いつまでに欲しいん」

相変わらず彼は変わらない。

気が向いたら、とか言いながらやってくれるのだろう。

面倒みのいい人だ。こんな僕の傍になんやかんやいてくれただけある。

「急ぎの案件じゃないよ」

「ん、」

これで何とかなるだろう。

喜んでくれるといいなぁ。


「あれ、みくりどこやったっけ…」

辺りを見渡すみくりさん。何か探しているように伺える。

「どうしたの?」

「にるくんが描いてくれたみくりがなーーーい!!!!」

みくりさんは嬉しさのあまり額に入れて壁に飾っていた。

その額ごと無くなっている。

「え、そんなことある?」

みくりさんが飾っていたはずの壁は綺麗さっぱりただの白い壁となっていた。

「壁から額が消えるって…」

僕はみくりさんの方に顔を向ける。

みくりさんも僕の方を向いていた。

お互い向かい合う形になった。

今までの張り紙でのイタズラと言い、この消えた似顔絵も多分…。

2人とも考えてる事は似てるだろう。

さて、どうしたものか…。

僕は今後の対応を考える。

あまりにも度が過ぎている。

さて、どう出るべきか…。

「はぁ、、もう本当になんなんだろう…みくり達そんなに悪いことしてるのかな」

連続のいたずら。

相手は相当僕たちに出ていって欲しいのだろう。

「みくりさん絵はまた描いてあげるよ」

「うん、、みくり買い物してくる、、、今日はミートスパだよ、、」

「行ってらっしゃいっ」

さて、僕はどうしようかな。

とりあえず敵が顔を出さない限りは僕も動き様子がない。

こないだ来たチンピラヤンキー共を見つけて問い詰めたがそいつらも適当に頼まれただけらしい。男女2人に「あの花屋に喧嘩売ってこい」と。

そこからは辿れそうになかった。

どうしたものか。

そこで1週間ほど前に来たボロボロのスーツの女性が僕に近付いてきた。

「お、おい、、画家さん」

「あなたは…」

僕達に退去しろと言ってきた女性だ。

この人も僕が探していた人の1人だ。

女性は僕に話があるようだった。

僕は隣にあった椅子に座るように促す。

「あ、ありがとうございます」

しっかり感謝を言う辺り女性はそこまで悪そうには見えない。

僕も隣に椅子を置き話を聞く体勢に移る。

「生憎私にも貴方たちにも時間が無い。簡潔に話させて頂きたい」

女性は焦っているように見えた。

「ここから、、立ち去って頂きたい…」

「僕達は誰にも迷惑かけていません。あなたに命令されても出る義務はないと思います」

「信じてもらえないとは思うが、ここにいたままでは貴方たちも私も殺されてしまう!!」

女性はスーツの膝の部分を握りしめて悔しいという感情が滲み出てる。

「…あー、、なるほど」

「信じて貰えないとは思います…けど、、!ここにいたら貴方たちは!!」

僕が次の言葉を考えていたら彼女はどんどんネガティブな思考になっていた。

「…無理、ですよね…。私達は貴女方に散々酷いことをしてきたのに今更信じろだなんて…自分でも笑えてきます、、」

彼女の言い分は本当なのだと思う。

彼女は1度花屋に来た時、花を愛おしく見ていた。

その目は花が好きな人の目だった。

「花、好きですか?」

「え、」

僕は近くにあったヒヤシンスを1本花瓶から取る。

みくりさんはしっかりお手入れしていて、枝先を切って水の吸う力を上げている。

「あなたの目って昔の僕に似てるんですよね、あ、失礼かもですけど」

僕は彼女にヒヤシンスを持たせる。

そのまま僕も椅子に座りなおし自虐を含めながら過去の話をつらつら話す。

「本当は認められたかったんですよね。賞賛されたかったんです。親にも認められたくて、でも父は出ていき母には捨てられました」

彼女は「そんな、、」と絶望の声をあげていた。

「僕の目ってご存知の通り色が見える悪魔の目なんですよ、でも僕はこの能力が自分にあって良かったと思ってます。絵を描く事を好きになれて、かけがえのない友人まで出来た。それは嘘偽りなく、この悪魔の目のおかげなんです」

彼女は今にでも泣き出しそうな顔をしていた。

僕も感情を露わにして語ってしまった。

「あなたは、、どうしたいです?」

彼女は嗚咽を漏らしながらも精一杯答えてくれた。

「私は…」

「うん」

「私は…!あんな奴らの言いなりになんかなりたくない!!」

「うん」

「こんな仕事じゃなくて!もっと!芸術に関わる仕事をしたい!!」

「うん、いくらでも出来ますよ。僕達は自由なんです。好きな事を思いっきり好きだと伝えていいんです」

僕は彼女の背中をさすってあげながら言葉をかけていた。

彼女の涙が引っ込む頃、みくりさんが帰ってきた。

「え、どゆこと、?どういう状態?」

みくりさんは敵だと思ってた人が今現在僕に背中をさすられながら嗚咽している。

その構図に疑問符しか浮かばないだろう。

「みくりさん、彼女は悪くないんだよ、多分上司さんの指示で仕方なくやっただけなんだよ」

みくりさんはそれでも信じられず呆然と立ち尽くしていた。

女性は内ポケットからボロボロのテープで繋ぎ合わせた紙を出してきた。

「ボロボロにされてしまったんですけど…何とか形だけは修復しときました…。ただ踏まれてしまい…本当に申し訳ない…」

彼女は椅子から立ち上がり申し訳ないという感情を感じ取れる背中で深々とお辞儀をした。

「あ、いや、そんな頭あげてください、、みくり困ってしまう、、」

みくりさんはあたふたとしている、怒っている様子ではないので彼女が悪い人だとは思ってないのだろう。

「みくりさん、一旦ここから離れよう」

「え、なんで、」

女性はもう振り切っておりボロボロのスーツのジャッケットを脱いでいた。

「ここにいては殺されてしまいます。私は避難場を用意しました。案内させてください」

女性の顔は輝いていた。

しがらみから抜け出し自分の意志を大切にする顔をしている。

最低限の荷物を整え、みくりさんはいつでも出れるようにしていた。

僕自身の荷物はスケッチブックと筆さえあれば成り立つ。どうとでもなるだろう。

商店街を抜け、森まで歩いた。

森はあまり近付いてはダメだと思っていたが入ってみると自然が溢れていて、これはこれで絵の題材になりそうなシーンが沢山あった。

みくりさんは道中に咲いてるタンポポなどに惹かれて気付いたら右手に持っていた。

「後はここを真っ直ぐ行くと小屋があります。数日分は乗り越えれる食事を用意しときました。数日は安心かと」

「何から何まで…ありがとうございます」

みくりさんも僕に続いて一緒に頭を下げた。

頭を上げたタイミングで僕もずっと気になっていた事をみくりさんが聞いてくれた。

「あの、、あなたのお名前とかって…」

女性はもう帰ろうとしており、驚きのあまり目を見張っていた。

「私は、、ビオラ…ですけど…ただ失踪した母親の名前を借りてるだけで本当の名は知りません、、」

みくりさんはその名前を聞いてハッとしている。

「ビオラって、お花にあるよね!確かですけど、花言葉は「誠実」とか「信頼」とか、、!ビオラさんにピッタリですね」

みくりさんの言葉で彼女はまた泣き出しそうになったがなんとか上を向き堪えていた。

「……ありがとうございます、では、また、どこかで」

彼女の顔は明らかに出会った時に比べて大変身している。

やはりみくりさんという女性は凄い。

僕たちの命はビオラさんに預ける事にした。

今の彼女ならどうにかしてくれると僕は信じてる。


わざわざ特注で作った斧。

大声を上げても外には聞こえない地下室。

全く、こんな好都合な場所をどう見つけたのか私は感心した。

私は胸を張り、堂々と大股でコキアの元にむかう。

「コキア様」

コキアは目を見開き怒りを大いに表している。

アネモが言っていた最高の舞台とはこの場で、コキアの目の前で彼らを殺す事だったのだろう。

たしかにそうすれば私は認められるだろう。

だが、それは本当に私のしたい事なのだろうか?

いいえ、違う。

私はこんなやつの言う通りに生きていきたいわけじゃない。

「ビオラ、待っていたぞ。なぁ、ビオラ、あいつらは、、どこだ!!!!!!」

もう慣れた。首元を掴まれててクソでかい声で叫ばれるのは。

コキアの後ろにアネモとメリアが立っていた。

アネモとメリアとコキアと同じくらい怒りに震えていた。

「ビオラ、まさかコキア様を裏切ったんじゃないだろうな?」

「裏切ってません」

ビオラはハッとした。何もかもが予想外の展開なのだろう。

「なら、どこにいるのよ!!!」

「元々あなた達の味方でもありません」

「何を言ってるんだ!!!!ビオラァァ!!!」

本当に相変わらずうるさい声をしているな、と思う。

私はあからさまに耳を塞いだ。その行動にアネモは衝撃を受けていた。

もう今までの私ではない。

「私は貴方の下僕でも、優秀な手下でもありません」

「ビオラ!!!お前は私の…」

「なんですか?あなたはいつもそうだった。私をあの小屋から拾ってくれた時から!!」

メリアはコキアの前に出て怒りが今にでも爆発しそうだった。

「ビオラ!!!!いい加減に…」

「メリアさんも、私の事都合の良いおもちゃを手に入れた等と思いましたか?」

メリアはドヤ顔で答える。

「当たり前じゃない!あんたみたいな貧相な女!おもちゃにして貰えるだけ感謝したらぁ?」

こんな所が、この女の嫌いな所だ。

「もう消えてください、どいて」

私はメリアを突き放す。

あの弱虫な何も言い返せないビオラがこんな事するとは思わなかったんだろう。

メリアは衝撃と絶望で床を見つめていた。

理解が追いつかないのだろう。

「全て!国に私は報告する!!あなた達が権力という名の汚い刃で揉み消した悪事をね!」

「ビオラ、お前は本当に相変わらず脳が足りないなお前もその悪事に加担しているだろう?お前も同罪だ。俺らは共同体なんだよ、今更いい子ぶっても…」

「私がひとりで突っ込むとでも?」

「は?!?!」

「私は確かに脳が足りない無能です。だからこそ頼るという事を学びました」

地下室の唯一のドアが思いっきり開く。

「警察だ!ご同行を願おう!」

一斉に睨まれる感覚。

もう私は気にしない。

奴らの身柄を警察の方々に渡す。

「さよなら、コキア…私を拾ってくれた事は感謝します…」


全てが解決した、と言ったら丸く収まるだろうがそれは無理だ。

世界は相変わらずモノクロに包まれていて自由が制約される世界だ。

それでも僕らは自由だ。

好きな事に自信を持って好きと言える自由を持っているのだ。

コキアが捕まった事はニュースで見た。

そのニュースの夕方にはビオラさんが迎えに来てくれて報告された。

僕は今も尚バイトの掛け持ちの日々。

時間が空いたらみくりさんに会いに行き絵を描く。

それなりに人生を謳歌している方だと思う。

今日はみくりさんに感謝を伝えるんだ。

「みくりさーん、いらっしゃるー??」

いつも座っている椅子とお話する机。

そこにぐっすりと眠っているみくりさんが居た。

ここに帰ってきて数日が経つ。

街はいつもと変わらない。僕らの日常も変わらない。

ちょうどナイスタイミングでみくりさんが横を向いてくれた。

ぐっすりに寝息を立てている。

そこに僕はメガネをかけてあげた。

起きたら驚いてくれるだろうか。

僕と同じ世界を彼女にも見て貰いたい。


「よし!!!書ききった!!!っしゃ!!」



「おっしゃ!配信しよーっと」





































「みんな!こんとわっ!」

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僕の見ている景色に君を 永和 @towa1023

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