3‐8.略奪者たち

 帝国軍の兵士の手によって、シャーディヤはイスハークと引き離され、鎖に繋がれ牢獄に入れられた。

 シャーディヤは若く可愛らしい王の奴隷として、高い価値のある捕虜だと判断されたので、そう手荒なことはされなかった。


 しかし大嘉帝国の軍は不要と判断したものには容赦がなかったので、シャーディヤは数えきれないほど多くの殺戮を見聞きした。


 皆似た表情で戦う遠い異国の兵士たちは、獣のような言葉で話し、大きな馬を乗りこなして弓矢で人を射る。


 彼らは円城の砦も、水路も、すべてを粉々に壊した。壊さなかったものは、略奪した。


 翠玉のように美しいと謳われていたザバルガドの都は火をかけられ、炎は何日も燃え盛ってありとあらゆるものが灰になった。


 図書館に集められた世界中の本も焚かれ、大勢の人が逃げ込んだ寺院や治療院も焼き尽くされる。


 職人や工兵など、帝国の役に立つと判断された者はわずかに生かされたが、そうではない住民は、老人や子供も殺された。


 また異教徒の軍隊は、ベルカ朝の象徴である王宮を特に、徹底的に破壊し略奪した。

 彼らは壁掛けや枕を全て剣で引き裂き、黄金や宝石だけを持ち去った。そして隠れている者は女も男も全員引きずり出して、惨殺する。


 あまりにも大勢の人が殺されたので、大量の死体の腐臭は街中を覆い、都の近くを流れる川は真っ赤に染まった。


「この苦しみから天上の楽園へ、私たちを導く慈悲深き神よ。正しい道を示してくださる、あなたは偉大です」


 時折牢獄でも響く誰かの悲鳴を聞きながら、シャーディヤは死後にあるはずの神様による救済に感謝し祈った。

 シャーディヤは世界が焦げてくすみ、何もかもが赤黒く塗りつぶされてしまった気がしていた。


 わざわざありがたいことに、帝国軍は王であるイスハークを処刑するときに、シャーディヤを鎖に繋いだまま外に連れ出し見学させてくれた。


 イスハークの処刑は、都の様子がよく見える高台で行われた。


 そして破壊と略奪の結果を見せつけられた上で、イスハークは頭を断頭台に押し付けられ、曲刀で首を斬られて死んだ。


 澄み切った青天の下、大地に一つの血の染みが広がる。


 イスハークに科されたその処刑の方法は一応、大嘉帝国では貴人に対する名誉ある殺し方であるらしかった。

 その痛ましい死とは違って、死後には安らぎがあることを、シャーディヤは祈る。


 処刑されるそのとき、シャーディヤにはイスハークの最後の姿が見えていたが、イスハークにはシャーディヤが見えることはなかった。


 ただ呆然と殺戮だけを目に映し死んでいくイスハークは孤独で無力な王で、シャーディヤはその他大勢の群衆の一人でしかない。


 イスハークは処刑され、主と奴隷が二人で死ぬ機会は失われた。

 シャーディヤは生かされ、現実に一人残されたのだ。

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