3‐2.奴隷の少女

 六歳で奴隷商人の手に渡った後、シャーディヤは人間を売買する市場で売りに出された。

 そうした市場はあちこちの都市で開かれていて、男も女も、あらゆる土地から集められた奴隷が売られていた。


 特に海と砂漠の大国・ベルカ朝の首都ザバルガドで開かれている市場は非常に大規模で取扱いも広く、シャーディヤが競りにかけられたのもその場所だった。


 シャーディヤは綺麗な色の目をした、とても可愛い子供だったので、他の子供よりも高値がついた。

 相場の三倍の値段でシャーディヤを買ったのは、ムスアブというまだらに髭を生やした中年の男だった。


 ムスアブは地味で目立たない男だが、ベルカ朝の大宰相であり、国中でも指折りの大金持ちである。

 都の中心の王宮の次いで良い土地にある、いくつもの部屋がある立派な石造りの平屋の邸宅に、ムスアブは住んでいた。


 邸宅にはたくさんの奴隷がいて、シャーディヤもそのうちの一人になった。

 ムスアブはシャーディアを広間に呼んで床に坐らせ、見下ろして言った。


「わしがお前を買ったのは将来、お前を王の後宮ハーレムに入れたいからだ。そのためにお前には、歌や踊りに楽器、刺繍に外国の言葉など、様々なことを覚えてもらう」


 しわがれたムスアブの声が、淡々と響く。


 ちょこんと床に坐ったまま、シャーディヤは何も考えずに微笑んで答えた。


「はい。かしこまりました、ごしゅじんさま」


 それは甲高く、舌足らずで明るい返事である。

 シャーディヤは誰に対しても、従順で言うことをよく聞く子供であった。


 またシャーディヤは、どちらかと言うと安心した気持ちでムスアブの言葉を聞いていた。


 この世で最も不幸なのは、死ぬまで暗い鉱山で働かされる価値の低い男の奴隷だと、市場で売られていた他の奴隷は語っていた。


 だから幼いシャーディヤは、鉱山がどんなところなのかは知らなかったし、後宮ハーレムに送られることの意味をわかっていなかったけれども、可愛い女の子に生まれて本当に良かったと思って神様に感謝していた。


 シャーディヤが心の中で神様に祈りの言葉を捧げていると、ムスアブはもう一つの命令を付け加えた。


「わしが愛しているのは効率で、嫌いなものは無駄だ。だからお前はわしがお前の代金を支払ったのが無駄と思う日が来ることのないように、よく学んでよく育ってくれ」


 特に深い感情があるようには見えない顔で、ムスアブはシャーディヤの前に壁のように立っていた。

 ムスアブは飛び抜けて優しいわけでもなく、死ぬほど冷酷なわけでもない、ただの主だった。


 そしてその後、シャーディヤは大宰相ムスアブが所有する奴隷として、実に効率的な教育を受けた。

 楽器の演奏法や外国の言葉など、様々な知識を身に着けながら、シャーディヤはより可愛らしく成長していった。

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