2‐4.帰宅

 女神を祀る儀式が終わると、神殿では夏至の日の祭の最後を締めくくる夜の宴が開かれた。


 儀式の出席者はそこで食事をしながら歓談し、宴が終われば用意された部屋で眠る。

 その後は、翌朝に帰る者もいれば、聖都の見学を続ける者もいた。


 ハルティナは一日だけ余分に泊まって所用を済ませ、二日後に供の兵士を連れて舟で王都に帰った。


 来るときには遭遇した賊は帝国とほとんど無関係だったらしく、帰りは特に問題はなかった。


 海と空の間にそびえ立つ、海辺の丘に建てられた金の瓦と赤い壁の王宮が舟から見えたとき、年若い側近の兵士は目をすがめてその荘厳な眺めを見て言った。


「聖都も美しい都でしたが、改めて見ると王都の眺めもやはり素晴らしいですよね」


 ハルティナは王都の美を認めながらも、素っ気なく答えた。


「王の住む場所なのだから、素晴らしくなければ国が困るだろう」


 真っ青だった聖都とは対照的に、王都は壁に赤土が塗り込まれた建物が多く、海の青に映えて王権の力強さを感じさせる。

 聖都よりも歴史は新しいが、代々の王が私財を投じて貿易の拠点として拡張しているこの港の都こそが、ハルティナが生まれ育った場所だった。


 ハルティナは王都に戻ると、配下の兵士を解散させて王宮にある自分の屋敷に帰った。


 先王の娘の住まいとして十分な格式のある広い屋敷の、白布の壁掛けが飾られた玄関には、留守を任せていた侍女が待っていた。


「お帰りなさいませ。王女様。物騒なこともあったようですが、ご無事とのことで安心いたしました」


 言葉とは逆にあまり心配はしていなかった様子の侍女が、濡れた清潔な布を器に入れて持ってハルティナを迎える。


 ハルティナはその布を受けとり、汗を拭った。


「ああ。こちらは特に、変わりはなかったか?」

「はい、お知らせが一つございます。つい先ほどですけれども使いの方が参りまして、王女様が戻られたらすぐに国王陛下の元へ参じてほしいとのことでした」


 普段から常に落ち着き払っている侍女は、淡々とハルティナに伝言を伝えた。

 国王であるディティロはハルティナの従兄弟であり、同じ王宮に住んでいるので、会って話すのはそう珍しいことではなかった。


「わかった。着替えたらすぐに行こう」


 ハルティナは頷き、侍女に着替えの用意を指示をする。


 侍女が用意したのは、格子柄が織り込まれた涼しげな絣布の衣だった。

 ハルティナはその衣に着替えて、国王の居館へ向かった。

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