第11章 天下惣無事編
第615話 鬼義重は、戦国の最後を派手に飾る
天正12年(1584年)5月上旬 常陸国太田城 佐竹義重
春の雪解けと共に会津の蘆名が滅びたかと思えば、今日は相馬が降伏したという知らせが届いた。すでに北の大崎、葛西、秋田も昨年のうちに下っていることから、この日の本でなおも織田の支配に抗うのは、この佐竹だけになった。
だが、その事が逆に俺を愉快にする。自分こそが最後の戦国大名なのだとその自負で……眼下でこの城に群がる豊臣勢に対して笑いが止まらない。
おっ!……あの様子なら、大手門は突破されたか!「豊臣の弱兵など俺一人で十分だ」などと言っていたが、真壁も口先だけの男だったか。まるで蟻のように兵たちが蹴散らされていくぞ。
「お屋形様……」
「何だ、山城守(佐竹義久)、それに禅哲まで……」
「真壁殿が討ち死にされましたぞ……」
「そうか。大手門が破られたから、そうではないかと思っていたが……やはり死んだか。それで、何が言いたいのだ。山城守?」
「この上は降伏なさいませ。佐竹のお家は平安の頃から続く源氏の名門。それをお屋形様の代で御潰しになられるのですか?ご先祖様に申し訳ないとは思われないのですか?」
「今更何を言うか。以前に潰す覚悟で抗うと、そう申したはずだが……?」
それにこの期に及んで降伏などして、どうなるというのか。限りなく恥辱を与えられた上で、この命は奪われて……そして、いずれにしても、この佐竹は潰されるのだ。それなら、華々しく戦って散った方が後世に我が名が残るだけマシというものだ。
「お屋形様!お叱りは甘んじてお受けいたしますが、この禅哲、すでに豊臣方と話を付けておりまする!降伏すれば、1万石の堪忍領を下さり、若殿に佐竹家の存続を許して頂けると……」
「なに?」
「ですから、どうか降伏のご決断を。今ならまだ間に合いまするぞ!」
はあ……何という事だろうか。これぞまさに獅子身中の虫。それが一門の重鎮なのだから、勝てるはずもないというわけだな。
「お屋形様……何卒!」
「……くどいぞ、山城守。事ここに至っては、覚悟を決めよ。佐竹は最後まで戦い、この戦国乱世の最後を華麗に華々しく飾るのだ!」
だが、その返事をすると同時に、この部屋に大勢の武装兵が乱入してきた。中には見知った者も多く居て……これには流石に俺も驚いた。なるほど、これが四面楚歌というものか。初めて味わったが、結構胸にくるものがあるな……。
「お屋形様……お覚悟を」
山城守はそれだけ告げると禅哲と共に後ろに下がり、安全な場所で成り行きを見守ろうとした。しかし、俺を舐めるなと言いたい。この程度の人数ならば、全員斬り捨てる事など造作もない事。すぐに迎え撃つために、小姓の又七郎から刀を受け取ろうとした。
「ぬ……又七郎、そなたまで裏切るか?」
「も、申し訳ございませぬ!平に、平にご容赦を!!」
はぁ……小姓だった又七郎は、俺の刀を抱えたまま何処かへ立ち去っていく。こうなると、俺に残されたのは脇差だけだ。さて、どうするか……。
「わかった。ならば、この脇差で腹を切ることにする。ゆえに……介錯を頼みたい」
「承知仕りました。佐竹家の御当主らしく、ご立派な最期を遂げられますよう……」
ふふふ、引っ掛かったな。誰がご立派な最期など遂げるものか。腹を切るそぶりを見せたことで近づいてくる介錯人から俺は素早く刀を奪い取ると、最後の反撃を開始することにした。
「お屋形様!このままでは佐竹のお家は……!」
「黙れ、裏切り者が!佐竹は、俺と共に滅ぶと申したであろうがっ!!」
この部屋に乱入した大勢の兵たちを山城守と禅哲共々斬り捨てた俺は、そのまま部屋を出て廊下に出た。そこには山城守に味方しているのか、それとも俺の味方なのかはわからないが、佐竹の兵たちがいた。
だから、皆に聞こえるように大きな声で命じた。降伏などせぬから、不満がある者はかかってこいと。そして、何人かが斬りかかってきたのでこれを返り討ちにして、もう一度皆に問う。俺に斬り殺されるのを選ぶのか、それとも、俺と共に豊臣と戦って死ぬことを選ぶのかと。
こうなると、我ら佐竹の強者共は、豊臣と戦って死ぬのを選ぶ。ふふふ、心地が良い。あとは、やれるだけの事をやって、佐竹の最期を飾るだけだ……。
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